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異世界王女がやってくる!  作者: 橘麒麟
One Summer's Day(記憶の肖像)
50/70

あなたの心に超新星爆発

夏の青空にチャイムが響き渡る。あの、誰の記憶にもある音だ。たまに別の音のなる場所もあるだろうけれど、この学校は至って普通。


廊下を歩くと、やっぱりマーゴにとって一度戦闘を繰り広げた場所だからなんとも言えない気持ちがある。そんな気持ちを抱えながら、歩いた。


「あ!胡桃君!」


みゆきが、すれ違った同学年の男児に挨拶をした。彼は挨拶を返さずに、顔を下へ向けてそそくさと立ち去ろうとする。前髪の、目の下までかかった小太りの男児だ。


「よ、胡桃。みゆきが挨拶してんじゃん、おはようくらいさ、言ってよね。」


今度は悠の方が肩に手を回し、挨拶をした。胡桃君と呼ばれた男児は驚いて鞄を落とす。鞄の中からは大量の古書が散らかされた。本とは別に、古びたレコードもある。マーゴはそれに、少し目を見張った。見かけによらず、なかなか趣味のいい男児だなと感じたからだ。

マーゴは屈んでそれを拾う。胡桃もささっと身をかがめて、集めだした。マーゴよりも早く、彼女に自分のものは触らせまいというふうに拾っていく。


リパッティのバッハ。これには特に、マーゴが興味を記した。それもマーゴが手にとって眺めるより先に、回収されてしまったが。


「これ…最後のリサイタルのものですよね?その、あなたが最後に回収された一枚のことですわ。」


「き、君たちには分かるもんか!特に白川みたいな野蛮な女には!」


胡桃は落としたものを回収し終わると、すぐに撤退した。三人とは別のクラスの教室へ入っていく。

みゆきと悠はため息をついた。


「今の彼はなんでしたの…?」


「ああ、胡桃ね。なんだかんだで気に障るやつ、簡単に言うといじめられっ子。親父が超絶イケメンな音楽家なのに、なんか冴えないやつ。」


「あ、でもとっても優しいんだよ…私、学校の兎や金魚が悪いことされそうになってるのを庇う彼、見てたし…その、何もできなかったけど…虫は蚊でも蜂でも殺さないし。ただ不器用で。」


「ところで胡桃さんはくるみって苗字ですか?」


「いんやー。く、る、み。くるみじゃなくて上げ下げ上げ、のくーるーみっ。で苗字。」


悠が説明した。みゆきがしゅんとしていると、悠が肩を叩く、三人は自分の教室に入ろうとする。

みゆきは、床に残っていた一枚のCDを見つける。


「ブラックマーケット…?どこかで聞いたことあるような…昼休みに届けてあげよ。」


独り言になった。


先に教室に入ってしまったマーゴは胡桃というのが持っていたレコードから、もしかすると彼もブラックマーケットの人かもしれないと疑っていた。考え過ぎと言われてしまえばそれまでなのだが、やはり気にかかる。多分、芸術的な趣味を持つ人間は夜のマーケットに招待されやすい。


もちろん、もし革のカバーがかかっていて、みゆきにその香りが鮮烈な印象を残したCDの一枚がマーゴの目にも入っていたのなら、それは確信となるのかもしれない。


ーーー


昼休みに入った。この学校の昼休みは四十分。


みゆきは胡桃のいる教室へと向かった。しかし胡桃はいない。机は空っぽだった。横にいて、スマートフォンをいじっていた女子に質問をする。


「あの…胡桃君は?」


上目遣いでその女子高生はみゆきの方をみた。知らない人間から話しかけられて戸惑っているようだ。


「おくじょー。呼び出しかかってんの。」


みゆきはきちんと、それが誰からの呼び出しで、屋上ではどんなことが起きているのか理解した。すぐにみゆきは礼を言うと、駆け出した。


走って行って、息を切らしながら屋上の扉を乱暴に開けると案の定。ボロボロになった胡桃と女子生徒が三人見受けられた。その内二人は胡桃を囲うようにして立ち、一人はフェンスにもたれかかって目をつむっている。

みゆきももちろん、こういうことの存在は知っていた。こんなことは、どこの学校や社会に行っても、形は違えど存在するものだろう。


みゆきはそれを知っていても、何もしてこなかった側の人間である。


「あんた…どうして来た?」


きっと目を見開いて、枠の外にいた一人の女子生徒がみゆきに投げかける。


「あんたは部外者だ、ずっとそうだった。それを選んできた人間だろ?一時の気の迷い…で、片付けて欲しかったら十秒待ってやる、そのうちに後ろの扉から出て行って、扉を閉めなよ。」


