表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界王女がやってくる!  作者: 橘麒麟
Ready With a Gun(その力は誰がために)
10/70

王女様、それが憎いということだから(Two hearts never going home)

マーゴ・ジニエステははっとして起きた。


日曜日の早朝だった、彼女は寝床へ自分の宝物を握って眠る子供のように一つの銃器を持っていって、寝ていたらしい。


一体昨晩のことは夢だったかそうでなかったかわからなかったけれど、起き抜けに布団の中で固い鉄の塊を握っていることに気づいたので夢ではなかったかもしれないと思った。どうして白川家に帰ったか懸命に思い出そうとしたけれど、とにかく思い出せなかった。


布団の中へ顔まで潜って、自分の拳の方を見てみると拳銃が見当たった。これについては自分の国でも見たことがあったので、すぐにそれが何かわかった。


ごく普通の凶器だ。


それを慌てふためいて、人に見られてはならないと思い懐に隠した。


子供達が昨晩テレビを見ていた部屋の方で騒いでいる声を聞いたので、自分は遅く起きた方だと感じた。それで寝間着のままそちらへ向かった。


「マーゴ!おはよう、起こしちゃったかな?ごめんね、子供達、日曜日は朝見たい番組があるから早く起きるんだ。眠かったらまだ寝ててもいいよ、私も朝食作るのもっと後だし。うちの親、今日も仕事あるみたいでもう出てるし。」


悠は家に戻っていた。


「ううん、いいんですわ。ところで見たい番組って?何か面白いものがやっているんですの?」


「あぁー…うん、子供向けのアニメだよ。」


「アニメ?」


「物語を動画にしたみたいなものだよ、全部絵で作るんだ。絵本が動くみたいなもん?」


マーゴは興味が湧いて座布団の上に座った。固い鉄の塊がマーゴの懐を、寝間着の中でつついた。彼女はどこかへそれを隠すより自分で持っていた方がバレないと考えた。


「女の子が刀を持って戦うんですの?」


「そうそう、でも敵も殺すんじゃなくて…救う感じ。子供向けのアニメだからさ、死ぬ人いないよ。私は子供たちが一緒に見ようっていうから見てんの、結構詳しいよ。自分が子供の頃から見てるし。」


マーゴはますます興味が湧き、昨日のニュース番組を見る時に設定された英語字幕と共にそのアニメを見ていた。


彼女は今までわからなかった、自分の懐にある銃器ももしかしたら番組の少女たちが持っている武器のようなものかもしれないと考え始めた。


「裁きの銃」とブラックマーケットで説明された時にはなんのことだかさっぱり彼女には理解できなかったが、この銃を人に向けて発砲すれば死んでしまうかもしれないという一般的な考えとは裏腹に、本当に人を裁いて救うことができるものかもしれないぞと考えた。


「ところで、今日はどうする?どこかへ行く?明日は早速マーゴにも学校へ行ってもらおうと思ってるんだけど。今日は休んでてもらった方がいいかも。私もダラダラするし。」


「学校?」


「なんか同世代の人が集まるところだよ、帰る当てないみたいだし、普通にこっちの世界で暮らす準備をしてみた方がいいのかなって。」


「はい、それは嬉しいですわ。よろしくお願いします。」


少し悠は今日のマーゴに昨晩までとは違う雰囲気を感じたが、ただ疲れているだけなのだろうと割り切った。


「私、少し寝させていただきますわ。昨晩もあまり眠れなかったので…お昼ご飯もいらなくってよ、ちょっと異国のものを取り入れすぎて体は混乱しているようですから。」


そう言って微笑み、マーゴはまた布団に入った。体勢を低くすると、どうしても懐に隠した銃器が肌に触れ、気にかかった。


眠るというのにしきりに部屋へ差し込む朝日が鬱陶しかったので、悠に説明してもらった雨戸というものを全て閉め、かすかに差し込む朝日の一筋一筋をを感じまいと布団を頭までかぶって眠ることとした。


彼女は白川家にもっと馴染んでしまう前に、いま自分が持ってしまった銃器について色々と吟味しなければならないと思った。

それにどうせ一度は死んだも同然の身だ、人を殺してしまったとしても気後れはしないだろう。もし殺してしまったとしたら、その時はその時だ。すぐに白川家を出なければならない。

寂しいとも思ったが、今の自分の状況は奇跡だと思っていたので、それがすぐに去ってしまうことがあっても悠、自分共に長く悲しんだりすることはないだろう。


まず、布団をかぶったままその色を確認したが、普通の銀色だったので今度は解体してみようと試みた。


しかし銃弾を込めるための部位さえ見当たらない、思い切って発砲してみようとも思ったがその引き金、トリガーもぴくりともしなかった。もしかしたら夜になって初めてそれは動き出すのかもしれないと思ったので、昨日と同じ夜が来るのを待った。


