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壱章 世界最強の大学 その3

 勇輔を倒すために「サークル」に入ったミミカ。

 新たな能力を身につけて、つよそーな技で挑んだはいいが……

 一ヶ月後。寒気の残る三月の終わりに、勇輔はふらりと買い物から帰ってきた。

「パックの寿司とビーフジャーキーとコーラ。これでいいか?」

「うん。そこに置いてていいよ」

 ミミカは朝っぱらから寮でテレビゲームに夢中になっている。

 パソコンや漫画やアニメのDVDが棚に並んでおり、全てミミカの私物だった。

「これから食事を作るが……」

「いらない。寿司あるからいいもん」

 ミミカが素っ気なく答えると、勇輔はとても残念そうな顔をする。

 彼はいつも健康的な食事を作っているのだが、外食好きは一切食べようとしない。

「くそ……なぜ料理だけ……!」

 勇輔はイラつく。ミミカはいかんせんズボラであり、家事全てを勇輔に押し付けている。

 部屋には女物の下着が干されているが、これも全て勇輔が洗濯して干して畳んで片付ける。

 にも関わらず料理だけは食べてくれない。勇輔は馬鹿にされた思いだった。

「あーん、やられちゃったー……」

 海外製の一人称シューティングゲーム。敵に撃たれてゲームオーバーするミミカ。

 ゲーム機の電源を切り、そして唐突な質問をする。

「勇輔は今日の『新歓』に行くよね?」

「しん……かん……?」

 勇輔は買ってきた生野菜を冷蔵庫に入れながら、首を捻って応える。

「新入生歓迎会のことだよ。大学の『サークル』が新入生を呼びこむイベントよ」

「サークルというのが良くわからんが?」

「要するに同好会よ。趣味が近い人たちが集まって、色々な活動をするの。要は部活ね」

 利発的に話すミミカ。勇輔は何かを悟ったように問う。

「……お前はやたらと外出しているが、そのサークルとやらに入っているからか?」

「うん。これ受け取って」

 小さな手紙を胸の谷間から取り出し、少し恥ずかしそうに勇輔に手渡す。

「東地区の学内掲示板の前で待ってるから。じゃあね♪」

「何だ、これは……」

 少女は答えもせず、ドアを開けて出ていく。勇輔はハートマークの封をした手紙を開く。

 果たし状。武田勇輔。本日朝九時より決闘を申し込む。鳳仙院ほうせんいんミミカ。

 そう書かれていた手紙バトルレターを読み終えて、ぐしゃっと握り潰す。そして玄関の傘を手に持つ。

「買ってきた寿司さえも食わないと? 制裁が必要なようだな……」

 勇輔は怒りを露わにした。絶対にブッ倒すと心に決め、二〇三号室を出る。

 寮外に出て足早に東地区へと向かう。学内は多くの学生で混雑している。

 新入生向けに様々な催し物や、小さな屋台、サークルの説明会などが開かれていた。

「おや、勇輔君じゃないですか」

「……啓壱朗か」

 道中の中門で啓壱朗と会う。すっかり怪我も良くなったようだ。

「あなたもサークルに入るのですか?」

「いや違う。あの馬鹿女を成敗するために来た」

「ミミカさんですか、気をつけなさい。創覇の新歓は文字通り力で新入生を勧誘しますからね。特に貴方は首席で入学した人、欲しがってるサークルはいくらでもあります」

 創覇大学におけるサークルとは、軍閥や暴力団のようなものである。

 様々な戦闘能力を持つ学生たちが派閥を形成し、予算配分を巡って日夜争っているのだ。

「誰が来ようが関係ない。邪魔する者は排除する」

「貴方らしいですね? 僕もついていきますよ。どんなサークルを選ぶのか興味ありますし」

「俺は、サークルになど入らん……」

 そう言いながら二人で見物をしつつ、東地区の掲示板の前へやってくる。

「待ってたわよ勇輔。どう? 似合う?」

 額にバンダナを巻いて長髪をポニーテールとし、上半身はタンクトップ、下半身にショートパンツを履いて、長い軍靴を履いたスポーティースタイルなミミカが待っていた。

 まるで今にもゾンビと戦いそうな、ハザードでミリタリーな出で立ちである。

「何だその服は。俺が買ってやった覚えがないが?」

「ふっ……これはあたしが思念力で作った服よ。通常の服より遥かに頑丈で軽量、さらに出し入れ自由っていう優れものなのよ! 凄いでしょっ!」

 いつの間にそんな能力を覚えたのか。ミミカは自慢するが、勇輔は困惑。

「思念力で作ったのか。ならば、お前を倒すわけにはいかんな」

「はぁ? 何言ってんの勇輔?」

「お前が気絶したら服が消える。寒い日にそれは困るだろう……」

「!?」

 ミミカは想像して、ぼぅんと顔から高熱の蒸気を噴き出す。

「し……しまったッ! あたしとしたことが初歩的なミスを! でで、でも、下はちゃーんと本物の下着を着てるから裸にならないてかそんなこと言わすなッ!」

 狼狽して顔真っ赤にして恥ずかしい台詞を放ち、傷口を広げるミミカ。

「そ、そうだ! 気絶する前に勇輔を倒せばいいのよっ! そうすれば服は消えないっ!」

「呆れた奴だ。ちゃんと本物の服を着てから来い……」

 相手にもならぬとばかりに背を向ける勇輔。

 しかし、ミミカにとってはチャンスだった。思念力で作れるのは服だけではない。

 まだ勇輔に知られていない新能力、思念力兵器イマジナリーウェポンがあるッ!

