後日談
後日談。
レティシアが大将と呼ばれていた件について。
私がさらわれた後、レティはベルク卿に啖呵をきり、町の議会で演説し、兵たちを鼓舞し、挙兵にこぎつけたらしい。
兵たちに具体的な指示を出したわけではない。最後の決め手も、ベルク卿の鶴の一声。
けれども確かに、レティの意思で兵を挙げたのだ。大将と呼ぶにふさわしい。
なにそれ、レティシア男らしすぎる。
立派に育って。お姉ちゃん嬉しい!
ちなみに、「男らしくてかっこいい」と直接レティに告げたら、頭をはたかれた。
なぜだ。
兵は兵で、超絶怒濤に可愛くまさに地上に舞い降りた天使とよぶにふさわしいレティシアに請われ、それはもう士気があがったらしい。
もう一つ付け加えるならば、教会のそばにある詰め所に勤務していた者達が声を上げてくれたのもある。可愛い可愛いみんなのアイドル、アリスちゃんをさらうなんて、万死に値すると憤慨してくれたとのこと。
嬉しいこと言ってくれるではないか。
もっと褒めてくれてよいぞ。
ユーリが参加していた理由については、単純明快であった。
ベルク卿が兵を出すのであれば、当然ベルク卿お抱えの騎士達も参加するし、神輿として血縁も参戦する。
ユーリは、ベルク卿の孫だった。
「隠していてすまない」とか言っていたが、うん。まぁ。
いいとこの坊ちゃんなのは知っていたし。
そもそも、あの現場にいた時点で、直感的になんとなくわかっていたよ。
後日、ベルク卿と直接話をする機会があった時に「お孫さんとレティをくっつけるつもりだったんですか?」と聞いた。ユーリと私達が、たまたま仲良くなる? どんな偶然だ。ユーリ本人は知らなくとも、誰かの差し金であったことは間違いない。
私のあまりにストレートな質問に大笑いし、ベルク卿は答えた。
「あわよくば、と思っていたがな。結果は上々。未来の女王の信も厚く、義理の姉との強い結びつきも得られた。何より、ユーリにはもったいないほどのいい女だ」
いい女と言われて悪い気はしないし、ユーリと引き合わせてくれたことには感謝の気持ちがないでもないが、手のひらの上で踊らされていた印象もあり、若干イラっとした。
よって、ゲシゲシと足を踏みまくることにする。
「ははは、孫娘というのは可愛いものよ痛いっ!? 儂の孫は男ばかりで嬉し痛いっ!? 近いうちに曾孫の顔も痛っ、痛いぞさすがに」
「痛くしているのです」
初めてできた祖父との関係は、円満に進みそうである。
「そうだ、アリス。聞くのを忘れていた。家族をいつまでも客間に置いておくのは心苦しい。部屋の希望はあるかね? 今のユーリの部屋付近は男臭くて駄目だ。ユーリと近い場所にするなら、ユーリの部屋も移動させる必要がある。となると、数日は欲しいのだが」
「レティの隣……いえ、レティの部屋でお願いします」
「却下だ」
「なぜ」
「曾孫の顔を、早く見たいからに決まっておろう」
このセクハラジジィが。
先ほど未来の女王という言葉が出たが、レティシアは「自分が王になる」と宣言している。
このままでは、レティとの婚姻やレティの子を狙う輩が後を絶たないだろう。これは、確定された未来だ。
そんな事態になるくらいならば、自分が王になってやるとのこと。
勉強が大変だろうし、辛い事も多いと思うし、何よりレティと会う時間が減って私は悲しいが、籠の中の鳥を選ばないのであれば、その選択は間違いではない。権力を狙って寄ってくる連中をどうにかするためには、相手より大きな権力を持つのが一番てっとり早い。一度戦乱を巻き起こしてしまった時点で、平穏に生きるという選択肢は残っていないのだ。
ベルク卿の後任を受けているとはいえ、ベルク卿以上の大貴族を相手にするのであれば、切り札が必要となる。たとえ本当に王座につかなくとも、その気になればいつでも王座に座れる者という切り札が。
レティの生き方を狭めるきっかけになってしまったのが非常に心苦しくて、毎夜毎夜うなされる日々が続いた。しかし、レティが「お姉ちゃんは悪くない! お姉ちゃんのためなら、王座の一つや二つぐらい軽すぎる!」と言ってくれて、あまつさえ自分がお姉ちゃんのことをどれだけ好きかを熱く語ってくれて、お姉ちゃんは嬉しくて嬉しくてうへへへへへ。
話がそれた。
女王になるべく勉強中のレティは、ちょくちょく部屋を抜け出しては私の所に来る。
そして、私とユーリの恋バナをせがむのだ。
私とユーリは、口には出しにくいが率直に言えばラブラブなので、その手の話には事欠かない。恥ずかしい話をして顔を真っ赤にしたり、興奮する話をして鼻息を荒くしたりしつつ、私はレティにいろんな話をした。
レティの方はレティの方で、私がびっくりするぐらいの恋バナストックを持っている。馬鹿な、いつのまに。お姉ちゃん許しませんよと言うと、レティは笑いながら言った。
「恋愛初心者のお姉ちゃんが私に勝とうなんて、十年早い。私は私で、最高の恋人を見つけるから。私を好きにならない男なんて、あんまりいない!」
ものすごい自信だった。
が、事実である。
姉のひいき目も、あるかもしれないが。
ああ、そうそう。肝心な事を言い忘れていた。
私は、ユーリと結婚した。
これに関して語り始めると数時間を要するため、詳細は省く。
情勢が不安定なこともあり、実際に結婚するまでは一年以上待ったか?
でもいざ結婚するとなると、そんな不満も消し飛んだ。結婚しようと言われて泣いたり、結婚式で泣いたり、子供が出来て泣いたり、子供が産まれて泣いたり、子供にお母さんと呼ばれて泣いたり……あれ、要約すると泣いてばっかりだな! 泣く以上に笑ってるぞ?
あ、でも一つだけ詳細を語りたい。
ユーリが本当に微笑ましいほどに可愛いくて、今思い出すだけで悶えるようなお話なんだ。
結婚式の前日、ユーリが私に(以下、数万字にわたってのろけ話をした上、どんどん次の話を始めたのでここで終わる)