家族
三人で大聖堂の外へ出ようとしていた。
外へ出ると、若干緩和したとはいえ雨が降っている。傘が必要なくらいだ。
停電も、直っていないから外はとてつもなく暗い。また、人がそばにいるというのに京介は宇宙の真ん中に身投げしたような感覚を覚えた。
ただ、暗すぎて怖い。海外では、停電が起きてから直るのに時間がかかる。
「傘、持ってきてないの?」
聞いたのはアルルカン。どうしても京介には不思議だった、仮にも昨晩自分を殺そうとした、狂気的なまでに、そういう相手だ。でも、聖堂の雰囲気に任されて優しさを今の時間の主体にしてもいいのかなと思う。
アルルカンの言葉は、どこまでも優しく聞こえる。もしかしたら、夢の弊害だったかもしれない。
「バーカ、バーカ。」
京介は突如言った。そうしなければ、何もかもならないと思った。それにアルルカンは反応する。
「私の店、行ったんでしょう?傘、あったでしょう?持ってきてないの?」
「ラケルが雨に濡れたがってた。傘は、見つからなかったし。」
聖堂の扉の外で、三人のうち二人は話している。雨に濡れていたけれど、気にしていないようだ。
本当に、雨の中へ行くために傘を持っていこうという考えは京介の中で湧かなかったのだ。
「そ。」
アルルカンは素っ気なくて、何を考えているのか分からなかったけれど、京介を傘の中に入れてくれた。一応京介はアルルカンにありがとうと、言っておいた。アルルカンは、微妙に頷くだけだった。
三人は歩き始めた、アルルカンの香水屋に向けてだっだ。京介は、よくこの街の道のことは分からないから、ただついて行くだけだ。
ラケルは、傘に入った二人の目の前を走って行く。跳んだり、跳ねたりしている。雨を、すごく喜んでいるようだ。
京介の感じたラケルの肌の感覚、脆い感覚、それに雨はいとも容易く溶け込んでいった。
踊りでも踊っているよう。ラケルは、確かに雨を喜んでる。それが太古の記憶を含んだ南極の風であるかのように、誰かの涙であるかもしれないように。
その中で踊って、時々止まっては空に向かって口を開ける。
そんな踊りの中、
「あ。」
京介とアルルカンは同時に声を発して、顔を見合わせる。
ラケルが転んだ。
ラケルはゆっくりと立ち上がると、京介とアルルカンが相合傘をしている方へ向いて笑い出す。京介たちも、笑った。二人は、同時に笑った。
顔を見合わせると、笑い止む。アルルカンと京介の掛け合いである。
ラケルの顔には少し、泥が付いていた。屈託のない笑い顔は、敵同士であるはずの京介たちをも笑わせたのである。
ーーー
香水屋へたどり着くと、目を丸くするアルルカン。
散らかっていた。
「アルルカンさん、ごめんなさい…」
言い訳をする京介は、今日いやに素直だ。転生する前の京介を考えた時、ごめんなさいと言うなど誰が想像できたろう。
「そ。」
アルルカンは、ただ呟くだけだった。
「ねぇ、手伝ってよ…」
すぐに、京介とラケルの散らかした香水店の掃除に取り掛かったアルルカンは、そう呟いた。彼女は屈んで、雑巾を床にかけている。
アルルカンは随分、昨晩とは違う感じの女性になっている。
それを聞いて京介も掃除に、一緒に取り掛かった、
「アルでいいよ。」
京介は、アルルカンの言葉を聞いた。雑巾掛けの途中だ、お互い、お互いを見ることがある。しかし、見つめてもサッとどちらかが床の方へ目を向けてしまうので、目があうことは決してなかった。
手が止まると、目がどちらかからどちらかへ向く、しかしその向けられたどちらかは目を背け、掃除に勤しむふりをする。そんな風で、アルルカンの香水屋の掃除は進んだ。
ラケルは、今度は本物の人形を抱いて外を眺めている。街灯に照らされていない、真っ黒な夜の中の真っ黒な雨粒というのは珍しいものだ。
あらかた掃除を終えると、これはすぐに終わったけれど、ラケルを連れて二人は奥の部屋へ入っていった。店の暖簾の奥の、さらに奥があったのだ。重い鉄の扉があって、その中へ入ると複雑な香水の匂いはしない。ラケルはその扉を開けられなかったので、京介が手伝ってやった。
香水点の風景とは違って、嫌に生活感が漂っている。
独立した、部屋だ。
「お風呂、沸いてるから…」
「風呂なんてメキシコにあるのかよ。不思議だ、あんたmp風呂も。」
そう言おうとしたのを、京介はやめた。ただ、純粋に風呂が沸いているということだけ聞いた。
「ラケルのこと、入れてあげて。」
もちろん、謎の容器からラケルを取り出した時、京介はラケルの裸体を見ているのだから不思議なほど、その言葉に嫌味を感じなかった。台所へ向かうアルルカンの傍、京介はラケルを抱いて風呂場へと向かった。
なんだか、風呂場からは暖かい空気がしきりに漏れている。
家族みたいだ、この場所は。




