古都を襲う「Night at the Opera(憎悪の饗宴)」の脅威
「あのね、私はあんたと同業者かもしれないけど、いい匂いとか言って殺人して自分の家のアトリエのカプセルの中に人体入れたりする類の人間じゃないから。」
「あらぁ、香りの良さがわからないなんて…宇宙よ、それは宇宙。あなたはなにを夢見る?優しさ?冷たい風になびく落ち葉?」
同業者と言うのだから、アルルカンという女もこの街の長というものに関係しているのだろう。とにかく物騒な女であることは間違いない。こいつを殺せばアルヘンティーナのために、この街のためになるかもしれないということまで京介は考えた。
「人に何か言う時、宇宙とか言うと嫌われんのよ。」
影の群れが京介たちに飛びかかったと同時に、全て消えた。ローラの能力だ、そして人のことを消した姿は見たことがないし彼女自身も殺人はしないと誓っていた。つまり、京介を悩ませていた影は全て命あるものでなかったというわけだ。
能力によって作り出された実態を持つ虚像、とかそういうものだろう。
「なに?あなたたち無敵コンビだったりするのかしらん?」
「残念ながら私には活動限界、ないわよ。あなたがなにをしたって私には通用しない。って、キョースケはどうやって逃げてきたの?どんな能力?辛くない?」
ローラがアルルカンの方へ向いていた顔を京介の方へ向ける。
「いや、俺もよく分かんないんだよ…お前だって素質あるとか言ってただろ、今日満月だし。とりあえず吐き気がすごいかな。」
その通りだ、京介だって自分の頭で考えたところで、ローラを倒す方法が見当たらない。敵に回したらどれほど恐ろしいのか分かっているつもりだ。そういう怖さを感じながら返事をした。
もしかすると、時間の限界さえなければ逃げ続けることはできるかもしれないが倒すとなれば別だ。とりあえず自分の能力についてははぐらかした。
ここは京介がアルヘンティーナと会ったのと同じような、夜の街灯に照らされて黄金の通り。この街では、朝カラフルでいる色調が夜になるとそうなる。
「あなたたち何をお話ししてるの?」
アルルカンが高速で接近した。京介もローラも引き下がり、ナイフが空を切る。
「知ってるわよ私、あなたが人を殺さない人なの。でもね、そうねえ…あなたが人を殺す人でも私の能力の方が上よきっと。というより、相性がいいわね。」
「そんな木偶の坊を作り出す能力が?」
「そう。でも違うわよ、それだけじゃないの。とりあえず、まずはこんなのいかが?」
全て消し去られたはずの影は人体の形で再生し、それがいくらかのグループに分かれてくっつく、人間三人分の大きさで蜘蛛の形をした影が出来上がった。それがまた変形して、アルルカンそっくりの姿になる。
「へえ、せこい女。」
確かにこれで、人を殺さないと決めているローラは能力を使うことができないのかもしれない。駆け引きだ、ローラの信条と殺されるかもしれないということに対するアルルカンの勇気。
能力を発動しなければ恐らく、三体分の影を込めてある影は簡単に吹き飛ばされたりしないだろうし、それではローラの方がやられる。拳銃では恐らく弾数が足りない。
まずは一体、飛びかかってきた。
「違う!そいつはダミーだ!」
京介が叫んだ、と同時にローラが能力を発動する。
京介には分かっていた、どれがダミーでどれがそうでないのか。本体まで。
「あら…厄介な能力ね。」
アルルカンが呟いた。
「キョースケ、あなた…どうして分かるの。」
怪訝そうにローラが京介のほうを向いて問う。
「血の流れ、体の構造、全部同じだ…でも、人から見られたときどう自分が映るのかってことは模倣できないんだよ、アルルカンが少し動くとき、それはなかなか綺麗だ。猟奇殺人犯としては。でも本気で動こうと思ったときには首筋にあるホクロが見える、だけどダミーの動きでは見えない。」
京介はつぶさにアルルカンの動きを観察していた、能力を使って。だから彼女の全てが、京介にとっては手に取るように分かる。
「じゃあそうね、次いってみましょう。」
アルルカンは今回の、自分を模倣してローラの信条を揺さぶるという考えを諦めたようだ。
古都を、アルルカンが手を上げた瞬間、赤い空が包み込んでいく。まるで京介たちもそれに吸い込まれてしまいそうだ。
「私の能力…Night at the Opera(憎悪の饗宴)は人の感情。街の形を具現化する能力。だから黒い商売と相性がいいのよ、今度は薬の売り手と手を組んでるから…その憎しみが私の力になる。」
大きな蜘蛛の形をした影が、街を覆っていく。




