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30. 繰り返し

「さてと、法則魔法はちゃんと維持されているかな?」


 扉のすぐ隣に設置されていた赤々と光る電灯のスイッチを押すと、一瞬で明るくなった地下室の明るさに目が眩む。

 僕は埃っぽいステップに靴音を響かせ、大きな螺旋を描きながら階下へと降りていく。

 僕は、これから行う実験の概要に思いを馳せる。

 昨日今日と、美和さんに法則魔法を木の箱に施して貰った。そして、片方の木箱には緑色に発光する魔法、もう片方には赤色に発光する魔法をかけてもらった。二つの木箱は相当注意しても同じに見えるように作られている。

 法則改変時に加えた制約上、箱を光らせることが出来るのは美和さんだけだ。この事実が第四法則が正しく改変されているのかを検証するのを難しくしている。

 通常、設置した基点は意識し続けないと消失するが、法則改変を行うと意識しなくても基点を残し続けることが出来るようになる。

 しかし、一度意識から外れてしまった基点を、再度脳内だけで指定し直すのは実質不可能だ。同じ魔法の基点をあちこちに刻んでいた場合、一意に基点を定めることが出来なくなるからだ。

 そこで、視覚情報などを元に『そこにあるはずの基点』を思い浮かべるという方法を使用、又は併用して過去に作った基点を指定する必要が出てくる。

 しかし、このタイミングで普通に魔法をかけてしまえば、法則魔法が無くても問題なく箱を光らせることが出来てしまい、過去に刻んだ魔法が発動しているのか、今魔法を使ったのかが見分けられなくなってしまう。

 尤も、強い感応力を持つ人が見ればこの不正は直ちに発見できる。しかし、それ以外にも問題がある。

 術者が魔力を供給して基点を維持し続けた場合と区別がつかないのだ。勿論、一晩以上基点を意識し続けるという離れ業が要求されるが、魔法の補助を借りれば出来なくは無い。僕はやりたくないが……

 ではどうすれば良いのかというと、一度、術者が基点を忘れていることを証明する必要があるのだ。



 美和さんに椅子に座ってもらって、目隠し用のアイマスクを手渡す。


「念のため美和さんには目隠しをお願い」

「わかってるわ」


 美和さんは軽く頷くと、アイマスクを身につける。

 僕は目隠しが済んでいることを確認すると、机の上に準備しておいたサイコロを無造作に振る。

 出目は3だった。奇数の時は、赤色に発光する木の箱を使用することになっていたので、そちら側の木箱を美和さんに手渡す。


「それじゃあ、お願いします」


 僕の目には美和さんの魔力が木箱に吸われていく様子が映り、木箱は赤く光り始める。


「これで二分の一の確率だね」

「退屈な作業だし、早く三十回ぐらい済ましちゃいましょ」

「そうだね」


 僕は美和さんから木箱を受け取り、元の場所に置く。そして再びサイコロを振って美和さんに渡す木箱を決める……



 だいぶ、時間がかかってしまったがこれで三十回目だ。


「お願いします」


 美和さんが魔力を込めると木箱は緑色に光り始め、美和さんの周りを緑色に照らす。


「よし、これで三十回終わりだね。目隠しを取ってもいいよ」


 美和さんはアイマスクを取り外し、軽く首を動かしていた。


「座りっぱなしも、それほど楽なものではないわね。と言っても三十分も掛かっていないかしら?」

「そんなに掛かっていたわけじゃないみたい。二十六分かな」


 僕は実験時に使っていたノートを確認しながら答える。


「そんなものかしらね。全部色は正しかったかしら?」

「勿論だよ。地味だけど、これが確実な方法だからね。」

「これを普通の魔法でやっていたら、大体十億分の一の確率でしか起こせないもの。普通の人なら間違いなく法則魔法の存在を認めるわ」


 僕は美和さんの言葉に首を縦にふる。

 今回美和さんにやってもらっていたのは、術者は何色に光るか知らない状態で魔法を行使してもらうという事だ。何色に光るかは僕しか知らないので、美和さんにはどの光を出せばよいか分からない。つまり美和さんがイカサマをするのは不可能なのだ。

 勿論、適当にやって連続して当たる場合もあるかもしれないが、何度も繰り返せばその確率はどんどん減っていく。試行回数を増やしていけば最終的には偶然一致する場合は無視できるようになり、本当に法則改変ができている場合だけ、全ての試行で正しい色の発光をすることになるのだ。


「それにしても、なんか統計の実験しているみたいだったね」

「実際に統計の実験じゃない」


 僕は美和さんに突っ込まれて苦笑いを浮かべるしかなかった。

一週間更新が空いてしまい申し訳ありません。詳しい理由は活動報告で。

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