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異世界王女がやってくる!  作者: 橘麒麟
Ready With a Gun(その力は誰がために)
11/70

王女様、客人のようです

「あの…私!悠ちゃんの友達で…王女様、学校へ案内しに来たんです…」


次の朝、マーゴが目を覚ましたのは朝早く七時半くらいの時分だった。


彼女は子供達にマーゴを求めてやってきた人があると聞いて、眠たい目をこすりながら玄関前へ出て行った。


彼女は学校というものの説明を聞いていたので、特定の場所へ朝早く出ていかねばならないことだけは知っていた。


あらかじめ用意されていた朝食を食べようと食卓に座った時、マーゴは置き手紙に気づいた。それは悠からだった。

そこには


「ちょっと用事があるので学校サボります。案内できなくて申し訳ないけれど、代役を取り繕っておきました。一緒に学校の見学へ行ってきてください。」


と英語で書いてあった。マーゴも日本で生活し始め、色々なことがあったが結局、極力暇のないように生活しなければならないと思い悠には学校へ行く旨を伝えておいたのだった。

てっきり悠が付き添いとしていてくれるものと思っていたのだが、急用ができてしまったらしい。果たしてこんなに簡単に学校というものをサボることができるのかはマーゴの心に一抹の疑問を残したが、ただ自分は行ってみるだけでいいのだと考えた。


悠はマーゴのために外国人が日本へきた時のためのガイドブックと、そこに載っていない使うであろう会話の手引きを残して行った。


「コンニチハ。あなたは、みゆき、?私は、マーゴ。私、学校行くのでよろしくお願いします。」


「あ、はい!Nice to meet you, I'm Miyuki Tadai.(こちらこそよろしくお願いします、私は田代みゆきです。」


マーゴは悠の残した書物を片手に、片言で話そうと努めた。


みゆきは他ならぬ、マーゴが転生した初夜に出会ったオカマの警官田代の娘であった。家名を聞いてマーゴはあの警官は結婚していたのかと驚いた。


マーゴはみゆきに準備をしてくるからちょっと待っていてねと伝えた。これにあまり苦労はかからなかった、みゆきも寝間着で出てきたマーゴに準備が必要だとあらかじめ考えていたから。日本人特有のコミュニケーションである。


寝床へ戻ると、子供達が徐々に家から出て行った。


みゆきと子供達のここちいい挨拶が外の方から聞こえたが、マーゴが少し鬱屈した気持ちでいたのは昨晩のことを考えながら支度に入ったからである。


自分の体に異変はない、記憶にも。


それがかえってマーゴを不安へとかきたてた。おとといあったことのように、昨晩のこともあまりよく覚えていなかった。特にどうやって家へ帰ったのか、自分が外へ出たことが人にばれなかったのかということが心の片隅に暗い色を添えた。


とりあえず銃器なんて物騒なものを持って人の集まる場所へは行けないので置いていこうと思った。


悠から与えられた服に着替え、髪をとかして自分の顔を鏡の中に見る。マーゴが本当に自分の顔について知ったのは日本に来てからだ。自分の顔のことを醜いと感じる時もあったし、自信に満ちたものであると感じることもあった。

とどのつまり、顔なんてものは他者と自分との間に出来上がる感情の交錯が形作っているものにすぎないのだと悟った。


家の外へ出ようと思った時マーゴの眠気は覚め、それでやっぱりあの銃はずっと持っていようという突然の衝動に駆られ、それをタオルに包んで借り物の肩掛けカバンの中に押し込んだ。


銃器を持っていること以外、いたって普通の女子高生の出来上がりである。


それで玄関へ出た。


「みゆき、さん?お待たせしました。」


「ええと…おーけい、れっつごー…!」


なんとか知っている英語だけは口に出して寄り添おうとしてくれるみゆきであった。


みゆきはちょっとボリュームのある髪の毛に、首元で顔の方へカールする髪先を持った少女だった。マーゴはなかなか身長が高かったのでみゆきは低く見えた。


ーーー


みゆきとマーゴは春の、夏へ向けて力を蓄え始めた木々の並ぶ通学路を歩いて行った。あらかたの桜は散り、葉桜がちらほらと顔を出し始める季節だった。


「マーゴさんは王女様なんです…よね?悠から聞いてます。そんなに簡単には信じられないですけど…」


「ハイ。私、王女です。」


「だからそんなに可愛いんだあ…」


「王女様だから、じゃないよ。可愛いかも、分からない。」


みゆきは路上を見つめながら、目に入る小石をリズムよく蹴飛ばしながら歩いている。


「ところで悠ちゃんとはどういう関係なんですか?王女様は?」


「悠は、助けてくれた。私は悠に恋してると思う。」


もちろんマーゴは日本でいう恋というものがどういうものか理解していなかった。


「こ、恋…!?」


「はい。恋。恋!悠とは!」


悠は無邪気に笑ったままで、みゆきの密かに燃やす敵意を悟らずいた。みゆきはもちろんそれを女子高生特有のお世辞と乾いた笑い声で隠した。


ーーー


「はーいそれじゃあ明日は講堂で、有名校の生徒による演説がありますので。少しでも興味を持った生徒は参加するように。」


マーゴの一日は今日もあっけなく終わろうとしていた。


これはもう放課後の話である。マーゴは日本における言語の授業をなんなく解したし(これは会話と異なったもので読書と同じものだったから)、その他の授業は数式や化学の記号に基づいていたので彼女にとってなんということはなかった。


