35. 試験
お久しぶりです。相変わらず更新が遅くて申し訳ありません。
あまり量は多くないですが、どうぞ御覧ください。
「それじゃあ、試験をすることにしましょうか」
そう言って、美和さんは家の方に歩き出す。
「あ、忘れていたわ。その蜂型の魔獣をどうにかしておいて頂戴。詠太くん頼んだわよ」
「え、このサイズを僕一人で!?」
そんな僕の声を聞いてか聞かずか、手をひらひらを振りながらアイシャさんを連れて家の方に向かっていく美和さん。アイシャさんは有り余る元気を振りまきながら美和さんと一緒に行ってしまった。
後に残っているのは僕と大型犬サイズの不気味な蜂型の魔獣だけ。いや、これは魔物といったほうがいいか。
空からパラパラと落ちてくる雪の結晶が物悲しい雰囲気を演出する。
『ハブられちゃったね~』
「いや、これはハブられたとかそういうのじゃなくて、適材適所というか」
『美和くんの気持ちに気づいた直後にこんな仕打ちなんて可愛そ~』
「可哀想なんかじゃないよ、これは時間を効率的に使うためなんだよ。というか、僕の気持ちを勝手に読むな」
『ほら、力って使ってなんぼだからね。勿体無いじゃん、こんな面白い状況で人の心を読まないとか』
「そんなこと言っているから他の精霊に力を制限されちゃうんだよ」
僕は残念精霊のシルフにツッコミを入れながら、どうやってこの巨大蜂を処分するかを考える。近くで見ると眼の部分とかが特にグロテスクだ。
「とりあえず、燃やしちゃうのが早いかな?」
『燃やしちゃっていいのかな? 仲間が集まってきたりして~』
「無駄に不安を煽らないでよ」
僕は手早く断熱圧縮を使って蜂を高温にして燃やしてしまう。
『燃やしちゃったね?』
「え、燃やしたけど本当になんかあったりするの?」
『あ~あ、僕知らないよ。どうなっても知らない』
「さ、流石に何もないでしょ?」
『僕はどうなっても知らないよ?』
「まぁ、心配しすぎてもしょうが無いか。早く美和さんを追いかけよ。地下室かな?」
シルフの単純な反応に飽きてしまった僕は、急ぎ足で家に向かう。
『え、そこで無視するの。ちょっと少しはお約束を考えようよ。ね?』
「だって、シルフの振りがあんまりにも漠然過ぎて面白みがないんだよね」
『グサッ』
自分でグサって言うかな普通。シルフは基本お調子者だし本当に傷ついたりはしていないよね? まぁ、そうだとしても自業自得というか、単に面白いことを言う能力がなかっただけってことで。
そんなどうでもよい事を考えながら、僕は地下室のドアを開けて、階段の手すり越しに階下を覗きこむ。
そこでは美和さんとアイシャさんが5メートル程の間隔をおいて相対していた。まだ、試験が始まっているという雰囲気では無さそうだけど……
「あ、やっときたわね。詠太くんには審判してもらうから宜しくね」
「え、僕が審判? 取り敢えずルールはどんな感じ?」
僕はするすると螺旋階段を降りながらさくっとルールの確認をする。
どうやら、たまに美和さんとやるのと同じ、体術を交えた魔法戦闘のようだ。基本的には相手を転倒させれば勝ちになる。魔法戦闘の場合は転倒という状態が致命的な隙と看做されるからだ。種々の打撃技や高速発動可能なタイプの少威力魔法を使って勝負することになるのが普通だ。安全状の理由で危険な技や魔法も使用禁止だ。障害を与えたり殺傷する可能性が高い魔法は使えないという事になっている。要するにほとんどの魔法は使えない。
そして、僕には客観的に二人の試合を評価してほしいとのこと。審判というのは二人のどちらかが無理をしていると感じたら、試合を止めることが出来るということらしい。
既に二人は防具を装着して、すぐにでも試合を始める事ができるようだ。
「それじゃあ、始めるけど、両名準備はいいですか?」
「私は大丈夫よ」
「私も大丈夫です!」
「それでは、試合……始め!」
美和さんが最初の一歩を踏み出すと一瞬で5メートルあった空間が無くなる。そしてすれ違いざまに腕がアイシャさんの首元を捉えようとするが、アイシャさんは間一髪のところで体の軸をずらして回避する。美和さんは足元に紫色の光を浮かべながら地面を滑る。
その間にアイシャさんは手元に小さな光を無数に浮かべ、美和さんに向かって投射する。一つ一つの威力は小さいが当たったら確かな衝撃を与えられる物理干渉型の魔力弾だ。
美和さんは、向かってくる光弾を気にする様子もなく、地下室の壁を蹴って弾幕に突っ込んでいき、一つ一つの光弾の軌道を空間歪曲によって直撃コースから変えていく。その時間はコンマ数秒にも満たない。
再び二人が交差するとき、ラリアットを狙っていた美和さんの腕と魔法を込めていたアイシャさんの右手が衝突する。
瞬間、眩い光が辺り一面を照らし数瞬の間、視界が白く染まる。
徐々に視界が戻ってきた時には二人の影が映っていた。一人は地面に伏し、もう一人は敗者を見下ろしていた。
世界に色が戻ってきて分かった。立っていたのは美和さんだった。
僕は何が起こったのか全く把握できていなかったが、
「勝者、法月美和!」
勝ち名乗りを上げた。
久しぶりに書いたので、もしかしたら今までの表現とブレがあるかもしれません。
まぁ、それもWeb連載の醍醐味?ということで。
感想、ご意見お待ちしております。