藤の町。出会いは突然に
藤の町。屋上でマーゴ・ジニエステと美希と呼ばれる少女が戦闘を繰り広げた後の屋上の風景である。
一人の少女が傷だらけの美希を抱き上げ、なにか不謹慎なことでもしているように辺りを見回し、去って行く。
胡桃はもういなかった、傷のない彼に関しては、眠りから覚めた時どこかへ行くことができたのだろう。ただ美希の方はその限りでなかった。
美希が次に目を覚ましたのは、古本の匂いが充満する書庫のような場所だ。自分が、本をとるための足場のようなものに横たわり、眠っていたことに気づく。
起き上がると、ベッド代わりに三つほど並べられていた踏み台が、転がって床に落ちる。
「つ…つ…」
その音で、もう一つの踏み台に腰をかけ、老眼鏡のようなものをかけて読書にふけっていた少女も美希に気づく。
少女と言っても同学年、高校一年生であると分かる制服を着ている。肩まで伸びた真っ直ぐな髪の毛に、澄んだ目をしている。本の中に没頭しているようだったが、美希が床に落ちるとすぐにこちらを向いた。
「あ…!あの、大丈夫ぅ…?」
「なわけないでしょ!こんなに傷がつけられて…!マーゴ・ジニエステ…!」
「あ!あ!ごめんなさい!」
美希は確認して、そばにいた少女に見せるために自分の傷跡を探した。しかし、それはどこにも、一つも見つからなかった。もしかすると、夢だったのかもしれないと割り切るところだったが、小窓から差し込む夕日の色に確かに時間は経っている。と、考えて割り切ることはやめた。
目の前の少女に聞いてみることにした。やっとのことで美希は、目の前にいるのがマーゴでなく他の人間だと気付いた。
「あの…私も取り乱して悪かったんだけどさ、私、屋上にいなかった?」
美希は床の上に尻餅をついたまま、俯きがちな視線でいる。
「ごめんなさい…!私、あの、あなたを屋上から連れてきて…傷、治しときました。私も驚きましたけど…痛くないですか?頭は?変なところは…?」
少女は読んでいた本を投げ出し、美希に接近する。
「いや!いや!ないから!あんたが助けてくれたみたいだね…ありがと。」
その言葉を聞いて驚いたようにした少女は、老眼鏡みたいなものを外すと、後ろを向いてすすりなき始めた。
「は!?え、いや、なんか言っちゃった!?」
美希が追求する、なかなか焦った調子だ。
「ううん…ううん…私、人に感謝されたことなんてなかったから…嬉しくて…」
「ってか、大丈夫だったの?あんたの方は…私、血とかも出てたでしょ。普通救急車とか呼ばない?」
お互い、戸惑っている様子だ。少女の方は何か知っているようだったが、美希の方は何が何だかわからない。
すぐに泣いていた少女は美希の方へ振り返った。真っ赤な目をして、美希の肩を両手で力強く掴む。
「私は…私は…あなたに出会う運命だったのです!
学校に混在する能力者、傷ついた少女を救う私…ああ!この学校には闇があるのですね!」
「…は?」
「安心してください!私も能力者…癒しの能力です。んだからあなたは今生きてるんです。
そして二人は高校生、しかし世の中を脅かすまでの悪に!悪に!立ち向かっていかなければならないという、悲しい運命を、背負って、いるので、す!!」
「い、いや。私、演劇部の勧誘とかなら遠慮するよ…」
そういってそそくさと退散しようとする美希を、またもや少女は引き止めた。
美希の腕を握る力が、より一層強くなっている。しかし、扉の近くまで来た二人、突然扉が開く。
「あのー、書庫利用の際は、カウンターの職員に言ってからにしてくださいよ。あ、深谷さん。何度目なんですかもー。やめてくださいねー。」
ここは学校の図書室。司書の女性が無断で書庫を使っていた少女、深谷というのを注意にしに来たのだ。注意が終わって司書はすぐに書庫を出る。
深谷と美希はちょっと、顔を見合わせて笑い出す。
「あんた!はは…!無断で使ってやんの!度胸あんじゃん!血まみれの私を担いでここまで来たってわけ?うん、うん!私、渋谷美希!」
「あ、はは…!はい!ちょっと、頑張ってみました!私、深谷緑!深谷緑です!」
こうして、男爵と少年のために働こうとする少女、渋谷美希と藤の高校においての能力者、癒しの能力を持つ深谷緑は出会うこととなる。