「にしし……」

 こちらを見ていない勇輔に向け、両肩に四連装ロケットランチャーを形成して構えるミミカ。

 ミミカの思念で作られた文字通り兵器。それを見た啓壱朗は目を見開いた。

「あれは……!?」

思念力兵器イマジナリーウェポン……ファイアーッ!!」

 叫ぶミミカ。異変に気付いて振り向く勇輔の眼前に、白煙を噴くロケット弾頭が目に入る。

 チュドガォンと轟音が響き、立ち上る爆炎と広がる衝撃ッ。

「まだまだまだァーッ!!」

 ミミカはトリガーを連打してロケットランチャー全弾を勇輔に叩きこむ。

 凄まじい爆風と衝撃波が巻き起こり、近隣の学棟の窓ガラスが全破ッ。

「とどめだーっっ!!」

 追撃の手榴弾を両手いっぱいに具現化し、もはや姿の見えない勇輔に投擲。

 キノコ雲ができるほどの大爆発ッ。悲鳴とともに逃げ惑う学生たち。

「はぁ……はぁ……やったわッ! 勇輔を倒したッ! この作品完ッ!」

「ミミカさん。それはちょっとやりすぎでは……」

 苦言を呈する啓壱朗。拳をグッと握って意気軒昂に語るミミカ。

「これくらいしなきゃ勇輔に勝ったことにならないのよ! あいつはきっと、バラバラに粉砕しても復活するくらいしぶといはずだわッ!」

 そう言って勇輔の方を向くと、薄らぐ煙から開かれた傘が見えた。

「見た目は派手だが……」

 ぼそっとつぶやいて傘を閉じる。思念強化した傘で防御し、無傷。

「なん……だと……」

 愕然とするミミカ。青ざめた顔で両腕をだらりと下げる。

「ば……馬鹿なッ! あたしの攻撃が無傷!? なんで!? どーしてぇっ!?」

 あちゃーと呟いて、手で顔を覆う啓壱朗。

「思念力で重火器を作っても、それは幻想の産物。本物と同じ威力にはならないのですよ……」

「う……。そ、そんなっ……」

 がっくりするミミカに、つかつかと歩みよる勇輔。

 凄まじい爆音のせいで耳がきぃんとしている。

「少し効いた。俺の鼓膜にダメージを与えたことは褒めてやろう……!」

「びぎっ!? い、痛ッ! いったああああああい!!」

 ミミカの頬をぐにっとつねって制裁。寿司を食わなかった罪は何より重い。

「どうせゲームで見た兵器だろう。お前は本物を撃ったことがあるのか?」

「うわーんっ! 日本じゃ無理に決まってるでしょ!! うああああん!!」

 泣き叫ぶミミカをぐりぐり攻めるが、すぐに側方からの殺気に感づく。

「む……?」

 掴んでいたミミカを放し、勇輔は後方に避ける。

 二本のコンバットナイフが飛来し、近くの学棟の壁に突き刺さった。

「避けるとは流石だな、勇輔君。入学試験では我が部下が世話になったようだな?」

 グリーンベレーにいかつい軍服を着て、サングラスをした長身の男が出現。

 続いて、入学試験の時に警備員をやっていた四人の軍装男たちが現れる。

「せ、先輩方! 部長も!」

 ミミカは目を丸くしてサークルの同志を歓迎。彼女は軍オタになっていた。

「御苦労だったなミミカ君。後は『軍事研究会』に任せたまえ……!」

 そう言って、軍研の部長は拷問に使うような長鞭を手に具現化する。

「ミミカに技を教えたのはお前か?」

「当然だ勇輔君。私は思念力兵器イマジナリーウェポンの師匠として部を預かっている。そして、彼女は軍研の若きホープ、いずれ我が部を救う女神となる存在なのだ。虐めは許せんな?」

