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異世界王女がやってくる!  作者: 橘麒麟
New Coat of Paint(この街を塗り替える)
33/70

ローラ・ジニエステの「Point Blank(空白)」とMr.Goneの「Rain Dogs(雨の番犬)」(後編)

先に攻撃を仕掛けたのはゴーンの方だった。彼は自動小銃を取り出す。しかしまずは十発、全て発砲され宙に放たれた瞬間地に落ちた。

もう十発は姿の消えていた京介の方に放たれる。ゴーンは虚空に向かって銃を向けたつもりだ。


今度は銃口の向きが変えられたと同時に女が京介を庇う形に立ちはだかり、十発全て女に命中した。貫通したものがなかったので京介の方は無傷である。


一発ずつ、ほぼ同時に銃弾が女の体をえぐっていくとなまったるい肉の音が聞こえ、それに合わせて女の体が震えた。しかし一旦女は血を吐いただけで、息を切らしたり倒れこんでくる様子はない。京介はすぐに、言われた通り目の前の女が死ぬことはないのだと悟った。

女の服は黒っぽい血に塗りつぶされ、京介の方へも血しぶきが飛んできた。それは、もちろん怪我をしたことがないわけではないけれど、はっきりと見るのは京介にとって初めての色だった。


自分の体へ飛んできた液体を拭おうと自分の肌に指を這わすと、案外にねっとりしている。京介はそれを下品な女にキスされるのと似た感覚だと思ったが、目の前の女のものだと考えなおせばそこまで気持ちの悪いものでないと思う。


自分にとっては全て初めての経験と、もの。生身での飛行、殺し合い、血、火薬の匂い。


形を少し変えた女の体は元に戻り、赤く染まってボロボロになった銃弾が十個床に落ちて音を立てた。

もう一度女は血を吐き出した。痛みはあるのだろうか、咳込んでいる。


”Wow... What the hell of human are you? Any damage? Feeling well?"(「おいおい、つくづくお前はとんでもねえ人間だな。でも一応痛いのか?おぅい、元気?」)


"Nothing much, feeling well, thanks. Though taste like crap... I can show you where to get real guns and bullets."(「気分は悪くないけど…この銃弾、嘘の味がするわ。まずい。これなんか、微量に鉱物以外のもんでできてるわよ。私ならもっといい店紹介してあげられる。」)


ゴーンが手を挙げると周りを取り囲んでいたハウンドドッグが五頭、動き始める。


ゆっくりと動いて攻撃の機会をうかがっているようだ、その足にはあらかじめ鉄の鎖がつけられている。女を殺すことができないと知っていたゴーンは彼女を捕縛するつもりのようである。


京介はあらかじめ、女の近くから身を引くことにした。


群れが電車ごっこでもするような陣形で動き、女の周りを何度か回る。先頭の犬が方向を変えてドアから出て行こうとした時、女はじっくり構えて二度発砲した。先頭のものがこれで女の胴体まで鎖を持ち上げ、締め付けようと飛んだ瞬間である。


見事銃弾は二つ、先頭の犬の前足を両方射抜く。


宙ぶらりんになった両の足は着地とともにちぎれた。甲高い鳴き声が部屋に響くと同時に陣形は崩れ、群れを引き連れていた先頭の犬から足とともに鎖も外れる。


丁度女の体に触れるところにあった鎖は緩む。


先頭のやつは床に倒れこんで動かない。それは立てなくなった。


"New ones? Seems like didn't have time to train them well. Too stupid for hunting."(「新しいの買ったの?ここまで青臭い犬とは驚きだわ。狩りに慣れてないのね。」)


動揺した群れは我を忘れたように向き直ると、一斉に女の方へ向かってくるようになった。京介の目にも分かるほど犬の群れは狩り慣れていなかった、リーダーの戦闘不能という事態に冷静に対処できていない。


どうやら全頭の足に鎖がつけられていたのは、どこが死んでもいいという保障でなくハッタリだったらしい。


"And... Lacks individuality"(「狩人は犬でも独立心を養っておかなきゃダメってもんよ。馬鹿ね。」)


鎖が足についているせいでぎこちない動作しかできない犬の群れは、一斉に女に飛びかかった。一頭ずつ隙を窺ってそうするわけにはいかなかったようだ。


怖いくらい自然な動作で、あたかも踊っているように女はポケットから手榴弾らしきものを取り出して手でポンと叩くと宙へ投げた。


「おい!?お前いくらでもそれはっ!」


じっと戦闘を観察していた京介は思わず叫んだ。女の動作が自然すぎて間違ったものを取り出したとか、そういう風にしか見えなかったのだ。


「だーじょぶだよ、少年。」


それを女は京介に向かって微笑むと、拳銃で撃ち抜く。


確かに京介は一瞬それが爆発するのを見た。しかし目の前に広がった光景は、ハウンドドッグの群れが壁際の方で倒れこんでいる姿だけだった。他は以前と何も変わっていない。


女はさきほど爆発したはずの手榴弾を手の内で転がして遊んでいた。


「狂ってる…」


京介はすっかり腰が抜けてしまった。


何が目の前で、どうして起こっているのか見当がつかない。


女は自分の掌の手榴弾の方から目を上げ、ゴーンの方を見た。


"Got any clue to fight back?"(「降参したりする?」)


