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弐章 創覇大学の騒乱 その2

 理事長の座と、「大学の覇者」の座を奪った秀政に対抗するべく、勇輔たちは協力者を集めて進撃を開始した。

『創覇大学の学長、西条秀政である。この度、六波羅理事長が不慮の事故で亡くなられたため、教員会議の結果、私が新理事長となった!』

 朝日の差し込む学生寮、二〇三号室で、ミミカは虚ろな瞳でテレビの学内放送を見ている。

 秀政は新理事長となり、体制は刷新される。そうした話を夢を見ているように、ただ聞く。

「……ねえ、勇輔」

 朝食にスクランブルエッグとハンバーグを用意した勇輔に、ミミカが力なく声をかける。

「あたし、大学辞めようと思うの。今までありがとう……」

 勇輔は聞かなかったことにした。

「理事長が殺されたのだな。洗濯したお前の服に記憶と血がついていた」

「……そっか、勇輔はサイコメトリーができるんだったね……」

 今までの経緯を話す手間がなくなって、ミミカは少し気持ちが楽になった。

「でも、あたしじゃ学長に勝てないよ。とても怒ってるし、あいつが理事長になるなんて許せない! ……けど、とても敵う相手じゃない」

「料理部は理事長派で対応する。既に学長派から執拗な攻撃を受けていて、片利奈たちや部長が迎撃にあたっている。……俺は、お前の味方だ」

「……ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でも、あいつと戦っちゃダメ」

 弱気が先行するミミカ。勇輔は目をつぶって語る。

「奴は強い。一対一ならどう考えても負けるだろう。だから、まずは味方を集めることだ」

 勇輔は携帯電話でどこかに電話し、ほどなくして、三名の来客が二〇三号室にやってきた。

 西条啓壱朗、村雨頼子、山田敏夫の三人。勇輔が歓迎の言葉を述べる。

「狭い部屋ですまんな。適当な所に座ってくれ」

 三畳半の部屋にはかなりきつい来客である。特に山田の巨体メタボを部屋に入れるのに手間取った。

 勇輔は人数分のお茶を入れて、一同が座るこたつに並べる。

「山田先生は理事長派なの?」

「そうですね。僕は理事長の教えを受け、恩師として尊敬している立場です」

 ミミカの素朴な疑問に答える山田。教え子なら信頼できそうだ。

「啓壱朗君は学長の息子なんでしょ? 学長派じゃないの?」

「あんなのは父じゃありません。喜んで参戦させて頂きますよ」

 疑いの目を向けるミミカに、ニコッと笑って答える啓壱朗。若干信頼できない。

「頼ちゃんが来るなんて意外なんだけど?」

「だって、勇くんが一ヶ月だけ看護師になってくれるって言うから……」

 すっかり勇輔に買収された様子でうっとりする頼子。信用するかどうか判断に困る。

「この五人で秀政掃討作戦を行う。俺と啓壱朗とミミカは学長派を倒す。秀政と戦うのは教員の山田先生だ。頼子は看護センターで待機して負傷者を治療、学長派を治療拒否してもらう」

 勇輔が簡潔に作戦内容を説明する。

「ねえねえ勇輔君。私ってそんな簡単な役目でいいのかな?」

「頼子が味方についてくれて非常に助かる。学長派は怪我をすれば終わりだ」

 勇輔が褒めると、頼子はやったーうれしいと喜ぶ。よほど普段から褒められてないらしい。

「流石ですね勇輔君。看護センターを味方につけるなんて思いもよらないですよ。それに僕が秀政と戦い、皆が支援するというのも名案だ」

「おっさんの強さは俺が良く知ってる。この中では最強だと考えた」

 ベタ褒めする山田だが、勇輔はあくまで冷静だった。

「待って下さい勇輔。僕は父と戦いたいのですよ。雑魚の相手は気が引けるんですがねぇ?」

「啓壱朗、別に戦っても構わんが? 学長派を適当に倒したら好きにしろ」

 勇輔がしれっと言うと、啓壱朗は当然だという顔をした。

「よぉし! あたし元気出てきた! 学長は絶対に倒す! 理事長の無念は絶対に晴らすっ!絶対に負けないわっ!!」

 ミミカはすっかり気持ちが晴れて、明確な目標を打ち立てた。

「勇くん、作戦の開始はいつからなの?」

「今すぐだ」

 頼子の質問に答えて、勇輔は二〇三号室の扉を開ける。

 筋肉ゴリラの寮長が入口にぬうっと現れた。学生寮名物、筋肉おばさん。

「武田勇輔くん。君、自分が何をしようとしているのか分かってるのかい?」

「寮長。邪魔をするなら排除する。そこをどいてくれないか?」

「わたしゃ学長派に付くつもりはないよ。ただね、洗濯機に服を入れたまま出掛けられるのは困るッ! 片づけてから行きなさいッ!」

 勇輔はいつもの癖を怒られて、渋々、干し物をしてから寮外に出た。

 秀政の研究室、もとい居城は西地区の九号棟にあり、同じ西地区の寮からは距離がある。

 勇輔たちはまず頼子と別れて、それから四人並んで道を歩く。

 まもなく学長派の先兵が群れを成して現れた。数百名はいる……!

