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第6話_こんな所にいられるか、私は部屋に帰らせてもらう!

 

 

■西暦1515年*月*日(窓がないので、日付の感覚がない)

 

 

 私はあれから連れ去られてしまい、窓すら無い部屋に放り込まれた。以来、ずっとそこで過ごしている。殴られた傷、そして袋詰めのまま荷物のように運搬された痛みはなんとか収まったが、二度と御免こうむる。

 私を監禁している奴の言葉を聞くに、レティは無事、衛兵の詰め所に逃げ込めたとのこと。ペラペラとよく喋る悪党で、癇癪(かんしゃく)を私にぶつけつつも状況を洗いざらい話してくれるので、私の心の平穏には大いに役に立っている。

 

 レティは、ベルク卿の屋敷に保護されているらしい。

 ベルク卿といえば、あのセクハラジジィだ。その昔、母と秘密の会合をしていた男でもある。衛兵が教会の周辺にこれでもかと配置されていたのも、きっと彼の手によるものだ。

 

 おかげで、レティを守れた。

 ついでに私も守ってくれると非常に助かったのだが、贅沢は言えまい。

 あくまで彼が守りたかったのは、母とレティだろうから。

 

 

 私はぼーっと中空を見つめながら、思案する。

 

 私がここにいる事は、掴めているのだろうか?

 私が誰に連れ去られたのか、掴めているのだろうか?

 

 仮に掴めていたとしても。私を助けに来る人は、いるのだろうか?

 

 

 

 うーむ、この状況はいかんな。

 レティの無事を知れたので精神力は大回復したが、それでも徐々にすり減っている。このままここにいるのは、非常にまずい。

 

 

 

 というわけで、脱走することにした。

 ふははははは、無茶な増改築を繰り返した教会に住んでいた私を舐めるなよ!

 日常的に手入れが必要だったため、そこいらの大工顔負けの経験があるのだ!

 

 手始めに、この部屋からの脱出経路を作ることにした。

 この部屋。四方の壁のうち、二面だけが石造りである。

 残る二面は、あとから壁を付け足しましたと言っているようなものだ。

 となれば、改築した部分が弱点となるわけで。

 

 調べてみると、柱も筋交いもない部分が見つかった。

 以前は、扉でもつけていたのではなかろうか。

 弱点である。弱点は、攻めなければならない。

 

 都合よく、鏡台が接している部分だった。 

 鏡台をずらし、金属製の燭台を突き刺すこと数時間。

 音をたてないように注意したため結構時間がかかったが、人ひとりが通れる程度の穴を空けることに成功した。

 

 

 隣の部屋は埃だらけで、舞い散った埃を吸い込み思わずせき込みそうになる。

 危ない危ない。隣の部屋のドアの外には、監視がいるのだ。

 音を立ててはいけない。

 

 この部屋にめぼしい逃走経路がなければ、逆側の壁に穴を空けるつもりだったが……運よく、目星のものが見つかった。

 通気口である。窓のない石造りの建物なので、どこかしらにあると思っていた。

 

 ふへへ、これで外に移動できる。

 ただ、覗き込んだところ、中庭のような場所に通じている。

 ここから一気に脱出、とはいかない。

 高いところだったらどうしようと思っていたが、その点は大丈夫だったので安心した。

 

 今日はここまで。今の状態で部屋を空けるのは怖い。

 次は建物の構造を把握し、人の流れを把握する。

 太陽の光が見える場所にきたので、少なくとも私の部屋に人が来る時間帯は把握できそうだ。

 脱走の日は近い。

 

 

 

 

 

■西暦1515年*月*日

 

 

 私のいる建物は、砦だった。

 どういうことなの。想定よりビッグネームが絡んでるんじゃないの。

 チンピラを使う程度の貴族と思いきや、領地や軍隊持ちの大貴族なんじゃないの。

 

 とはいえ、平時の砦など廃墟のようなものだ。

 人の目が少ないのなら、むしろ脱走しやすいとも言える。

 この砦は山の谷に位置しているため、山の方に逃げたらそうそう追いかけられないだろう。

 町中だろうと野山だろうと、逃げることに関して、私は絶対の自信を持っている。

 

 

 脱出経路は、あと一歩という所まで詰めた。

 でも、その一歩が超えられない。当たり前だが、その一歩は最大の障害。

 ここは砦だけあって壁に囲まれており、外壁に設置された門を超えないと外に出られない構造になっているのだ。

 そして、さすがに門の場所には監視がいる。

 

 秘密の脱出経路でもあればいいのだけど。

 少々、いやかなり怪しいお墓を見つけたのだが、外壁沿いであり、見通しが良すぎて見つかる可能性が高いので調べられていない。

 

 別の手段として、濡らした布を貼り付け壁を上るという事も考えた。

 が、いざ試してみると、私の体力では不可能ということがわかった。

 やる前に気づけという話だが。

 

 

 ああ、もう時間だ。

 日が落ちる前に、部屋に戻らないと。

 日が落ちたら、小悪党の相手をしなければならないのだ。

 

 今日はここまで。

 また明日。

 

 

 

 

 

■西暦1515年 たぶん2月中旬

 

 

 今日着せられたドレスは、ゴテゴテしすぎていてろくに身動きもとれない。

 脱走計画はお休みだ。

 