みゆきの体が固まった。こういう現場に進んで出て行くというのは、異世界へ行くのとも同じような気分になる。自分の感じてこなかった、拒んできた空気が身を包んでいく。


そうだ、自分はcdを返しに行きたかっただけ。だから、みゆきはそっと前を向いたまま、後ろのドアのノブに手をかけた。


「早く逃げちまえ。」


そう言ったのは胡桃だった。


「君はここにいるべき人間じゃない、手を傷つけたら絵だって描けないよ。これ僕と彼女らの問題、僕が向き合わないとね。」


横這いのまま、笑顔で胡桃は投げかけた。胡桃はこういう場において、惨めな人間には成り下がっていなかった。

みゆきはそれで決めた、自分はここにいてもいい人間なのだと。もしかして、惨めな人間に手を貸すのは醜くて同情ったい行為なのかもしれない。しかし、今は違う。ちゃんと、みゆきは握ったドアノブから手を離して、みゆきを睨め付けていた女を睨め返してやった。


胡桃は取り巻きの女二人に、蹴りを入れられる。突然の笑顔と、発言が災いしたのだろう。くすくすと二人は笑う。


「あのみゆきじゃん、お前さあ、カッコつけてんじゃねえよ!」


「そうそう、ははは。みゆきとかいう女もさ、気に食わなかったんだよねえ。子供っぽい絵描いてさ、なんかメンヘラって感じ?キモいんだよねえ。」


女二人の片方が、そう言って胡桃の鞄の中からレコードを取り出し、折った。

みゆきはまた、その言葉を聞いて立ちすくむ。


「マジでレコードとか時代遅れ。」


「いいや…田代さんの絵は素敵だよ…キモいけど、僕も見てた。好きだった。リパッティのリの字も分かんないようなお前らが見たって、分かんないだろうけどね。田代さんの爪の垢でも煎じて飲めばいいんだ、次元が違いすぎて腹壊すのがオチだろうけどさ。」


また胡桃は笑った。

女二人は気を悪くしたようだったが、もう一人外にいた女が手をあげるのを止めた。


「あんたら、もういいよ。惨めだから下がってなよ。」


「は?美希、何言ってんの…」


「惨めだって言ってんの。どんだけ殴ったって、そいつにあんたらは勝てないよ。私がやる。」


美希と呼ばれた女が胡桃の方へ歩み寄る。女二人は後ずさった。その時、みゆきが飛び出そうとする、それを後ろから突然出てきたマーゴが止める。


「頑張りましたわね…もう大丈夫ですから。」


「マーゴちゃん…でも…!」


「喧嘩は、私、強い方でしてよ。日本みたくぬるい国で育った女性より。」


マーゴと美希という女、胡桃、みゆきが四人で向き合う形となった。


まずはマーゴと美希が話し始める。


「簡単に言えば三対一、って、状況ですわよ。私、逃げる人間まで倒しにかかったりしませんわ。」


「喧嘩は怖気づいた方が負けって言わない?」


「神社の満月…ご存知?」


「あんたも知ってんの。変な奴だと思ってたけど。あっそ。じゃあ好都合だ。マーゴ・ジニエステ、ね…」


もちろん、美希と呼ばれた女性は昨晩の定食屋でのことを考えていた。そこで会った二人の男性にとって、マーゴ・ジニエステの排除が最優先事項であることを理解していた。


美希は手を叩くと、小人のような人間が一人現れた。マーゴは拳銃を構える。手の音で、空間が変わった、女二人は消え、本当に四人だけになる。夢の中であるような空気の香りが辺りに漂い始める。やはり、周りへの心配はしなくていいらしい。ただ、みゆきがこの空間に残ったのは気にかかった。彼女はどぎまぎしている。まだ、根源的なブラックマーケットの記憶は消えていないのかもしれない。

それに、胡桃も残った。彼はやはり、能力者だ。


この四人、恐らく誰にとっても他の能力は不明の状態。みゆきは能力を使えるのかすら分からないし、マーゴの知りうる限り彼女の能力は罠を設置するものがあって力を発揮する。戦力と数えるにはなかなか難しい。

そして、第三者。学園内の他の能力者の介入も否めない。手探りの状態での戦闘だ。


まず、顕現した謎の小人がマーゴに向かって飛びかかる。

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