 ニタァと笑う軍研部長。後方の四人もライフル銃を思念物質化して構える。

「だが良い機会だ。君も軍研に入部するがいい。そう、力ずくでなボァッ!」

 勇輔は一瞬で距離を詰め、ハイキック一発で軍研部長を蹴り倒す。

「ぶ、部長!? げふァッ! がぼァッ! ぬぶァッ! あぼァッ!」

 入学試験の時と全く同じ断末魔で殴り倒される軍服の雑魚ども。

「ああっ!? そんな! 軍研が全滅するなんてっ……!」

 先輩たちのあまりの弱さに絶望するミミカ。涙をだうっと流す。

「時間を無駄にした。俺は帰る……」

 勇輔は不機嫌そうな顔でくるっと振り返る。啓壱朗がニコッと笑う。

「帰り道は随分と遠そうですが、一人で大丈夫ですか?」

 勇輔の眼前には大勢の『勧誘らち』に来たサークルの連中が待ち構えていた。

 全員が全員、何としても期待の新入生を入部させようと、飢えた獣のような眼をしている。

「命知らずが多いようだな……啓壱朗はサークルに入っているのか?」

「僕はまだです。テニス部に入りたいんですが、奴らが行かせてくれなくて」

「なら、考えていることは同じだな」

 そう言って二人は横並びになり、キリッとした顔でザッザッと闊歩。

「勇輔君! ロックバンド部にどゲブァッ!」

「武田君! 漫画アニメ研究会にガべッ! ゴベッ!」

「待て待てィ! ダンス部にガビブゥッ!」

邪宗親鸞会しゅうきょうだんたいに入って世の中に慈悲をのバァァァッ!」

「同志よ! 東亜反日武装戦線テロそしきにアヂァァァッ!」

 勧誘者を次々を殴り飛ばす勇輔に、炎熱隼襲波フレアーイーグルで焼き払う啓壱朗。

 中には救いようのない連中もいるが、大学では良くある勧誘だ。騙されてはいけないッ!

「勇輔君っ! 医学部に入ら……あっ!?」

 殴ろうとした相手を見て、ピタッと拳を止める勇輔。頼子だった。

「すまん、悪気はなかった。医学部への入部は断らせてくれないか?」

「そ、そっか。残念だなぁ……」

 頼子は本当に残念な顔をして看護センターに帰っていく。医学部は今年も新歓に失敗した。

「勇輔君、キリがないから学生食堂に行きませんか?」

「……そうだな。いくら倒してもゴキブリのように湧いてくる。一時避難だ」

 無数のゴキブリどもを殴り倒しながら、二人は近くの学生食堂に向かう。

 勧誘屋も流石に建物の中までは追ってこなかった。

「学生食堂では勧誘禁止ですからね。ここならゆっくり時間を潰せますよ」

「そうだな啓壱朗。俺は食事がまだだが、お前も何か食うか?」

「いいですよ」

 三角布にエプロン姿の筋肉ゴリラのおばちゃんが働く、世界最強の食堂。

 勇輔は健康的な和食を選んで会計。啓壱朗はカルボナーラを注文する。

 食事を載せたトレーを運び、二人で窓際の席に座って語り合う。

「勇輔君はどうして創覇大学に来たのですか?」

「山田のおっさんに捕まった。それだけだ……」

 嫌なことを思い出してぶすっとする勇輔。

「何だか違うようですけどね。僕と戦った時の君は、とっても充実した顔をしていましたよ。まるで、ああなるのを望んでいたかのように……ね」

 拳で語り合った人には分かるのか。啓壱朗の真意を突いた指摘。

「……俺は学校に行ったことがない。ずっと戦いをして生きてきた。ヤクザの用心棒になって薄汚れた金を稼いで、警察から逃れながら放浪していた……だから多少の憧れはある」

「それは深刻ですね。まあ、僕も似たようなものですが……」

 目を伏せる勇輔に、啓壱朗は自ら経歴を語る。

「知っているかもしれませんが、僕は創覇大学の学長、西条秀政さいじょうひでまさの息子です。幼少から思念力の英才教育を受けて、ただ強くなるために生きてきました。父を超えるためにね」

「知っている。お前の服や眼鏡を殴って、着衣に残された記憶を知り、大体の過去を知った。家族に不幸があったのだな」

「……あなたに嘘はつけないようですね。その通りです」

 啓壱朗はスパゲッティをフォークで絡め取り、一口だけ食べて述べる。

「僕の母は、父に殺されたのです……!」

 ミミカが聞いたら背筋が凍るような台詞。力を込めて吐露する。

「貴方に放った物理力を使う技は、正式には『四神ししん』と言います。朱雀は炎、玄武は土というように体系づけられていますが……まあそれはどうでもいいですね。これの訓練は苛烈を極めました。僕は父に打ちのめされて、心も体もボロボロにされました」

 拳をぐっと握る啓壱朗。炎や氷を技として操るのは容易ではない。

「そんな僕の様子を見て、母は訓練の中止を訴えました。しかし父は認めませんでした。後継になれるのは僕しかないと言ってね。母は身を挺して僕をかばいましたが、それが悪かった」