その知識の豊富さと理解力の強さについて一般の生徒は驚きを隠さなかったし、例のごとく休み時間の質問攻めもあったが省略する。それは刹那的でくだらないものだから。また、マーゴの気にかかるような特筆すべき人物も見当たらなかったので。


彼女は授業が終わるとすぐにみゆきの元へ、逃げるようにして歩み寄った。みゆきは最後の授業中から、今も絵を描くことに夢中だった。それに気づいていたマーゴは単純にみゆきがどんな絵を描くものかと興味があった。


「みゆき!それは?」


マーゴが熱中して我を忘れているみゆきの肩をポンと叩くと、みゆきは大変驚いて目の前に広げられていた画用紙をとっさに隠した。


「あの…これは…ばれちゃってました?」


「うん。私、知ってたです。」


「今日の朝描き始めて…えっと、まだ背景が途中で…」


「どんなもの?」


「見ちゃいます…?」


「うん!私、見たい!」


「えー…それじゃあ…今日描いたのは五つだよ。順番に見せるね。」


みゆきはどうやら物語調の絵を授業中と休み時間の間、ずっと描いていたようだった。


マーゴは昼休みにもみゆきの食事をする姿を見つけることができなかった。やがてみゆきは自分の絵をマーゴに見せ始める。


「まずこれなんです。」


「野菜売る人!」


「そしてこれ。」


「飲み物作る人!」


「次はこれ。」


「道端で宣伝する人…?」


「ええと、次ね。」


「Gun selling woman...(銃器を売る女の人…)」


「はい、最後。」


「メフィストフェレス…!」


「マーゴさんはどうして知ってるの?」


「みゆきさんこそ。」


マーゴはみゆきが絵を見せてくれた時からお互い同じ場所へ行ったことがあるのだと悟った。


みゆきが描いていたのは白い狐のメフィストフェレス、そして「ブラックマーケット」に集う土偶のような人たちだった。この時初めてマーゴはみゆきの目の中に明らかな敵意のあることを悟った。


「マーゴさん、あなた、ブラックマーケットを知ってるんですね?私、弱虫で泣き虫だけどちょっぴり不思議なものを持ってるんですよ…」


「あら、奇遇ね。私もよ、頑固で無器用だけど。」


「マーゴさん…私、見ちゃったんです。悠ちゃんの家で出てくる時、あなたが銃器をカバンの中へ隠すのを。私、分かっちゃいましたよ。私たちは同じなんだって。

それにね、私はあなたが気に入らないんです。私の悠ちゃんにあんなに近づいて!許せない!絶対に許せない!私の悠ちゃんなのに!小さい時からずっと一緒なのに!」


気弱な雰囲気から一転してみゆきは気でも違ったかのようにがなりたてた。


「そうなんですわね。でもそれってちょっと勘違いが過ぎましてよ。ところであなたは私を裁きに?」


「裁く…?裁くなんて知らないけど、やっちゃうのよ。消すのよあなたのこと。誰の記憶にも残らないように。」


「あら物騒。」


お互いが同じ人種のものだと悟った時から、言語の壁が消えた。マーゴは自分の思っていることを心置き無く話すことができるようになっていたし、それは全てみゆきに伝わった。


「いつかね…あの悠につきまとう寄生虫じみてて悠の心をかき乱して心変わりを毎度のように引き起こすあの!あの盲目の男だって私が消そうと思ってたの!でも邪魔、あなたも邪魔になった、私とあなたは同じ。もうちょっと待ってからやろうと思ってたけどあなたは別なんですよ。今やります!後に残さないように今やるよ!今やります!」


「あなた私が怖いんですのね。」


マーゴは不敵な笑みを浮かべた。


みゆきも同じものを持っている人と対峙するのは初めてだったが、お互い校舎の中から完全に人気が途絶えているのを悟った。


マーゴは銃器の商人が言っていたことをまた思い出した、「何も不安はないよ」と。それはある種自分の生きる場所から切り離されて、純粋な欲望を吐き出しても問題は起きない、ということだったのだと考えた。そして今、それを確信するに至った。


今は純粋な思いだけを吐き出せばいい。全てはなるべきようになるのだから。


今、「ブラックマーケット」という世界に足を踏み入れてしまった人間同士の衝突が起きようとしている。

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