もし何も起こらないようであれば、昨日行った神社へダメ元でもう一度行ってみようと思った。朦朧とした意識のまま色々と考えて、何か答えが出ればいいのだが、それが出ることはなかったので意外とすぐにマーゴは眠りを迎えた。


ーーー


夜、マーゴはそれがあたかも彼女にとっての朝であるように、目を覚ます。


今夜は悠が隣の部屋で眠っていた。昨晩と同じようにして、同じサンダルを履き、夜の街へ繰り出したマーゴである。


すぐに彼女は路上の街灯の下でたむろしている若い学生の集団を見つけた。すぐにその一人がマーゴに声をかけた。


「ねぇお姉ちゃん可愛いね?越してきたの?」


"What the hell are you guys doing out in the night?"(「あなたたちこんな真夜中に、なんだってこんなところにいるの?」)


「はぁ?外人さん?おい!みんな、外人さんだってよ、こんなに日本人じみた女の子がさ!」


学生の集団は全部で男女含め6人ほどいたが、皆ケラケラと笑ってマーゴの方を見つめた。


マーゴは全く話しかけられて、話しかけてきた男が何を言っているのかわからなかったが自分がちょっと見下されているのを感じ取り、嫌に思った。


悠は昨晩、二輪に乗って何処かへ行っていたのだが、今日はここにいないのだからこんな品のない連中の一員でないということをマーゴは悟って少し安心した。というよりこんな品のない連中を悠が好むわけはないと確信していた。


そして、マーゴは妙に昨日銃器の商人から聞いた「心配はないよ」という言葉を信じていて一切不安を感じなかった。彼女の目的はただ昨日手にした銃器を検証することにあったので、すぐそれを懐から取り出して歩み寄ってきた男に向けた。


「は?それ玩具?冗談うまいね!」


当然日本では普通の女の子に見える者が銃器を持っているなどとは思われなかったし、凶器の実感こそ若者にあるはずがなく、男はそれを冗談と捉えた。


すぐに街灯の下に座っている男女の集団が男と同じようにして笑った。マーゴはこんな人間が日本という美しい国にいるということがひどく、憎く、怒りを覚え始めていた。言葉を聞くだけで彼女は、自分の中に湧き上がる吐き気をこらえた。


マーゴは引き金を引いた。朝感じたそれの重さとは違い、自然に銃器は動いた。


銃声も何もなく、若者の集団は街灯の下から綺麗さっぱり消えた。


マーゴは咳き込んだ。彼女はその場で嘔吐した。


ーーー


「あんさん、それ、使えたんやね。」


昨日見ためふという白の狐が立っていた。


「安心せなあかんよ、死んだわけじゃないから。へへへ… 明日は普通の人間に戻っとる、あいつら。まあもうこんなとこに真夜中、出てくることはあらへんけどな。」


めふはちょっと、街灯の下で月を見上げた。マーゴはまだ吐いた後ですぐに顔を上げられる心境にはなかった。声をはっきりとあげる気持ちにもならなかった。


「あんさん、こっちの世界の人間とちゃうねんな?」


「ま、あ…」


「王女様って聞いとる、遠い国の。あいつらはあんたがこの国に来てから、今までの思い出を全て、一瞬のうちに感じてこの世界にまた帰ってくることになる。それは裁きの銃って言うけどな、あんたの感じたものを、全て、相手に与えるものでもあるんですわぁ。へへへ…」


「桜の…木も?悠と一緒に感じた感動も…!?」


「せやせや。でも引き金を今度から引くときは、考えた方がいいわ。あんたの思い出と感情を全てぶつけてまで、救って然るべき人間なのか。相手していい人間なのかを。


今辛いやろ?そいつの引き金はいわゆるカタルシス、あんたはある意味いっぺん死ぬ。あんたが起きた時どんな人間になってるかは、ブラックマーケットの掟と一緒や。素直に礼儀正しく!それが導ですよ。あんさんが自分の心に嘘をつけば、その嘘が引き金の後、仇になる。その甘えの分だけ、あんたは違う人間になっちまいますわ。

ところで…異国から来たあんたの感情をぶつければ、誰だって変わるだろうさ。それだけ変化ってもんは、人の心に重くのしかかるものだから。ほなよく考えて使ってや。あんさんに大いなる幸いのあらんことを。」


また、昨晩のようにめふは木の靴をかつんかつんと響かせて、今日はまっすぐ波の音のする方へ消えていった。


やがて、その波の音も、めふの足音に誘われるようにして消えていった。マーゴはやっとの思いで銃器を懐にしまうと、コンクリートの地面につっぷした。やっぱり、肌に触れる鉄の感触は今もまだしっかりと感じられたのだが、彼女の意識はそこでまた途絶えた。


今は日曜日の真夜中。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