 啓壱朗は怒りと悔しさを顔に込めて言う。

 勇輔は唐揚げをモシャッとかじりながら補足する。

「奴の放った氷の技が、偶然に母親の腹部を貫き、事故死したのだな。お前の眼鏡にその記憶が強く残っていた……」

「昔の話です。僕は父に恨みや殺意がある訳ではありませんよ。父より強くなりたいのです。父の強さを上回り、父の間違いを示すことが、母親の供養になると思うのです」

「そうか。お前は自分の目的に熱心なのだな」

 勇輔はコップに入った水を飲み、半分だけ残ったそれに思念力を込める。

 水を綺麗な球体に成形して手のひらに取り出す。ミミカに教えた物体操作の技術だ。

「啓壱朗はこれができるか?」

「いえ。全く……」

「俺がこの能力を覚えたのは六歳の頃だ。本を読むだけで内容を暗記できるのがバレて、そのせいで勉強漬けの毎日を送っていた……」

 勇輔は裕福な家庭に生まれた。親は彼の才能を知るやいなや、一流の英才教育を受けさせた。

 彼は『玩具おもちゃで遊ぶ』という行為を全く知らずに育てられたのである。

「こうやって水を固めて遊ぶのが唯一の遊びだった。親に知られないように隠れてやっていた。だが、俺は子供だった。自分の能力の制御が思うようにできなかった」

「思うようにできなかった、というのはどういうことですか?」

「……ガス台に悪戯で思念力を込めて、それに、母親が火をつけた。自宅は爆発炎上して家族が全員死んだ。俺は怖くなって逃げた……」

 幼き日の忘れがたき記憶。目の前で母親が砕け散った凶夢。

 辛い過去を思い出し、深く深く沈みこむ勇輔を、啓壱朗が優しく諭す。

「六歳の子供では、重大な結果を予想できなかったのは仕方ないでしょう?」

「俺が家族を殺したことは事実だ。お前のように、正しい使い方を指導してもらえるのは幸福な方だろう。俺の家族は普通の人間だったからな……」

 人間は誰でも思念力を持っているが、能力として発現するには、きっかけがいる。

 勇輔は玩具が欲しかったから。ミミカはイジメられていたから。啓壱朗は訓練したから。

 創覇大学は、そのような人間を受け入れる最終処分場と言える。

「俺のような『犯罪者クソったれ』には、こういう大学が相応しいのだろう。何か間違ってるか?」

「ハハハ、反論の余地もないですねぇ……」

 啓壱朗はそれもそうだと思ってけらけら笑った。

「ところでミミカさんのことですが。貴方、何か不思議に思いませんか?」

「いや、別に。いきなりどうした啓壱朗……」

 勇輔は話題を変えてきた啓壱朗に首を捻る。

「貴方同居してるんですよね? 本当に何とも思わないのですか? 本当に? 本当に?」

「しつこいな。何が言いたい貴様……!」

 機嫌を損ねた勇輔が、カルボナーラの入った皿に指を添え、スパゲッティの味を悲惨なモノに変えるよう思念力を込める。

「うわァッ! 麺がぐちゃっと崩壊してマズいッ! 能力にこんな使い方が……ッッ!?」

 一口食べた啓壱朗が、あまりのマズさにゴブッッと噴き出した。

「俺をなめるな。何が言いたいのか正直に述べたら戻してやる」

「す……すみません。話したいことは彼女の能力について。あんな短期間に新しい能力を身に付けるなんて見たことがないのです。不思議に思いませんか?」

「……別に。センスがあるだけじゃないのか?」

 勇輔は不思議に思わなかったが、啓壱朗には異様に映った。

 ミミカは僅か一ヶ月にして思念力兵器イマジナリーウェポンの技を覚えていたのである。

「僕に言わせれば異常です。障壁バリアーもそうですが、ミミカさんは何かおかしいのですよ。いくら思念力でも、無敵の能力なんて作れっこないのに」

「アレのどこが無敵だ? 走っただけで切れるし、俺が殴ったせいで忘れてしまったんだぞ。兵器にしたってそうだ、花火に毛が生えたような威力しかない。過大評価のしすぎだ」

