6. 魔法教室
窓を覗くと、草からは露が落ち、木立からは光芒が差し込む様子が見える。そんなのどかな朝。
僕はリビングのソファーに座りながら、美和さんから魔法がどのようなものなのかという説明を受けていた。
「全ての人が使うことは出来ないけど、繰り返し再現出来る超科学的現象を、私達は魔法と呼んでいるわ」
「例えば、何も無いところから火をおこしたりとか、そういうもの?」
「魔法を使える人かどうかを確かめるときに使う基本的な魔法ね」
「僕も使えるかな?」
「どうかしら? 普通に考えたら使えないような気がすると思うけど――」
僕は魔法がない世界から来たから、魔法が使えないのが普通かもしれない。魔法を使えたら夢があって良かったんだけど……
「――魔法を司るのは精霊って言われているから、もしかしたら使えるかもしれないわね」
と思っていたらどうやら使える可能性があるらしい。別に特定の個人が魔法的才能を持つという訳ではないのか。あれ? でも、それじゃあ――
「どうして、精霊が魔法を司るのに使えない人が出てきたりするの?」
「それは今でもよく分かっていない事よ。一説では、精霊が目を掛けた人にしか使えないとされているわ。そもそも、魔法の汎用性が高過ぎるから、術者の意図を汲み取る存在である精霊が考えだされたの。精霊の存在が直接確かめられているわけではないの」
「じゃあ、精霊魔法って言われてるけど、実際のところブラックボックスで仕組みとかはよく分かっていないんだ」
思ったより魔法理論は進んでいないようだ。でも、精霊が意思を持つ存在みたいなものだったら、確かに分かることは限られる。動物の生態は調べることが出来るが、個々の動物がどう動くかを完全に予測出来ないのと同じだ。秩序があって理詰めで分かることもあるし、統計で見えてくることもあるだろうが、どうやっても理解できないこともある、カオスみたいなものだろうか。
僕は顎に手を当てながら、魔法に関する疑問点を洗い出していく。
そして、僕は疑問を発する為に口を開きかけるが、「そんなどうでもよい話は後にして、とりあえず実践しましょ」と腕を引っ張られて家の外まで連れだされることになった。
家の外には一面森が広がっており、ビルなどの高層建築物は見当たらない。ここは、田舎の森の中だろうか。
玄関の前には、木が生えていない小さな空間があり、僕はそこまで連れて来られた。
「それじゃあ、さっき説明した火をおこす魔法よ」
そう言って美和さんは、手のひらを上に向ける。次の瞬間には、彼女の手のひらに小さな炎がゆらゆらと瞬いていた。
「いつの間に……」
「やっぱり、現象の発現まで時間がかかるって想像するのかな? そういう魔法もあるけど、この程度だったら一瞬よ」
「というか、その炎熱くないの?」
「実は、手の表面に薄く水を出現させているから熱くないの。それをしないと熱いでしょうね」
ということは、同時に二つの魔法を行使していることになるのかな。それとも、これがセットと考えたほうが良いのか。
「やり方は簡単。魔法の結果を強くイメージしながら、精霊さんにお願いする感じ。最初だから、イメージしやすいように私の炎を見ながらやると良いと思うわ」
「えっ……精霊さんにお願いするってどういうこと?」
「なんていうのかしら、精霊って頭の中を見ているわけでしょ。だから、精霊さんに全てをさらけ出して、『私こういう事を起こしたいから協力して!』ってお願いする感じ?」
「えっ? 何考えているのかとか、精霊さんに色々と覗かれちゃうの?」
「う~ん、私はそうやっているというだけよ。でも、精霊さんを受け入れなきゃいけないと魔法を使えないのは変わらないんじゃないかな?」
精霊さんはもしかしたら、人が何を考えているのかを自由に読み取れるかもしれないって事? ということは、僕が考えていることとかは、全部精霊さんにだだ漏れという……
僕はまるで生まれたままの姿を見られている気になってしまい、体を真っ赤に染めてしまう。
「どうしたの、詠太くん? 顔、赤くなってるけど」
「そ、そ、そんなこと……ないよ?」
心配そうに美和さんが僕の顔を見つめてくる。
真剣な目だ。僕の事心配してくれてるんだ。それにしても美和さんの顔綺麗だなぁ、水色の瞳に吸い込まれちゃいそう……
って、僕は何を考えているんだ! というか、精霊さんはこの僕の思考も分かるの!? うわぁ、恥ずかしい……
「本当に大丈夫? 顔真っ赤だよ。熱あるんじゃない?」
そう言って、美和さんは右手を僕の額に手を当て、左手を自分の額に当てる。
額に触れる感触にドキッとして、クラクラしてくる。僕の体は既にゆでダコのように真っ赤だ。
「ほら、やっぱり熱ある。無理しなくていいからベッドで休んでて」
僕の事を心配してくれているのは分かるけど、だからっておんぶしようとしなくても……
僕は歩いて戻れるからと、固辞しようとしたけど、説得力が無かったらしく無理やり背負われてしまった。
僕も小柄だけど、更に小柄な女の子におんぶされてしまうなんて……
「ほら、そんなに力入れなくていいから」
願わくば、この早音を打つ拍動に気づかないで欲しいと思いながら、その願いを込めて彼女にギュッとしがみつくのであった。
ラブコメを入れてみようと思ったら……どうしてこうなった。
詠太は感受性豊か、かつ、それが表に出やすいのでこうなってしまったのでしょう。
決して作者のせいではありません……たぶん……