"Oh yes... Don't forget I'm a Returner too."(「おいおい、能力者はお前だけじゃないんだぜ。」)


ゴーンの方が自動小銃を抱えて特攻してくる。女の方はもう弾切れらしい、銃と手榴弾を脇へ放り出すとナイフを取り出して応戦に向かった。いくらか攻撃を与える、交わすが行われると女の方がゴーンの腹部にナイフを刺しこむ、しかしそれでも闘志を失わないゴーンはそのまま自動小銃を女の頭部にできる限り近づけた。

ゼロ距離での射撃ならば殺せるかもしれない、その可能性に賭けたのだろう。もう十発撃ち切るとゴーンは女の頭を手で包み込んだ。


「よし!これでこいつを…!」


能力者同士の戦いが始まれば言語の壁は問題にならない。京介の方にも日本語のまま二人の会話が聞こえてくる。


京介は今の攻撃で女が死ぬのか、死なないのか分からなかったのでこれから殺されることも覚悟した。


しかし女の手の内にあったナイフが抜き去られると、ゴーンの体にもう一度ナイフが突き立てられた。

彼女は死んでいない。頭に銃を撃ち込まれた人間が未だ動いているのは機械な光景だったが、京介は安心した。


「だから死なないんだって。あなた馬鹿なの?」


「いや…!しかし俺の能力だって発動させたはずだ!」


「うん、分かった。あなたの能力は触れた人間を服従させることなのね、制限があったりするか知らないけど。

でも私の能力は意図的に発動するものでもないし、Point Blank(空白)は文字通りゼロの能力よ。これ単体で人を傷つけるのは不可能だけど…

降りかかってくる力の無効化…?なしにするより打ち消す感じ。だからあんたのハウンドドッグの群れを倒したのは一部能力。

簡単に言うとそんなとこかな、まあ色々と複雑で死ぬこともできるし、応用も面白いんだけど。」


「お前、一体俺に何がしたいんでしょう…?」


「死んでもらいにきたのよ。今までのあなたに。私はあなたと一緒にお金儲けがしたいのよ。それもニューヨークじゃない場所で。

あぁ、でもまずその傷治しとこうか。」


ゴーンもあきれ顔だ。まさか自分を殺しにきた人間から商談を持ちかけられるとは思っていなかったらしい。

女がゴーンの体に触れると傷は癒えた。ゴーンから闘志が消えた。


「お前は傷の治癒までできるのかい。やけに上手いですな。」


「半分私の能力、半分あなたの力。」


「それで私みたいな男がどうやって国外で商売するって…?」


「偽造パスポートとか?日本国籍、入手島太郎、みたいな。ってか能力者が違法入国なんて難しくないでしょうが。

日本に私たちと同じ、能力者の町がある。そこのことをちょっと調べてきて欲しいの、あとはなんとかお金稼いで、能力使って。

能力ビジネスはヒットすれば大儲けできると思うし。お金さえあれば、その、色々できるでしょ。募金とか。」


「はぁ…まぁいいですけど。…いいでしょ。

ちょっぴり日本には行ってみたかったですし、落ち着いた暮らしもいいかもしれませんしね。

それであなたは?」


「私はもう少し旅するかな。別の目的もあるし。終わったら日本に私も行くよ。」


ゴーンは立ち上がって無言のまま部屋を出た。外はまだ暗かったので、その後彼がどこへ行ったのかは見えなかった。


「キョースケ。腰抜かして立てないとかない?」


すぐに女が京介へ歩み寄り、手を伸ばした。京介はその手をとって立ち上がる。


「ああ、大丈夫。それで俺はもう透明人間じゃないのか?」


「うんうん。もう大丈夫よ。」


「俺は今出てった男と同じように日本に帰ろうと思わない、って思う人間に今日一日でなってる。」


「でしょ?楽しかった?旅の道連れが欲しかったのよ、それに多分あなた、私みたいな素質あるわよ。旅して見つけたって損にはならないからさ。」


「よし、じゃあ行こう。口が裂けても楽しかったとは言えないがな。」


二人もゴーンに続き、気を失っている犬と人の体をかきわけて部屋を後にした。


そういえばビルのガラスが突然割れたり、銃声がしたりしていたのに警察がきたりしなものなのだろうか。

つくづく不思議な世界に足を踏み入れる羽目になったなあと京介は思った。

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