 二人の話がどうも噛み合わない。

「じゃあですよ。もしミミカさんが兵器の威力を本物並みに上げて、格闘技を僕ら並みに鍛え、障壁バリアーも使えるようになったらどうなると思います?」

「そんな仮定の話は意味がない……」

 勇輔は素っ気なく答える。現実主義者に想像の話は通用しない。

 しかし啓壱朗は違った。サディスティックな顔をしてニタァと笑む。

「僕は、彼女の『才能』を『脅威』に感じる……!」

「言っておくが、ミミカは俺の同居人だ。手を出したらどうなるか分かっているな? 全力で数百発は殴って全身の骨を砕き、二度と大学に来れない体にしてやるぞ……」

 非常に怖い恫喝。流石の啓壱朗も額に汗を浮かべて引き下がった。

「は……ははは。冗談ですよ」

「俺は冗談が得意ではない。ミミカの話をするときは細心の注意を払え」

 そう言って、勇輔はスパゲッティの皿に触れて、それに思念力を込める。

「無駄話が過ぎた。俺は帰る。じゃあな」

 勇輔は手早く昼食を平らげて席を立つ。啓壱朗は一人でぽつんと残された。

「ハハ、あれがツンデレってやつなんですかねぇ……」

 苦笑いして残りのカルボナーラを食べる。そして……啓壱朗は目をギンッッと見開いた。

「こ……これはッ!?」

 驚愕する啓壱朗。勇輔はその様を見ることもなく、食堂を去る。

 学食の階段を降りると、近くに小さな屋台があり、女の子たちがお菓子を配っている。

 勇輔は何となく気になり、軽く立ち寄ってみた。

「そこのお兄さん! 料理部の作ったお菓子、食べてみませんかー?」

 十代半ばくらいに見える若い子が、できたてのクッキーを差し出す。

 勇輔は焼き菓子を手に取り、軽く香りを確かめると、それから一言。

「一キログラム当たり〇・〇三ミリグラムの唐辛子が入っているようだが、これは、何の意図で入れた隠し味だ?」

「えっ!? ……ぶわっ」

 的確すぎる指摘。ショートヘアーの女の子が、いきなり滝のような涙を流す。

 それだけではない、別の子たちも皆が揃ってぶわっぶわっと感涙を流す。

「……? どうした、お前ら」

「未だ……未だかつて、食べる前にそれを当てた人は……いませんッ!」

 震え声で語るショートヘアーの少女。勇輔は状況がよく分かっていない。

 お菓子を食べて隠し味を当てられる人を勧誘するつもりが、それ以上の、とてつもない逸材を見つけてしまったのだ。

 料理部の少女たちは、マスゲームのように三角に整列し、勇輔に土下座。

「お願いですっ!! 私たちのために、どうか、どうか協力して下さいっ!!」

「……!」

 ボロ泣きしながら声を合わせて懇願する料理部員たち。

 勇輔は……心動かされた。


 数日後。ミミカは敗戦の後、どうしたら勇輔を倒せるかと研究を重ねた。

(勇輔にバレないように攻撃すれば先手を取れる! なら、あたし自体が見えなくなれば!)

 そう考えて特訓した結果、ミミカは新たな能力を獲得した。

迷彩ステルスを発動っ!」

 多くの部活動が集まるサークル棟の前で、私服姿のミミカは新しい能力のテストを始める。

 どこかのロボットゲームで見た、完全なる迷彩化の能力。それを実際に身につけてみた。

迷彩ステルス完了っ! 完全に消えたかな?)

 辺りの風景と同化するミミカ。手近な学生に忍び寄ってみる。

 顔面ピアスに金髪のモヒカン頭をした、ロックバンド部の小汚い男がターゲットになった。

(おめーら、ギターやドラムの音がうるせーのよ! 思念力を込めた楽器で夜中までドッカンドッカン爆音を鳴らしやがって! 成敗してやるっ!)

 そう思いつつ男に忍び寄る。迷彩ステルスは軍研と協力して完璧に仕上げた。

 身体や衣服はもちろん、手に持つ鉄パイプまで完全な迷彩化を達成している。

「ん? ……あべびッ!」

 鉄パイプを全力で振り、男の顔面を強打。気絶するモヒカン野郎。

(よし! テストは大成功だわ! さっそく勇輔を倒しに……お?)

 会いに行こうと思った矢先、遠目に勇輔の姿が見えた。手には買い物袋。

(こっちに向かってくる? よし! まずコイツをどこかに隠して……)

 気絶したモヒカンを適当な死角に投げ捨て、鉄パイプを握って勇輔を待つ。

 迷彩ステルスにも欠点があり、他の能力を使うことはできない。使えるのは己の身体に限られる。

(それにしても、あいつサークル棟になんか用あったっけ? まあいいや)

 勇輔がサークル棟の入口に来る。ミミカは斜め前で、息を殺してひっそり待つ。

(バレてなーい、バレてなーい……)

「お前、こんなところで何をしている?」

「!」

 びくっとするミミカ。心臓がドッコンドッコンする。頭の中でアラートが鳴っている。

 例えるなら隠れていた段ボールを剥がされたような。危険度が九十九パーセントに達する。

(えっ!? そんな馬鹿なっ! 当てずっぼうだわ! きっとそうよッ!)

