《暁の七日》四日目 高慢の日3
「俺を、壊してくれ・・・」
声の主は必死だった。
心の底から本気で、自分を壊せと、目の前にいる最大の被害者というべき青年に願った。
「俺が、そんなことできるように見えるか?」
しかしハルトは、願いを聞かなかった。
それどころか、手を差し伸べたのである。
「辛いのは誰だって同じはずだよ。
失うのは怖いし、痛いのはイヤだろうし。
・・・それでも、笑うのはいつの時代もそんな、辛いのを【受け入れた】人じゃないか?」
辛いのを【受け入れる】、か。
これまで会った人を皆、口をそろえて言った。
【乗り越えろ】、と。
だがやはり、コイツに関しては違った。
越えていくのではなく、受け入れると。
そんな綺麗事を、何を恥じることもなく本気で言っているのだ。
バカだ、と思った。
バカだが、誰よりも真っ直ぐだ、と。
「やっぱり、見込んだ通りだよ」
指を弾く。
と同時に【玉座】はその姿を変えていく。
「なんだ・・・コレ・・・?」
煙の中から巨大な、無慈悲なまでに巨大な影が。
「《レーヴァテイン》」
影がその眼を開く。
ギョロっとしたウサギ目がこちらを睨んだ。
剣のように鋭く、殺気だった眼力。
「喰らえ、それで終わりだ」
言葉では表せないほどの鳴き声が、壁に亀裂を走らせる。
ビリビリと震える空気に、最早【玉座の間】はその形を保っていられなくなった。
ミシッ。
それは確実な、そして冷酷な現実を告げる音。
ハルトの繋がれていた縄、その半分ほどが崩れた壁に埋まったのだ。
逃げられない、しかし逃げなければならない。
いくら暴れようと、その縄はハルトの体を締め付けるばかりで、一向に切れる気配はない。
そうこうしているうちにも、壁は降り注ぐ凶器となって頭上から襲ってくる。
・・・!!
グシャンッッ。
部屋だったその場所は最早完璧に崩壊し、それを不要とみなした《ユグドラシル》は、【玉座】を世界から切り離そうとしていた。
魔力と意思を持った不思議な樹の支配するこの世界に、《主人公補正》なんていう便利なものは存在していない。
ハルトは最早、次元を越えて廃棄されるばかりである。
ハルト自身もまた、うつろな意識の中で諦めていた。
(俺がいなくても、別の誰かが)
(それこそ和沙がやってくれるさ)
(世界を取り戻す英雄譚の続きを)
そうさ、俺は英雄だなんてデカイ仕事、やる柄じゃあないし。
はなからそんな壮大な物語の主人公なんか、なれるわけなかったんだ。
そんなのになれると思ったのが、高慢だった。
絶望が脳内を越えて渦を巻く。
意識・無意識を越えた、どこか遠い境地でグルグル、グルグルと廻る。
黒い闇を放つ渦は、あたかも色彩の逆転した銀河だった。
・・・?
なぜ俺は銀河をみている?
ハルトは不審に思って、一つひとつの星を見ていくことにした。




