アルルカンの肖像
彼女は道化役者です。
幼い頃からいたずらをしたり、人をいじめてみたり。時には人を助けてみたり、人を軽蔑してみたり、とにかく彼女のしたことがなかったのは人を尊敬することだけです。彼女の自尊心は、人を目標にしたりすることを許しませんでした。
それは負けることだと信じていたからです、彼女が人を目標にするということは、その人にたどり着けば全て終わってしまうことであると信じました。
彼女が幼い頃、まだまだひどく幼くて自我の芽生えさえなかった頃。彼女が初めて犯した罪は盗みでした。生まれ落ちたこととか、二足歩行をすることとか、それも罪なのですがまず棚に上げておきましょう。
彼女が罪を犯したのは、他人のおもちゃを盗んだことです。小さな木馬がゆらゆらと揺れる、下に弧状の土台をつけたおもちゃです。他人は、それにどうにかして乗ろう、乗ってやろうという思いで遊んでいました。しかしアルルカンにとっては、それがひどく傲慢で、彼女はいじめを見ているような感じがしたのです。
それをアルルカンは嫌いました、人が人を支配することに敏感で、いじめとかに気持ち悪さを隠せない、とても心優しい女の子でした。
彼女は木馬に乗ってやろうとする男の子を跳ね飛ばし、奪います。その日が雨の日で、奪って必死に逃げた木馬を小脇に抱え、走った道の感触や冷たい雨粒のことを彼女は今でも鮮明に覚えています。そして、ドロドロのまま帰った自分の家で母親に叱られたことも。
彼女の額には、その時母親に殴り飛ばされ洋服箪笥の角にぶつけてできた傷跡が残っています。
小学校に入った頃、彼女は自分で人をいじめることを覚えました。それが、本当に正しいと思ったのです。
おもちゃを盗んだ時のように、自分が人を教育することや、ものを奪って自分が使ってやるということが、最も正しいことと感じていました。
彼女は恋もしました、いじめに要する人材を集めるみたいに、おどけて嘘をつけばそうすることは簡単でした。彼女はいたずらっぽく笑うことを続けます、彼女はおもちゃやものを救うためならば、いじめ、窃盗、嘘まで許してしまう少女に育っていくのです。
もちろん、両親もそんなことには無関心。彼女が小学校に上がる頃には離婚し、母親だけがアルルカンの家に残っています。母はアルルカンの元へ帰ってくる時には、すでに酔っ払い。アルルカンには、しきりに新しくできた男の話や職場の愚痴を聞かせます。
ある日、母親の愛人はアルルカンの家にやってきました。彼女がまだ小学生の頃です。
母親の愛人はアルルカンに優しい人でした、母親よりは。男はアルルカンを犯そうとしました、しかし彼女ももう抵抗できない年齢ではありません。アルルカンは男を殺した時、初めて彼の体臭に気づき、また彼がポケットに入れていた香水の匂いにも気づきました。彼女はその憎しみの体臭や、香水の匂いを果てしなく美しいと感じ、自分の性格の救済がそこにあるかもしれないぞと考えます。
匂いは遠いもののようで、実は近くにあるものです。
アルルカンは男のポケットにあった香水を身にまとうと、自分がおどけたりしなくても人のよってくることに気づきました。アルルカンは思います。
「私がどれほど醜い人間だって、他人は本能には勝てないんだ。この美しい香りには。そして香りには魔力がある、私自身がなにもしなくても、香りさえよければ人はそれを認識することの前の前にでも、信ずる。そうか、人間の醜さの中の信仰こそ、香りというものなのだ。
私はどうでも、私が神様の香りをさせれば私は神様。故郷の香りをさせれば恋人。そんな、単純な生き物なんだな。」
と。
彼女には天性の嗅覚がありました。それで人の匂いや、植物の香り、それを嗅いで歴史を感じることができました。愛の香り、憎しみの香り、全て彼女にとっては、手に取るように分かったものです。
それで人を香水にすることを望みました、アルルカンは人の香りさえ身に纏えば自分は変われるものだと思います。
そんなふうで、彼女は犯罪を隠したり、いい香りを望むまで作ること、それを誓って麻薬取引の世界に入っていきます。闇の世界では人間の本質が、すごくよくわかると考えました。そこから、彼女の香水は一大ブランドとなり、驚くほど売れるようになるのですが…
彼女の嫌いな匂いがあったことや、彼女の作る香水がどんな人に影響を与えたのかは、また別のお話。ただ言えるのは、そんな気持ちを抱えてブラックマーケットに足を踏み入れたということ。
彼女の物語は、人間の本能と社会性に喘ぐ物語。果たして、彼女が罪を犯し続ける先に完成する香りは人を幸せにするのでしょうか。