「顔はこの辺か?」

 勇輔は硬直するミミカの頬に手を触れた。髪を撫でられて心臓が爆発する。

「ちょっ……ちょっと止めてよっ! 顔触らないでよおぉぉっ!」

 我慢できなくなって顔真っ赤にして迷彩ステルスを解除する。苦言を呈する勇輔。

「またお前かミミカ。いくら能力を増やしても無駄だ」

「な、何でバレたのよぉう……」

「影が見えた。それと地面のレンガの記憶を辿った」

 そう聞くと、ミミカは悔しそうにがっくり。影のことまで考えてなかった。

 一度疑ったら勇輔は徹底的に索敵しなければ気が済まないタチだ。

「俺はサークルに忙しいのだ。お前に構ってる暇などない……」

「ちょっと待って! サークルに入ってるの? あたしより先に誰かに負けたっていうのっ!?」

 ぶわっと涙を噴き出すミミカ。勇輔は頭を掻いて誤解を解いてやる。

「殴り合いで負けたわけじゃない。あいつらの熱意にやられた。今は料理部員になっている」

「料理部ッ!? 馬鹿なッ! ありえんっ!!」

 あまりにも意外すぎるサークル名を出されて顔をコミカルにするミミカ。

「話はここまでだ。俺は昼の十二時までにやることがある」

「ちょっと、あたしもついてく。勇輔がどーして料理部を選んだのか、見てやろうじゃない!」

 二人はサークル棟に入り、階段を登って、ロックバンド部と漫画アニメ研究会と模型研究会のスペースを横目に進んで、その先にある小さな一室に辿り着いた。

 扉を開くと、メイドたちが白銀の食卓の前にメイド服姿で整列し、勇輔に向かって一斉に礼。

「お待ちしておりましたシェフ。部長が空腹でおられます。本日もよろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!!」

