京介とアルヘンティーナの計画
しばらくしてアルヘンティーナは泣き止んだ。それまでに十分ほどの時間を要しただろうか。
彼女は自分の目をこすって立ち上がった。
「ありがと…もういいわ。私も急に取り乱してごめんなさい、自分がまだ子供なの、分かってる。」
「そうか、そりゃよかった。まあ俺もおちょくったりしたの、悪かったし。」
京介はアルヘンティーナが身を引くと、自分の頬の殴られたところをこすった。痛みの割に膨れあがっていたり、熱がこもっていたりしない。
部屋はすっかりカーバンクルたちの吐き出した、謎の熱気で暖かくなっている。
「ところであなた、記憶がないって言ったわよね?冗談じゃないの?私知ってるわよ、そういうことができる人。この町にいる。
そういう類の人、この町に多いわ。私もそうだけど。あなたもそうでしょ?そう思ったから助けを求めたわけだし。」
「Mile Stoneって、いう能力らしいんだけどな。冗談じゃないよ、しかも突然日本から時間軸まで変更されてアメリカに飛ばされたんだ。
でも俺が同じ、能力者になったのはついさっきだよ。自分がどんなことをできるとか、どういう能力かとか知らない。君の役に立つかも。」
「ふーん、私も能力の名前までは知らない。
そういえば今夜満月だったわね、あなたの能力、多分感覚が鋭敏になるとか、そういうのだと思う。あと考えられるのは未来予測?
さっき私を追ってきた時も生身で道路を逆走して死ななかったし、私って力は弱いのに相当痛そうだったし。確かに能力を得てからの感覚の変化は大きいけど…それにしても不自然なところがちらほら。ってかもらう時説明なかったの?」
「いや、全くわからんなあ。説明もなかったし。何か発動した時の感覚、みたいのないの?」
「ぎゅいぃーんって体の中から湧き上がってくる感じ?私はあるけど、自動のもあるんじゃない?」
そういえば例の女のPoint Blankとやらも解除できないらしいし、ずっと有効な能力なら発動はできない。その感覚もないだろう。
しかし一度道路を逆走していた時吐いたのを思い出した、そこで能力を使っていたのは確実だろうし、あれがアルヘンティーナの曰くぎゅいぃーんってやつなのか。すると能力ってのは嫌に厄介な代物だ、女やゴーンは気持ち悪そうなそぶりなど見せていなかったが、あれは慣れなのだろうか。
「とりあえず君に協力してみようと思うよ。何をすればいい?計画とかないのかよ。そんな、その人のところへ特攻してハイおしまい、なんてのはゴメンだぞ。俺と一緒にこの街へきた女は本当に敵なのか?ローラってやつだけど、そうだったとしたら本気でヤバい。あれには勝てる気がしない。
普通の能力だったら三すくみ的なものがあるとか思うが、あいつのは…ブラックマーケットって分かるよな?そことは別の場所からきてるらしいんだ。」
ニューヨークで決行された作戦は女のチートがかった能力があればこそ成功した。しかしもし女を敵に回すとか、あるのならば京介たちに勝ち目はないだろう。核爆発ですら死なないような女だろう、死ぬ可能性は自分で認めていたがそれがどういう場合なのか、詳細なことはわからない。
とりあえず、あんな無茶苦茶な作戦を敢行するのはこりごりだ。
「計画ならあるわ。って、言いたいところだけどないのよ…なにかいい案ある?
えっとね、私の能力は自分の存在を消す力、その間は何の力も受けないわ、相手の攻撃や重力、摩擦抵抗まで。ちなみにどこまで消すか、何の影響を受けないかはコントロールできる。制限時間はないけど、効果が使えるのは自分の体にだけ。それが私のNocturne(夜想曲)よ。」
「そんな能力あるなら暗殺でもすればいいんじゃないのか…?」
「そこなのよ、私が認識されないってことは私も認識できないってこと、攻撃されないってことは攻撃できないってこと。相互不干渉の法則が成り立っちゃうの。だからダメ。」
「とにかく何の計画を取るにしても、相手がどういう人間でどういうことをしてるのか知らないと考えが湧いてこないな。俺がローラから少し聞き出してみるけど、スパイ作戦とかどう?暗殺までいかなくても、君が相手の家に潜入して見聞きしてくるとか、それがダメならカメラとか盗聴器をセットしてくるとか。」
「カメラや盗聴器を買うお金はないから潜入がベストね。うん、やってみる。
それじゃあ私は早速行ってみるから、あなたはできる限り聞き出してみてね。もう話してても何も出てこなさそうだし、今日はここでお開きにしましょ。明日の夜またここで。」
京介は自分の宿の住所を教え、自分が行くにあたっての道筋を聞いた。
「危険なんだろうから、気をつけろよ。」
「あなたもね、路上で変な騒動起こした後なんだし。」
「ああ、あれか。もうほとんど忘れてた…あれ、でもどんな騒動だったんだっけ?」
「あそこの路上、今大穴空いてるわよ。知らなかったの?
私も察知したから逃げ出したんだけど、それを知らないで追ってきたんだ。初耳の驚き。でも察知早かったわよね、やっぱり感覚的な未来予測とか?
誰の仕業だったのかは分からないけど…」
「そうか、そんな能力者もいるってわけだ。しかも危ない方の。
まあいいか、そういうことには気をつけておくよ。命を狙われてたのが俺かお前かはさておき。」
京介は少し気を重くした。
「うん、気をつけて。頼りにしてる。今日はありがと。」
アルヘンティーナはそれじゃあと言って身を翻し、姿を消した。一瞬のできごとで、本当に姿がさっぱり消えるものだなと京介は驚く。
一人残された京介は最後にカーバンクルの繭を不思議そうに見たり、部屋の中の青白い光になんだか懐かしい思いがしていたが、やがて歩いてその部屋を出た。




