惚れ薬を作ろう!
「惚れ薬を作りましょう!」
マーゴが突然言ったのは、放課後のこと。迷走、迷走…
「は?い?」
みゆきと悠、マーゴの三人で集まっていた時のことである。悠がまず疑問を投げかけた。みゆきはまだ、マーゴへの疑問符を払拭できないでいるらしい。だから、怪訝そうな目でマーゴを見つめただけだ。
「だから…惚れ薬を!」
「なにそれ、面白そう。」
「いや!面白いんですのよ!大好きな彼の心をハートキャッチ!」
「マーゴちゃん…」
マーゴは変なポーズをとった。
卍。みたいな体勢をしている。
悠は棒読みで言う。また、あからさまにみゆきは痛いやつとでも言いたげだ。しかし、どうもふざけるなとは、マーゴの魔法を朝見た後では言い切れない。
マーゴにとっては、みゆきとの微妙な空気を緩和するための一生懸命の策だ。
「ハート、キャッチ…?」
間。
マーゴは額から汗を垂らし始めた。実は、屈辱に感じている。
マーゴ以外の二人は戸惑っていたが、やがて放課後を盛り上げるための発言だとでも考えたのか、乗る。
「よっしゃ!作ろう!惚れ薬!」
「作って、みちゃおー!」
なんだかんだで三人は、強引に意気投合した。
悠は、彼女の、その相談をするため旧校舎にある部室へと案内した。
ーーー
「はい、生物研究会の部室。」
悠が説明する。
部屋は、エタノールの、化学の液体っぽい匂いを充満させている。また、ちょっと生々しい生物の匂いもする。
古びていて、部屋は鉄製だったけれどさながら、牢屋のようだ。部室は旧校舎の屋上より一つ下の階、三階の隅にあった。
三人は、鉄の机を囲むように、椅子に腰掛けた。
「さて、まずは誰に使うか相談しなければですわ…」
「あのさ、マーゴ。材料は?」
「あ。えっと、エタノールに唾液を入れ、マヨネーズを混ぜ込んで煮込むのですわ。あ、ちなみにダシに使う昆布、あれば枚数に応じて持続時間が増えますのよ。」
「エグっ!まあ、コンロもあるし。マヨネーズもなぜかそこの冷蔵庫にあるけど…エタノールは常備してるし…」
部室の隅にある大きな水槽では、アロワナが泳いでいた。こちらを見ているようだ、みゆきはそれに釘付けになっている。不思議そうに見つめ、時々目があったと感じてはハッとする。
三人で部室を回り、マーゴの入った材料を揃えるとまた席に着く。
「それでは…使う人ですが…せー、のっ!」
「慎司っ!」
「胡桃君っ!」
「あ、ちなみに私には恋なんてする時間ありませんでしたので、助力するだけですわ。」
ジト目。マーゴに向く。
「ところで慎司さんって…?」
「きのう私の家に泊まるってなってた人だよ、マーゴちゃん。目の見えない男の人。」
初めてマーゴは、盲目の男の名前に触れた。
三人は、流れに乗って調理に入った。出来上がる、茶色い液体。
「あのさ、これって本当に惚れ薬になんの…?普通ピンク色とかさ。」
マーゴがぶつぶつと唱える。
出来上がり、あぶくを上げている液体はきちんと綺麗なピンク色に仕上がった。強化用の昆布は、入れることができなかった。
「マーゴちゃん、これで持続時間は…?」
「五分でしてよ。その間に愛の告白を!」
みゆきと悠はそれを部室に備えてあった瓶に詰めると、出て行く。マーゴも、視察のために後を追った。
なんとか、マーゴはみゆきとの微妙な関係を緩和することに成功したようだ。
ー白川悠と盲目の男の場合ー
夕暮れの帰り道。
悠は盲目の男の腕を持ち、誘導するように歩いている。
「アー、喉乾いたなぁ?」
「そう?だね…うん、僕も。」
「あ!私が買ってくるからここで待ってて!」
悠は走り去った。
「なんだ…いつもなら一緒に自販機まで行くし…僕の欲しい飲み物分かってるのかな。」
盲目の男は、いつでも奇抜な飲み物を買うのが好きだった。だから、いつも買う飲み物が違う。けれど、今回はもしかすると悠が自分の気に召す清涼飲料水を買ってきてくれるのかもしれないと考えることにした盲目の男である。
ひぐらしの声がゆっくりと響く中、彼は自分の持っている棒をアスファルトににリズムよく、軽く叩きつけながら待った。
しばらくして、悠が帰ってくる。
「あ、お待たせ!今日ね、すごいのあったよ…紫芋ジュース!しかも炭酸入り!」
「あ、ああ、よくそんなのあったね…」
もちろん、ただの惚れ薬の入ったコカコーラである。
盲目の男は、飲む。
「あ、これは結構美味しいかもしれない。」
「そ、う…?」
「悠?」
「は、はい!」
一分経った。何もない。一連の会話から、また二人は歩き始める。しかし、何も起きない。
なぜか、盲目の男に惚れ薬の効果はなかった。悠は、マーゴを疑った。
ー田代みゆきと胡桃の場合ー
「あの、胡桃君!これお詫び…!」
みゆきは、一本のMAXコーヒー、ペットボトル版を胡桃に手渡した。駐輪場でのことである。
「え、そんな、いいよ…今日は僕も悪かったし…」
「ううん!受け取って!ね!」
みゆきは必死だ。
「わ、分かったよう…ありがとう。僕、コーヒー好きじゃないから母さんにでもあげとくね。」
自転車に乗り、胡桃は去ろうとする。
「いやいや!今飲んで!胡桃君の喜ぶ顔、みたいなあ!?」
「こ、怖いよ!」
みゆきは前から自転車を押さえつけて吐き出した。
しぶしぶとキャップを胡桃は開ける。
「あれ、これキャップ開いてる…」
とは、胡桃はみゆきの顔を見ては言えなかったので、飲む。
「これで、いい?うん、ありがとね。それじゃあまた!」
自転車がまだ動かないのは、みゆきがまだ手を離さないからだ。
一分、問答が続くが依然として動かないみゆき。
突然胡桃はみゆきを跳ね除け、全速力で自転車を走らせた。なにか、走りながら叫んでいる。みゆきの方は唖然としながら走り去る胡桃を見ていた。
ーーー
マーゴは一部始終を見た後、考えた。
惚れるとは、きっと純粋な感情ではなく複雑な伏線の上に成り立っているものだから、やっぱり世の中うまくいかないよね。と。
マーゴは密かに微笑んだ。さて、明日はどんなお叱りをみゆきと悠から受けるものか。