 料理部員の籠目片利奈かごめかたりなが音頭を取り、部員全員でお昼のあいさつ。

 随分と尊敬されている様子にビビるミミカ。

「うむ。まずは野菜の下ごしらえから入ってくれ。今日はプランRで行く」

 そう言ってテーブルに買い物袋を載せる勇輔。

 卵とトマトと玉ねぎと人参と色々……近くのスーパーで買えるような普通の食材である。

 料理部員のメイドたちは、料理選手権でもやるような非常に真剣な顔つきで手を洗い、勇輔の指示通りに野菜を包丁で加工。わずかでもミスをした部分は全て廃棄される。

「うっ……何かすごいオーラ出てる……」

 一流の調理風景を目の当たりにして、ドン引きするミミカ。

 勇輔は挽き肉を手でほぐし、慣れた手つきで卵を割り、菜箸でカチャカチャとかき混ぜる。

「片利奈、人参を一分三十二秒後に渡せ。玉ねぎは三分五十一秒で、トマトは四十六秒茹でて十四秒以内に潰し、五分六秒で渡せ。一秒でもミスったら全てやり直す」

「はいっ!」

 あまりにも具体的すぎる指示。片利奈はビシッッと敬礼し、生真面目に応じた。

 野菜と挽き肉を炒めて、ご飯とチキンブイヨンを加えチキンライスを作る。

 軽く茹でて潰したトマトを別鍋にかけて調味料を足し、トマトソースを作る。

 最後に、卵をフライパンで焼いて半熟のオムレットを作り、チキンライスを巻いて温めた皿に載せ、トマトソースをかける。オムライスの完成。

「何これ。いつも寮で作ってるような普通のご飯じゃない……」

 首を傾げるミミカ。勇輔は彼女の分も作り、その眼前に差し出した。

「食べろ」

「いや、食べろ言われたって困るわよ……。何でそんないきなり」

「お前が普段、俺の料理を侮って食べないからだ。この機会にちゃんと食え」

 勇輔がプライド全開で要求すると、ミミカは舌出して拒否。

「やだよーだ! あたし高級レストランの料理しか食べないもん!」

 育てられた環境が歪んでいるのか、ミミカのとてつもない我侭。

 それを聞いた片利奈、ミミカに詰め寄る。

「シェフの料理が食べられないと言うんですか! こんな凄い人はどこにもいないんですよ!」

「何がシェフよっ! いい年こいてオママゴトしてるんじゃないわよっ!」

 性格に問題のあるミミカ、先輩のはずの片利奈に食ってかかる。

「何ですって! 新入生のくせに生意気ですっ!」

「やめろ片利奈。冷める前にオムライスを部長に供するぞ」

 勇輔がたしなめると、片利奈はハッと我に返って口喧嘩を止める。

「そうですねシェフ。みんな、カーテンを開いて!」

 片利奈が号令をかけて、料理部員たちが部屋の奥のカーテンをオープンッ。

「部長のおなーりぃーっ!!」

 眩しく輝く奥の部屋に、シルクのドレスを着た長髪のお嬢様がたたずむ。部員全員で最敬礼。

「紹介しましょう。料理部長にして創覇大学の修士しゅうし、そして理事長の孫娘であらせられる真田さなだゆかり様です!」

 キラキラと輝く御席に座る、真のセレブを紹介する片利奈。ちなみに彼女は二十歳はたちである。

「はじめまして、鳳仙院ミミカさん。あなたの噂は聞いておりますわ」

「は……はぅっ……はじめまして……」

 ゆかりの透き通るような声にたじろぐミミカ。

 あまりの輝くセレブリティに圧倒されて、ただポカーンとするばかり。

「部長。本日の御昼食はオムライスです。頑張ったところはチキンライスの火加減です。苦労したところはトマトソースの味付けです」

「小学生の料理発表会かッ!」

 クソ真面目に話す勇輔に、ミミカが突っ込む。

「あら。これはおいしそうですわ」

 ゆかりはあらかじめ人肌に温められたスプーンを手に取り、トマトソースと半熟のとろける卵とチキンライスをすくって口に運ぶ。

「うん。良いお味。酸味が強すぎないのがいいですわね。もぐ、もぐ」

 ゆっくりお食べになる部長。女子部員たちは一斉にだうう~っと大粒の涙をこぼす。

「あんたら、何をそんなに泣いてるの?」

「ミミカ、貴方は知らないのです……。部長は世界一の舌を持ち、一口食べるだけでも五ッ星レストラン間違いなしと言われるほど味にうるさく、私たちがいくら最高級食材や一流料理人を集めても、全てちゃぶ台を返して、全くお食べにならずっ……!」

 片利奈は心に刻まれたトラウマの数々を思い出しつつ、涙ながらに語る。

「食べれば食べるほど贅沢になり、ついには栄養失調にかかられて、点滴で暮らすようになり、骨と皮だけになって死にかけておられたっ……!」

「何言ってんのよ。ゆかりさんはちゃんと普通の体してるじゃない」

 ミミカが率直に突っ込むと、片利奈は目をぎらっとする。

「それは、シェフのおかげなのです! シェフが来るまで何一つとして食べなかった部長が、今やこんなに健康的でふくよかな体になられてっ! シェフの料理をいつも完食なされてっ!こんなことっ! あ、あり……あり、あり……ありえっ……! ありえなっ……!!」

 感極まって身を震わせる片利奈。他の女子部員たちも一斉に感極まり、合唱。

「ありえないですうぅ~~っ!!」

 ぶわっぶわっぶわわっとさらに大量の涙。彼女たちが泣くのは訳がある。

 超グルメのゆかりのために最高級の食材を集めようと、彼女たちは世界を駆け巡った。

 アフリカのサバンナでは猛獣と格闘し、中国の断崖絶壁に燕の巣を取りに行き、ブラジルのアマゾン川でアリゲーターと死闘を演じ、あるいはマリアナの深海で巨大イカを捕まえようと命がけの潜水を敢行した。

 だが、そうして作られた料理を、ゆかりはことごとくマズいと投げ捨てた。

「部長は身体が弱っていた。そこで、俺はまず雑炊を作ってあげた。うどんやラーメンを食べさせて体力を取り戻し、今では普通の料理を楽しめるようになった」

「ううっ……こんな簡単なことに気付かないなんて、あたしたちは料理人失格ですっ。シェフには感謝してもしきれないですっ……!」

 勇輔の食事療法により、ゆかりの命は救われたのであった。

「どうせ料理に思念力を込めたんでしょ? そんなズルやチートして恥ずかしくないの勇輔?」

 ミミカの珍しく的確な突っ込み。勇輔はぶすっとした。

「料理は心を込めて作るというだろう……」

「だ……誰が上手いこと言えと!」

 見事な方便で返され、ミミカはしてやられた顔をする。

「ああ、美味しかった。ミミカさんは食べませんの?」

 オムライスを完食して、口元を紙ナプキンで拭いて、ゆかりが尋ねる。

「思念力で強化したご飯なんて旨いに決まってますっ! ゆかりさんは騙されて……ん?」

 死角からぽんぽんと肩を叩かれる。くるっと振り向くミミカ。

「食べてから物を言いなさいですっ!」

「がぷゥ!?」

 片利奈がスプーンにオムライスを盛り、ミミカの口に無理矢理突っ込む。

 その瞬間、ミミカの意識が虹色の別世界に飛ぶ。

(はうァッ!? 黄金のごとく輝く鶏卵がまるで生クリームのようにふわっととろけて旨いッ!トマトソースが瑞々しく素晴らしい甘みと酸味、まるで輝くルビーのようッ! 大地の豊穣の全てを持ち合わせたようなチキンライスが力強い味で旨いッ! 旨すぎるウゥッ!!)

