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34. 本当の気持ち

「それで、二人はどのような関係なのでしょうか?」


 僕は、アイシャさんの質問の真意を計り兼ねず、しょうが無いので、本当の事を当たり障りのない範囲で答えておく。


「僕は美和さんの弟子で、住み込みで研究の手伝いしたり、手伝って貰ったりしている関係かな?」


 アイシャさんは僕のことをジト目で睨み、警戒感を露わにしている。


「本当にそれだけなんですか? 私としては、お二人にそれ以上の仲にあるように見受けられるのですが」


 そう言われて僕は少し考えてしまう。

 考えてみれば僕は美和さんの事をどう捉えているのだろうか。まずは、僕をこの世界に呼び出した張本人というのは外せないだろう。異世界からの召喚は意図していなかったといはいえ、美和さんが魔法を使わなかったら僕はここに居なかったわけだし。

 あとは、尊敬できる師匠というのはあると思う。この世界で生きていくための力を色々と教えてくれたのは美和さんだし、金銭的にもお世話になっている。その変わり身の周りの雑用は僕がこなしているのも、師匠と弟子の関係に似ている気がする。しかも、僕だけではどうしようもない仕事口を一緒に探してくれている。いや、開拓する手伝いをしてくれていると言って良いかもしれない。

 美和さんに僕の実験の手伝いをして貰ったりもしているのは何とも言えないけど、それは師匠が弟子に指導を付けていると言えばとりあえずは説明できるかな?


「やっぱり、総合すると師匠と弟子って言う関係が一番しっくりすると思うけど……」


 同意を得ようと思って美和さんの方を見ると、少し悲しげな表情を浮かべていた。


「そうね。現在ではそれ以上の()()()な関係はないわね」


 なんで、物理的を強調したんだろう。よく分からないけど、精神的に結構依存し合っちゃっているという事だろうか。美和さんは寂しいから人を召喚することにしたって言ってたし。僕もこの世界で美和さんが居ない状況で生きていくのは辛いと思う。

 ってあれ? この構造って恋愛時の心的関係に近いような気も……


「美和様がそう言うのならそうなのでしょう。私としては美和様の心が私に向いてくださらないことが若干口惜しいですが……」


 アイシャさんはそう言いながら、伏し目がちに両の拳を固く握りしめていた。落ち込み、悔しがっている様子が有り有りと伝わってくる。


「美和様が弟子を取るというのは初めて聞きました。それは、やはり詠太様が特別だからなのでしょうか?」


 陰鬱な暗い声がアイシャさんの口からぽろりとこぼれた声に、僕は遂に美和さんが僕のことをどのように見ていたのかを自覚し、同時に自分にとっての美和さんの存在の大きさを痛感する。

 小説やゲーム、漫画などの物語であるような強い感情を伴うような熱い恋ではないけれども、確かにそこには心的依存関係があり、しかも相手の事を一番に気遣う温かい気持ちがお互いにあった。これも、一つの形の愛と言えるのかもしれない。

 肌寒いが、自身の気持ちに自覚的になった今、雲の間から日が差したように心の中が暖かくなった気がした。


「確かに今までは弟子を取ったことはなかったけど、それは自分が上手に指導できる自信を持てていなかったからよ。詠太君の場合は半ば自動的に弟子みたいになっちゃったけど、生涯弟子を取らないつもりではなかったのよ」

「では、今なら弟子を取っても良いと考えているのですか?」

「そうね。今だったら、数人の弟子だったら問題なく養えるし、向上心がある人ならば指導しても良いわね」


 その言葉を聞いて、アイシャの表情が一気に明るくなる。

 そして、背を伸ばして美和さんに向き直ったアイシャさん勢いよく頭を下げる。見事な最敬礼だ。


「おねがいします。私を弟子にしていただけませんか」


 流石に彼女を弟子に取るべきか美和さんも苦慮しているようだ。アイシャさんはどうも美和さんが絡むと見境がなくなる節があるので、個人的には美和さんの元で指導を受けるよりかは別の人に教えを請う方が良いように思える。あまり肩肘張りすぎた状態での鍛錬は体が硬くなってしまって効果的ではないし、良いところを見せようとして失敗するような気もする。

 しかし、ここで追い返してしまうと、実力を認めて貰うためとか言って無理しそうでそれはそれで怖い。魔道書がある場所に踏み込めるような実力と冷静な判断力を持っているので、普通の状態だったらそこまで危険なことはしないと思うのだが、美和さんが関わってくるとどうなるか全く想像できない。


「そうね、あなたが私の元でも冷静に振る舞えることを証明できれば弟子にしても良いかしらね」

「本当ですか!」


 アイシャさんはあらん限りの元気を詰め込んだような明るい声で、ありがとうございますと良いながら、何度もお辞儀をする。

 あまりにも激しく上体を動かす者だから、セーターの上からでも分かる揺れている部分に少しばかり目が行ってしまう。男のチラ見は女のガン見って言うし、これはまずいと思って、意識的に視線をそらす。


「もっとも、そんな様子だと合格できるかしらね」


 美和さんはそんなアイシャさんの様子を見ながらぽつりと呟くのだった。

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