悲劇なんかじゃない
前回のタイトルを全否定していく。
「・・・ハルト?」
え、と思った。
記憶が抜け落ちている。
なぜ俺は木の箱の中にいる?
白い布にくるまれ、体が思うように動かない。
「し、死体が動いたァァァァァ!!!」
はぁ?!
死体とは失礼な!!!
と、言いたかったが、声が出ない。
喉はカラッカラに掠れ、腕はおろか全身の肉という肉は痩けて削げ落ちていた。
「・・・ッ・・・ァ」
惨めだった。
何と表現しづらい辱しめだったろう。
これが普段なら泣けただろうが、皮肉にも全身乾いていた。
涙など一滴すら出ない。
唇を噛んでも血すら出ない。
痛かった。ただただ痛かった。
本当に、俺は死んでしまったのか・・・。
ふと、脳裏に璃瑠の姿が映った。
彼女を思ったら、余計に胸の奥がジクジクと、堪えきれないくらいに痛んだ。
「ハルト、俺が判るか?!」
声のする方を見る。
中年の男が一人、俺を見て再会を喜んでいるようだった。
しかし、俺にはその人が誰なのか判らなかった。
視界が徐々にだが、ジンワリと歪み始めたのだ。
何だこれ。
懐かしい。
熱くなっていく。
何かがあふれてくる。
こぼれ落ちていく。
したたる。
・・・涙。
それは間違えるはずもない、涙だった。
悲しかったのか、痛みがひどかったのか。
どちらにせよ、涙が流れた。
俺は泣いていた。
延々泣いていた。
その時まだ判らなかった俺の、実の父親の胸の中で、ただただ泣いていたのだった。
嗚咽が落ち着いてきた頃、男は俺に問うてきた。
「俺は路木咲羽大。お前は路木ハルトだよな?」
まだ少し浅く震える息を吸って、脳が勝手に紡ぎ出す言の葉を、息を吐くと共に発する。
俺の口はそして、『そうです』と言った。