 しばらくポカーンとして、それから一言。

「ま……まぁ、そこそこ美味しいわね。ばくばく! ばくばく!」

 激しくオムライスに食らいつき、口元に米粒をつけて説得力のない言葉。

 片利奈が不思議そうな顔をして腕組み。

「おかしいなあ。普通の人ならシェフの料理食べたら気絶するんですけど……」

「んな危険な物食わすなッ! ばくばく!」

 ソースに至るまで完食しながらイチャモンつけるミミカ。

「勇輔っ! お代わりッ……じゃねえ! あんたみたいな男が料理上手ってどういうこと!」

「俺は一人暮らしが長かったのだ。料理の一つも作れなければ生きていけん」

 十二年も孤独に暮らしていた男の言葉。実に説得力がある。

「ミミカさんって普段から美味しいもの食べてらっしゃるのね。料理部にお入りなさらない?」

「えっ! そ、そ、それは……その……もじもじ……」

 ゆかりからのお誘いにミミカ、本気で悩む。

「無理に入る必要はない。お前は俺の同居人だ。家で一緒に料理を食え」

「えっ! ざわざわ……ざわざわ……」

 勇輔がいらぬことを言うと、女子部員たちが血相を変えて、あることないこと噂を始める。

「ミミカってシェフの恋人なんですかっ!?」

 片利奈が興奮した様子で聞く。ミミカのガラスの心が砕け散った。

「ちちち違わい!! あたしはただ勇輔を倒すために仕方なくっ!」

決闘デートしてるんですか!? 一緒にお風呂に入ってるんですか!? 一緒に寝てるんですかっ!?」

「そうだが」

 正確な事実を答える勇輔。ミミカはどかーんと爆発した。

「きゃーっ! スゴくラブラブじゃないですかっ! あれ、ミミカ?」

「あ……う……あうう……」

 ミミカは白目を剥いて口から泡噴いて失神。乙女には刺激が強すぎた。

「あら、来客ですわ……」

 そんな折、部室のドアをどんどんと叩く音。ゆかりはドアに歩み寄り、自ら扉を開く。

「どなた?」

「板前連合会の者だっ。武田勇輔はおるか~っ!」

 ぬうっと現れる前掛け姿の巨体。対面の部室のライバル、板前連合会の巨人部長だった。

「俺に用だと? お前など知らんが」

「知らなくて当然よ。お前はこれから我が板前部の所属となるのだっ!」

 そう言ってドカドカと入りこんでくるデカブツ。片利奈が立ちはだかる。

「通しませんよ! シェフは我が部の大事な……きゃあうっ!」

「雑魚はどけェい!」

 バシィと平手打ちされて厨房に叩きつけられる片利奈。凄まじい剛力だ。

「勇輔! 何でぼうっと見てるのよ! 男ならバシっと倒しなさいよ!」

「その必要はない……」

 ミミカと勇輔のやり取りの後、ゆかりが伏しがちな顔で、プルプルと体を震わせて進み出る。

「よくも私の可愛い片利奈を叩いてくれましたわね……」

「女はどけい! 貴様ごときが俺にゲブゥ!?」

 シャネルの靴で金玉を蹴りあげる。悶絶するデカ男。

「はああああああああああああああああああっ!!」

 手のひらに思念力を集め、凄まじいオーラがゆかりから迸るッ!

六波羅流ろくはらりゅう思念気功波しねんきこうはっ!!」

「ビビベバビベブフゥッ!?」

 ズボバゥッと轟音を立てて、高出力のエネルギー波が手のひらから爆放ッ。

 デカいだけの大男を波動に飲み込み料理部のドアから追放、ついでに対面の板前部を破壊し、部員全員をサークル棟外へ吹っ飛ばす。かくして板前部は壊滅した。

「あら、手加減したつもりでしたのに。くす……」

 観音のように掌を突き出したままゆかりは微笑。

 口をあんぐりと開けて、ミミカは放心状態。

「な……何これ……。どこかの宇宙人バトル漫画じゃなしに……」

「栄養失調にさえならなければ、部長は俺より強い」

 謙遜しつつ勇輔は厨房に向かう。片利奈が半分気を失っている。

「片利奈、大丈夫か?」

 そう言って手を差し伸べる。片利奈は顔をほんのり赤らめながら手を握る。

「シェ、シェフ……だめです。そんなことされたら私、恋しちゃいますっ……」

 愛おしそうに手をしっかり握って起き上がる片利奈。

 ミミカは嫉妬したのか、顔をぷんすかと膨らませた。

「あたし帰る! 勇輔が楽しそうにしてるの分かったからもういいわっ!」

「そう言えばミミカさん、私の祖父があなたに会いたがっておりますわ」

「……えっ? ゆかりさんのお爺さんが? はて……」

 身に覚えがない話をゆかりにされて、ミミカは眉をひそめて首を傾げる。

「私から祖父に電話しますから、今度、理事長室を尋ねてみて下さい」

「は……はぁ……? 何だろ、そんな唐突に……」

 こうして、ミミカはよく分からないうちに理事長と面会する予定になった。

「理事長から呼び出されるなんて名誉じゃないですか。よかったですねミミカ」

「うるせー黙れ片利奈っ! 勇輔はあたしの獲物だぞっ! ゆーすけから手を放せっ!!」

 顔を桜色にして未だにガシっと握手している片利奈。

 思念力兵器イマジナリーウェポンのバズーカ砲をぶぅんと具現化して構え、ミミカは全力で威嚇する。

「あはは、今日は楽しい一日ですわ」

 ゆかりは明るく笑む。勇輔は何を喧嘩しているのか? と怪訝そうにしていた。

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