とある街にて
「・・・なあ、知ってるか?あのウワサ」
「モチロン。巫女の格好した《鬼》のヤツだろ?」
それそれ、と相づちを打って男の一人は笑う。
《鬼》が現れてから、この世界はみるみる狂っているように感じる。
僕はそんな狂いを《不具合》と仮称している。
時おり死人が甦ったり、滅多に人前に姿を現さない《飛竜》が現れたり。
最早世界のバランスがどうこうなんてレベルで、ものを言えないほどに狂ってしまった。
さっき僕の隣で話していたヤツらも、会話の内容はその《世界の不具合》の一つをバカにして笑っていたが、彼ら自体、既に脳が《不具合》に侵されたものだ。
僕は旅人。名前は愛する人を失った時に棄てた。
一部の人はいまだにかつての名である《和沙》と呼ぶこともあるが、もうその名を知っている者も少ない。
何せ皆、《不具合》に巻き込まれたのだ。
今日も憎いほどに、空が青い。
深々とした濃い青。
遠くに空を翔ぶ巨大な影。
・・・影?
「《飛竜》だぁぁぁぁぁぁあッ!!」
隣にいた男らが恐怖に腰を抜かしながら、走り逃げ惑う。
煩いな、とイライラしながらも、意識は《飛竜》の方に向いていた。
「お前のせいで・・・」
静かな平和が、こわれちゃったじゃないか。
無感情に、機械的に。
静寂を害する命を屠るのが、僕の仕事。
僕にとって静寂こそが平和であり、喧噪は害悪だ。
人々が平和を求めるのなら、僕はその為に完璧な静寂を生み出そう。
それが例え、人だろうとも。
先ほどの男らが僕の殺意に気付いたのか、こちらを向いて怯え始めた。
僕は間違っちゃいないだろう。
お前らも平和なのが善いのならば。
「しばらく黙ってよ?」
ザッと口角を斬り、声にならない悲鳴を挙げる男らに、僕は満足していた。
そうだよ、それが正しい悲鳴の挙げ方だよ。
と、《飛竜》がグルルとのどを鳴らして、僕を威嚇してきた。
なんだよ煩いな、教養ないなぁ。
「次はお前だぞ、《オオトカゲ》」
黙れないなら斬ってもいいよね?
口は災いを生む。災いは不幸しか生まない。
誰も不幸になりたくないだろう?
なら何も口にするな。
出来ないなら、安い平和なんて求めるなよ。
だって、僕が与えられるのは平等な平和じゃなくて、完璧な静寂だもの。
・・・ズバシュッ。
《飛竜》はその体を地に落とし、絶命した。
ドォォン・・・。
また騒音が鳴る。
イライラがまた、腹の底で煮え始めた。