「きぃ~たぁ~なぁ~!?」

「へへへ、女もいやがるぜぇ!?」

「たった四人で死にに来やがったのかぁ!?」

「このボウガンの的にしてやるぜぃ!?」

「バカどもがぁ、死んじまいなっ!?」

 顔ピアスにカラードヘアーにスパイクシューズにモヒカンにツリ目に眼帯に鉄仮面に長い舌と色々、とかく悪そうな面をした修羅たちがズラリ。

「ちょっと勇輔。まさか正面突破なんて言うんじゃないでしょうね?」

「そのまさかだ」

 ミミカに答えると、勇輔は猛然と敵軍に向かってダッシュ。

「殺せえ!! 撃てえ!!」

 学長派が勇輔に向けてボウガンの弾幕を放つ。

 だが武器を与えただけだった。勇輔は両指で矢を掴み取ると、逆手に返して矢を投げ返す。

「げパォッ! びポゥッ! どプェッ!」

 数人の不運な学長派にドスドスドスと矢が刺さる。脳天に刺さって気絶。

地裂滅砕撃アースクラッシャー!」

 啓壱朗は地面に掌を当て、衝撃エネルギーをアスファルトに加えて激しく隆起させた。

「ボベバッ! ビベバッ! ノベるバッ!」

 学長派の数十人が、せり上がる大地に飲まれて吹っ飛ばされた。

「あたしも負けてられないわ! 思念力兵器イマジナリーウェポンッ!」

 ミミカは両手に連射式グレネードランチャーをぶぅんと形成し、学長派に向けリンクベルト給弾の圧倒的グレネード弾幕を放った。

「ゴブベェッ! ガブボェッ! 助けデベェッ!」

 百連発のグレネードが起こす爆発の嵐。多数の学長派が直撃して卒倒。

「山田だッ! 山田を狙え!!」

 いくらか賢さのある学長派は、理事長派の中核である山田教授を狙ったが。

「いけませんなあ。僕に挑むとは笑止ですよ?」

 最も選んではいけない相手であった。

「六波羅流、正拳撃ただのパンチッ!」

「ゴブァボキボキァァァァッッ!?」

 山田はただのストレートパンチを放ち、愚かなモヒカン学生の胸部を突く。

 胸が拳の形にメリ込み、全ての肋骨を内側にへし折り、内臓が悉く破損し、背骨が崩壊。

 目から鼻から口から耳から血潮が爆発し、遠くの学棟に百回転しながら突っ込んで気絶した。

「つ、強すぎる!! 何だこいつらッ!」

「落ちつけィ! 援軍はいくらでも来る! 兵力を整えて態勢を立て直すのだァ!」

 学長派の言う通り、異変を察知した同志が大学中から西地区に殺到しつつあった。

 秀政を倒す前に無駄な体力を使うわけにはいかない。勇輔が指示を出す。

「俺とミミカで蹴散らす! おっさんと啓壱朗は九号棟に突入しろ!」

「ああ、わかった!」

 啓壱朗は応じて、学長派を蹴散らしつつ最短経路で西九号棟に侵入。

 すぐに山田が続き、彼我の戦力差は二対多数となった。

「ちょ、ちょっ! 勇輔っ! 二人だけでどうすんのよオォォッ!!」

 押し寄せる群衆に威力不足のバズーカを放ちながら、ミミカ叫ぶ。

「お前の兵器をよこせ!」

 二人で肩を寄せ合う形になって、勇輔は顔を最接近させてミミカに要求。

「えっ!? う、うん!」

 ミミカは思念力兵器イマジナリーウェポンの手榴弾を手渡す。勇輔はそれに思念力を込め、ピンを抜いて投げたッ。

 学長派は何を投げたのかと一斉に目を奪われる。その時。

 西地区中の空気がゴワッッと悲鳴を上げ、凄まじい閃光がピカッッと瞬く。

「なぶらぼべばドワらボベシャゴべばアァァアァァッッ!!」

 巨大なキノコ雲がどぉんと上がった。

 二人分の思念力を込められた爆弾は桁違いの極めて効果的な破壊力を発揮、数百名の学長派を大爆発に飲みこみ、付近のガラスを全破し、半径五キロ以内で携帯電話を使用不能にした。

「ちょ……」

 耳を塞いでいたミミカが、冷や汗をだらだら流して驚愕する。

「思ったより威力が出た。今は反省している」

 同じく耳を塞いでいた勇輔、反省の弁。

 眼前の地面には巨大なクレーターが開口し、学長派は全員吹っ飛ばされ、付近の立木や植生や石段に洗濯物のように干されていた。学長派、壊滅。

「はぁ……もう二度と、あんたに兵器は貸さないから!」

 ミミカは溜息をついて、そう心から誓った。

 

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