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異世界王女がやってくる!  作者: 橘麒麟
One Summer's Day(記憶の肖像)
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昔話。または次のお話。(罪の記憶は希望の記憶)

夜中、京介は約束通りアルヘンティーナとの会合を果たした。昼間はやはり、ローラに用事があるというので少し観光を一人でする。ちょっぴり、昨晩見た夢でアルルカンという香水調合師のことが気にかかっていたが、そこへ行く勇気は起床後わかず、気の向くまま歩き回った後地下の、カーバンクルの繭が無数にある部屋に来たのだった。


すぐに、アルヘンティーナが来るだろう。カーバンクルのことは、夢のことを考えるとあまり繭でさえ見たくなかったが。


やがて、アルヘンティーナが昨日と同じ服装のまま姿を現した。今まで姿を消していたようだ、明かりが灯るように彼女の体が視界に入る。


「喜助…?来たの、真面目でいい心がけね。」


「京介だよ、アルヘンティーナ。」


「そうだったっけ?そう、そうなのね。ごめんなさい。」


アルヘンティーナはしきりに、警戒しているのか京介の顔を近くで見回しにかかった。ちょこん。ちょこんと動く顔や背伸びする態勢が可愛い。


「どしたの、きょーすけ?なんだか気持ち悪そう。」


「おっと、バレちゃった?」


京介は、しきりにこのドーム状の洞窟、部屋へ来てから昨日の夢のことや無性に感じている懐かしさのことを考えていた。自分の記憶を取り戻すことは、やはり優先事項の入っているから、そういうことを感じて考えるのも無理はないのだろう。


京介は自分のことを話すのが先か、アルヘンティーナの潜入報告が先か、少し意地悪そうに聞いた。


「きょすけの話を先にして。」


そう言われた時、アルヘンティーナはまだ小さな子供だということを再認識した。仲間の細かい内部事情までないがしろにできないのだろう、そこが可愛いと思える要因だったし、少し面倒だなと思うけれど、それこそが一番今の京介にとって大切にしたいところなのだ。

それがなければ自分の記憶は戻らない、そんな風な感覚が胸の中で尾をひくように引っかかっている。


「昨日の路地での一件、穴が空いたやつ。あれの原因と昨晩会ったんだ。夜、眠った時そいつの夢を見た、自分が恋人みたいにそいつと話してる風景を。」


「アルルカン…!あいつね、そうなのね、やっぱり。でも恋人みたいに話すって?それで悩んでるの?」


「いいか。変な話なのは分かってる、それに大人の事情もある。その上で話す。けど、俺はアルルカンって奴と前世で会ってるんだ。それが記憶喪失の前の自分なのかは分からない、自分が本当にどういう人間だったのかも分からない。でも、奴のことは知ってる。

それが、不思議で、苦しくて、しょうがないんだ。

とりあえず、路地に穴を開けたのはアルルカンだよ。それでいいんだよ。」


京介は、子供相手に自分の心の内を正直に話してしまったことを悔やんだ。どれだけアルヘンティーナという少女が舞踏を踊れて、悪の組織について偵察までできていたとしてもまだほんの子供だ。それに自分の考えを吐き出してしまうのは醜い。

京介の口調には、そういう葛藤も現れた。


「あいつは私をずっと、殺そうとしてるわ…よく、胎児の標本やら獣の標本やらを大事そうに見てる変な殺し屋よ。だから、変で悪い殺し屋よ。」


「そうじゃない!」


京介は突然口走った。アルヘンティーナは少し、身じろぎした。京介の突然の怒りに驚いた様子だ。


「すまない…」


「いえ、いいのよ。いつものことじゃない…」


アルヘンティーナは何か理解したように、目をそらした。


「でも、昨晩俺が言ったように、打開策はあるはずなんだ。アルルカンも、救う方法がきっとあるはず。彼女は何かを求めてる、つまり記憶の形を。俺はそれを感じたんだ、だから、救える。それが分からないとか、あるわけないと言って人を傷つけるしかないというのは、寂しい。」


「それも分かってるわ。人を救うのは、他の人を殺したりすることじゃないって、言いたいんでしょ。」


「ああ。なにか、よく分からないものの形を添えてやるだけでいいんだと思うよ。」


「それじゃあカーバンクルの心はどうなるの。って、言ってやりたいわ。でも、あなたの言う通りにしてみる。そうしてみたいと今は思うわ。」


アルヘンティーナは顔を上げた。


「アルヘンティーナ、それで何が分かった?」


「いいことね、私の気持ちなんてそっちのけ。昨日とは違って、今日はモテモテの王様みたい。でもいいわ、殺し屋、アルルカンの居場所。そして計画の全貌。それが分かったわ。

ここの街の長は、アルルカンをうまく利用してこの街を全て、十分に儲けた後消すつもりよ。彼は過去から来た人間なの、だからこの世界の資源を乗っ取って、過去に戻った後それを使って大儲けしようって考えてる。

アルルカンの心と、能力を乗っ取ってね…だから、あなたがアルルカンを救えるんだとしたら、この街を救うことにもつながるわ。それだけは認めてあげる。」


「チャンスは、くれるんだな?」


「いいわよ、好きなとこへ行きなさいよ。あなたなりに考えたんでしょ。」


もしこの街の長の計画を、アルルカンを説得することで阻止できたのだとしたら今度利用されるのはローラ・ジニエステだ。しかし、アルルカンという女にはローラを止めるだけの能力がある。

考えた末、アルルカンを説得することが今の状況において最善の一手だということが分かった。街の長の計画の頓挫、そしてローラへの抑止力。両方が成功すれば達せられる。

それができなければ、自分たちの身の安全を保障することしかできない。それで、次の一手へと儚い希望を繋ぐまでだ。それでは堂々巡りだと、なんとなく京介は考えた。

なんとしても、アルルカンの元へ行って交渉をする、自分たちの利益になる方向へそれを進めなければならない。


「大丈夫。全て終わったらカーバンクルたちのことも救ってみせるから。」


「馬鹿ね、昔話でそう言った王様がいたわ。でも、最後はカーバンクルたちを虐殺するのよ、世界を救うために。そしてカーバンクルの血で文明は発達していくんだわ。

そんな、ただの昔話…」


すぐに走り去る京介の背中に、アルヘンティーナは言葉を投げかけた。それで、京介はまた鮮明に昨晩見た夢を思い出した。

カーバンクルの死体、香水の匂い、アルルカンの顔。


考えながら、古都の地下道を走り抜けた。

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