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31. 届け物

「お届け物で~す」


 朗々とした声が家の中に響き渡る。


「いま出ま~す」


 僕は若干の驚きを感じつつも玄関へ急ぐ。

 こんな辺鄙な場所に宅配便が届くとは想定していなかったのだ。

 玄関で引き戸を開けると、宅配業者の帽子をかぶった若い男の人が立っていた。

 かなりの美男子で、ちょっと羨ましいなあと思ったり。


「こちら、法月美和様のお宅ですね」

「ええ、そうですよ」

「これがお荷物です」


 そう言うと宅配便の人は一抱えもある大きなダンボール箱を僕に手渡してくれる。


「それとサインをお願いします」


 渡された荷物を家の中に置くと、サインを求められてしまった。だけど、考えてみれば当たり前だ。

 美和さんと苗字が違う人が受け取って大丈夫なのだろうか……

 どうしようかと悩んでいると――


「どうかなされましたか?」


と、宅配便の人に不審に思われたのか声を掛けられてしまった。

 とりあえず『理崎』とサインして渡してみる。

 宅配便の人に伝票を渡すと、彼は少し顔をゆがめる。


「苗字が異なるようですね。フルネームでお願いします」

「あ、分かりました」


 宅配先の人と苗字が異なるのは、さすがに不味いのだろう。『理崎詠太』とサインし直して、宅配便の人に渡し直す。


「はい、確かに配達しました」


 そう言って、美男子の宅配便の人は走り去っていった。

 ここら辺って魔物も出るし、街からも結構遠いのだが良く宅配に来るなと感心する僕。

 美輪さんは魔法学会から斡旋されたお仕事で出張中なので、帰ってきた時にしっかりと渡さないと。




「そんなの頼んだ覚えはないわよ」


 美和さんに荷物の事を話して開口一番がこれだった。


「誰か知り合いじゃないの?」

「そうかしら」


 美和さんは段ボールに貼り付けられている伝票を覗き込む。


「一般社団法人日本魔法学会って書いてあるわ」

「何か仕事関係の物じゃないの?」

「心当たりがないのだけど……開けてみれば分かるかしら」


 危険物の可能性も無きにしも非ずということで、一応防御用の魔法を展開する美和さん。

 カッターナイフを使って段ボールを開けて、箱の中を覗き込むと……


「これって、本かしら」

「確かに本っぽいけど……あ、横の方に紙が入っているよ」


 美和さんは紙を手に取り読み上げ始める。


「この度、サウジアラビアで発見された本が召喚魔法に纏わる物であることが確認されました。現地発見者のアイシャ=ベント=アリム様が召喚魔法の世界的権威である美和様に、本魔道書を寄贈する事を希望したため、魔法学会が本人に替わり送付させていただきました。御査収のほどよろしくお願い申し上げます」


 どうやら、この本は発見されたばかりの魔道書であるようだ。


「って、こんな重要そうな物を宅配便で送るなよ!」

「そもそも、普通の宅配業者はこんな場所に来れないと思うわよ。実際は魔法学会関係の人だったんじゃないの?」


 あの美男子は、魔法使いだったのか。全然気づかなかったんだけど。


「届けてくれたのは魔法学会本部に詰めている専任魔法使いかしら。そうでもないと、ここに荷物を届けるのは不可能だと思うわ」

「それにしても随分と宅配業者っぽい対応だったと思うんだけど」

「引き受けた魔法使いが変わった人だったのよ。きっと」

「まぁ、魔法使いには結構変な人も多いらしいしね」


 ともかく、せっかく頂いた魔道書なのだから、出来るだけ早く調査結果を公表したいところだ。


「召喚魔法の魔道書が見つかるなんて滅多にないことなのに、私に譲ってくれるなんて嬉しいわね」

「そうだね。そもそも魔道書なんてたくさん見つかるような物でもないからね」

「もっとも結構古そうだし、間違っていることが書いてある可能性もあるわ」


 美和さんは段ボール箱から革製のカバーが取り付けられた魔道書を手袋をはめてから取り出す。

 魔道書と言うのは現代魔法が確立される以前、古来の魔法使いが執筆、編纂した書物を指す言葉だ。

 宗教との兼ね合いもあったのか、実際に広く認知されていた書物はかなり限られている。その中でも神学分野は多くの魔道書が残っている数少ない分野だ。

 しかしそれらの魔法は、神との対話や、神を降ろすという目的に作られた物より、信者集めのために行われる演出関係の魔法が殆どだ。

 そういった魔法は、現代魔法の観点からは召喚魔法と分類されないから、召喚魔法について書かれた魔道書はかなり少ない。

 さらに召喚魔法はとんでもない魔力量を要求する――どの魔法もオーバーSランクに分類されている――のが普通なので、大概の学者にとって召喚魔法は手が出せない高嶺の花的存在なのだ。

 そういうわけで、研究できる者に魔道書を譲るのは特段おかしいことではないが、それでも金銭などの対価を要求してこないのはかなり珍しい。寄贈してくれたアイシャさんには頭が上がらない。


『詠太、そういえばさっきから空気がぴりぴりしているよ』


 頭の中で唐突にシルフの声が響いた。

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