 ……しかしこの服、装飾過多な割に、胸元だけはざっくり空いている。

 デザインした奴は、とんだド変態だ。

 おっぱいが最高の装飾品であると、理解しているらしい。

 

 

 

 

 

■西暦1515年 たぶん2月中旬

 

 

 レティシアを手に入れて、この国の王になるとかほざいている悪党。

 ベルク卿に悪事がばれている状態で、どうやってレティシアの夫になるのかと思っていたが。

 何のことはない。最初から、レティシアの夫になるつもりなど無かったのだ。

 レティシアに子供を産ませ、その子を傀儡の王とする腹積もりらしい。

 血統さえ確かなら、それ以外の問題など吹き飛ぶのだと、そう語った。

 

 ……は? ふざけるなこのロリコン野郎が!

 

 思わず激高して掴みかかったが、あっさり取り押さえられてしまう。

 この悪党、一応は武官らしく、私がどうこうできる相手ではなかった。

 それは、嫌というほど思い知らされていたはずなのに。

 もっと、隙を伺うべきだった。

 反省だ。

 

 

 

 

 

■西暦1515年 たぶん2月中旬

 

 

 相も変わらず、悪党は毎晩毎晩私の所にやってくる。

 楽しいのだろうか。楽しいのだろうな。

 

 今日は、悪党以外にもう一人来た。

 私に金的を食らったチンピラだ。

 なんでも私の体に興味津々だそうで。今日、私が何か一つでも悪党の言いつけを守らなかったら、金的のお礼をしてくれる事になっているらしい。

 下卑た表情で舌舐めずりする仕草が、絵に描いたようなチンピラを体現している。

 

 いや、絶対ハッタリだろう。

 この悪党は体に傷をつけるような真似はさせないし、自分以外が私に触れる事も許さないと思う。

 なんなら、この場でもう一度金的をお見舞いしてやりたい。

 

 

 

 

 

■(日付の記載がない)

 

 

 昨日は夜遅くまで起きていたので、体がつらい。

 一日も早く脱出したいが、無茶は禁物。

 

 女の子を誘拐するような下っ端チンピラが正義の鉄槌だの何だのを語るなんて、おこがましいとは思わないのだろうか。

 

 

 

 

■(日付の記載がない)

 

 

 レティに会いたい。

 ユーリに会いたい。

 こんな所、すぐに逃げ出してやる。

 

 

 

 

 

■西暦1515年 たぶん2月後半

 

 

 脱出の機会がない。

 何か騒動でも起こさないと無理だろうか。

 石造りでなければ、火事でも起こしてやるのだが。

 

 しかし完全な石製でもないので、燃やす物さえあれば燃え広がるかもしれない。

 そう思って、砦内を物色し油やアルコ―ル類を集めてみた。

 が、量が圧倒的に足りない。

 普段から物資を備蓄しているような砦ではないらしい。

 

 火薬壺を見つけた時には小躍りしたが、残念ながら中身は空だった。

 底にこびり付いた分だけは、一応集めておく。

 少量でも、爆竹程度にはなる。

 

 あと、山に逃げた後の事を考え、食料等を入れておくカバンを作った。

 素材は、大量にあるドレスから拝借。

 ふへへ、私は裁縫だって得意なんだぜぇ。

 

 

 

 

 

■西暦1515年 たぶん2月後半

 

 

 今日も今日とて、悪党がペラペラ口を滑らせてくれる。

 なんでも、ベルク卿の軍と戦争をするらしい。

 問答無用でレティシアを手に入れる、と。

 

 

 それを聞かされた時はレティが心配で、思わず悪党ぶっ殺しチャレンジをリスタートしたくなったが、どうだろう。

 それができないから、裏でこそこそしていたのではないのだろうか。

 

 とはいえ、状況はまずい。

 戦争をするということは兵を集めるということで、もしこの砦に兵が来たら逃げる機会など永遠に来なくなる。

 一か八かなど性分ではないのだが、やらねばならないようだ。

 

 

 

 

 

■西暦1515年 たぶん3月前半

 

 

 大 脱 走 !

 アリスさん、やりました!

 

 外壁沿いのあからさまに怪しいお墓を調べたら、見事に秘密の地下通路を発見。

 秘密とはいったい。

 

 なんて、ウキウキ気分で通路を進んでいたのだが。

 なんと、外に出る扉に鍵がかかっていた。

 

 ちょっと待って。

 非常時の脱出経路って、中からは開けられるようにするものじゃないの。

 非常時に、普段使わない鍵を持って出るの?

 馬鹿なの? 死ぬの?

 

 というか、扉ってなに。

 通路の途中にあるならともかく、隙間から日の光が差し込んでいるのを見る限り、どう考えても出口に扉が鎮座している。この砦は、山の谷に位置している。町中ではないのだ。扉なんてあったら「砦への通路がここにありますよ!」と言っているようなものではなかろうか。

 秘密とはいったい。

 

 

 手持ちの道具で開けられそうになかったため、やむなく部屋に戻……あっ、駄目だ。騒ぎになってる。

 お墓の隙間から外を覗くと、兵士達が走り回っているのが見えた。

 私がいないのがばれてしまったらしい。

 

 ひぃ。

 

 

 

 

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