Mr.Goneは酢こんぶとお茶が大好き
「それで男爵、例のやつはどうしたんだよ…」
「いやぁ…それはそのですね、ほら、あの旅館の娘っ子がいたので。説得の時間でカップラーメンすらできない始末だったんですよ。」
「それで首尾は…」
「大丈夫ですよ、私はちゃんと要点話しましたし。一週間の猶予もちゃんと与えてますからね、きっと来てくれますよ。」
「俺思うんだけどさ、男爵…」
「はい?」
「あいつら多分一週間もこの町にいないぜ…」
一人の男と少年が駄菓子屋の前のベンチに腰掛けていた、これはちょうど高校生が学校で従業を受けている時間の話である。つまり、弁論イベントから時間を遡ることとなる。
能の仮面をかぶっていてもなんだかほのぼのとした気分で空に、小鳥が飛ぶのを嬉しそうに眺めていた「イッテシマッタ男爵」は一気に取り乱した。
「あぁぁぁ!そっかぁぁぁ!!」
「男爵うるせえ!それはあんたの悪い癖だ、ドジなのは分かってる!」
「あぁぁ!!どうすればいいんでしょどうすればいいんでしょ!」
「落ち着け男爵!お婆ちゃんお茶と酢こんぶぅ!!」
少年が駄菓子屋の内へ声をかけるとゆったりとした老婆の返事がかえってきた。少年がイッテシマッタ男爵を押さえ込み、なんとか落ち着かせようとする中ほどなくして老婆がお盆を持って出てきた。
「あら入手島太郎さんと要石の坊ちゃん…今日はケイちゃんいないんかい?
入手さんはまたお仕事失敗したんかいな。」
「あぁお婆さん私はまた皆さんに迷惑をかけてしまった…」
「入手さんは優しい人やからなぁ…平気よ、みんな分かってくれるさね。お茶でも飲んで落ち着いたらよかとよ。」
イッテシマッタ男爵はなぜか地元の人間には「入手島太郎」と呼ばれているらしい。男爵は駄菓子屋のお婆さんに慰められていた。
お婆さんから受け取ったお茶をゆっくりすすって、酢こんぶを一つよく噛みながら食べると彼は落ち着いたようだ。お婆さんはすぐにまた駄菓子屋の中へと入っていった。
男爵は酢こんぶとお茶が大好きなようである。
「男爵…落ち着いたようでよかったぜ…」
「でも私はどうすればいいんでしょう…」
「いいか、要は頭に気づかれなきゃいい、あんたがドジったってことをな。いいか、話は簡単だ。俺たちはあいつらの金とか新幹線の切符とかを奪えばいいんだよ。な?頭への報告はその後でいい。」
「おぉ!それは名案です!」
「そう、いつもの通りに…それにお頭は今新しい男を捕まえて沖縄へランデブーの途中だ、昨日は今どれだけ幸せか俺の携帯にメールが入ってた。クソリア充爆ぜろとか思うのはいつものことだが今は好都合だ。あと三日くらい帰ってこない。」
この二人は同じ組織の人間のようで、どうやら水野晶子を捉えることを計画した張本人の部下らしい。
男爵が提案した一週間という期限に問題があると発覚したため、どうして水野晶子をこの街に止めることができるか考えていたのである。
「で、どうやって奪うのですか?」
「いやぁ…それはそのだな。」
「もしかして分からないです?」
「あぁそうだよ!盗みなんてやったことないんだから!」
「それじゃあ…」
男爵はまた取り乱しそうだった。
なんだか二人は異様な風貌をしていること以外、普通の町の住人に見えた。男爵は相変わらず能のお面をつけていたし、少年の方は異国のサーカス団がしているような服装をした小学生くらいの背格好だ。
二人はこの町の住人に怪しまれないよう自分たちはとある劇団の人間で日本中旅をして回っていると取り繕ってあったのだが、やはり何も知らない人間から見たらただの変質者だったろう。
お婆ちゃんが経営する駄菓子屋。というのが数少ない落ち着ける場所だったのである。
「いや!大丈夫、策はあるんだ男爵。俺の能力と男爵の巧みな話術さえあればいける。男爵はドジだが目標さえ決めておけば男爵ほど話すのが上手い奴はいない。いいか、俺たちは最強のペアだ。
男爵の能力はもう使える好都合はないだろうが、今回俺たちが接触しなきゃならない水野晶子には連れがいる。藤実京介だ、そいつが水野晶子の前から消えればいい。そうすれば無闇に帰ったりしない。」
「つまり私は何をすればいいんでしょう…?」
「男爵はなんとかこの駄菓子屋の前まで奴を連れて来ればいい、奴がこの前に立つだけでいい。俺の能力は人間がある位置に立ったことで何かを失う能力だ、なんとかこの場所にくることで切符を失うことに繋げてみる。もちろん男爵は自分の能力を使って強引に連れてきたっていい。」
「おお!それは簡単です!でも私の能力は当分使えなさそうです…話術しかありませんね、しかしお任せあれ、きちんとリーダーにもいい報告ができるようこなしますから。」
「いいな、今日は奴らこの町の高校でイベントをやるようだ。それが終わってから誘い出せばいい。」
男爵と少年はお茶をすすりながらこの町の昼時を過ごした。
今はちょうど高校の授業終わりのチャイムが鳴った頃である。




