5. 決意
いつの間にかブックマーク&評価が付いていました。
まだ、プロローグの段階にも関わらずありがとうございます。
どれほどの時間、啼泣していたのだろうか。
すっかり泣き腫らしたまぶたを腕に力を入れ、ゴシゴシと擦る。
美和さんを見ると彼女の顔は腫れぼったかったが、僕の方をまっすぐと見ていた。
「改めて、ごめんなさい。貴方を巻き込んでしまって」
僕の前に移動して、正座した状態から深く頭を下げる美和さん。
ここまで誠意を持って謝られて、受け入れないのは狭量だろう。
「謝罪を受け入れるよ美和さん」
「ありがとう、詠太くん」
謝罪が受け入れられ、ホッとした表情を浮かばる美和さん。
僕も気持ち、居住まいを正して美和さんに向き合う。
「それで、僕からも美和さんにお願いがあるんだ」
「私で出来ることで良ければ、幾らでも協力するわ」
神妙な様子で、頷く美和さん。
「僕は、この世界で何も持っていない。向こうの世界で身につけた事が役に立つならば、そういった知識や技能は財産になるのかもしれないけど、こちらの魔法の知識とかは全く無いんだ。だから、この世界で生活する基盤を整えるまで、色々と援助して欲しいんだ」
美和さんはクスリと笑いながら、ちょっと呆れた顔をしている。
あれ? おかしいな。僕はそんなに変なことを言っていただろうか。
「私は元々そのつもりだったわよ。貴方が違う世界から来たからといって扱いを変るつもりはないわ」
そういえば、僕は美和さんと一緒に暮らす人として召喚されたのか。それじゃあ、気負うことは何もないか。
「そういえばそうだったね。それじゃあ、これからよろしくお願いします。美和さん」
「ええ、これからよろしくね。詠太」
唐突に名前を呼び捨てにされてしどろもどろするする僕を、からかう美和さん。
僕はそれに反発して、ちょっと機嫌を損ねたふりをしてみたりした。
恐らく、僕はどう足掻いても元の世界には戻れないだろう。それは、交通事故、災害でいきなり家族を失うような、そんな状況に近いのかもしれない。後悔したり、if を思っても、現実は冷たくそこに横たわる。今までの当たり前が、急に当たり前でなくなる。長く生きていけば、そのような悲しいことは一つ、二つ経験することなのかもしれない。
だから、例えこの世界が今までとは違っていても、この世界で強く生きていこうと僕は心の中で決意する。
魔法の世界に突然召喚された僕の異世界生活はこうして幕を開ける。
というわけで、プロローグ的な部分はこれで完結です。