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28. 模擬戦闘

ぎりぎりの土曜更新です。

 魔法を安全に扱うためには弛まぬ研鑽が重要になる事は、この前の魔獣襲来で否が応でも認識させられた。

 あれから、魔法の修練と即応性の高い魔法の研究・開発を行う為に、かなりの時間を確保するようにしている。

 このような実践に即した魔法は魔術と呼ばれる事が多いのだが、その殆どすべては印象構築(イメージベース)だ。

 純粋な科学魔法使いサイエンティフィックメイジは今のところ僕以外知られておらず――つまり世間一般からすれば純粋科学魔法使いサイエンティフィックメイジは存在しないものとして扱われている――、科学魔法使いサイエンティフィックメイジと呼ばれる人は手続き構築(プロシージャルベース)も利用する魔法使い(メイジ)というのが現状だったりする。

 咄嗟の行動が要求される緊急時では手続き構築(プロシージャルベース)が原理上圧倒的に不利という事もあり全く開発されていなかったが、僕が使えるのは手続き構築(プロシージャルベース)魔法だけなので手続き構築(プロシージャルベース)魔術を火急速やかに充実させる必要があった。

 急いで論文を仕上げたかったが、何時何が起こるかは分からない。

 残念ながらこの世界には魔獣という明確な脅威が存在する。都市部では結界のおかげで魔獣はただの獣になるし、その事を知ってか知らずか魔獣は結界がある場所に近寄らない。

 しかし、僕たちの活動拠点には結界がないので、魔獣はそこそこの頻度で現れる。結界を張れば良いと思うかもしれないが、結界の効果は暫く残留し異種魔法の発生を若干阻害してしまう。

 実験に支障が生じるから、研究する魔法使いが選ぶ選択肢には入ってこないのだ。

 出来るだけ早く自衛が出来るようにと、一ヶ月ほど魔法の開発も含む魔法実技の特別訓練を美和さんから受ける事にした。

 そして、今はその成果を客観的に評価するための模擬戦闘中だ。

 僕は木の幹の横から顔を出して、美和さんがいると思われる方向を確認する。枯草色の草木と積もった雪が見えるだけで美和さんの姿は見えないが――


「熱源感知」


 小声でつぶやくと、目の前に広がる光景に若干赤みがかかる。

 一本のブナの木のすぐ側に、今まで見えていなかった美和さんと思わしき影が赤く映り込んでいた。

 僕は右手に持っていた自動拳銃のような物を美和さんに向け、照門(リアサイト)を覗き込む。

 照星(フロントサイト)が美和さんの体の中心を捉えた瞬間、僕は引き金(トリガー)を引く。

 次の瞬間銃口(マズル)から赤い光が伸びる。しかしレーザーは美和さんの影を何事も無かったかのように貫通していく。

 結果を確認した僕は木の幹に体を隠そうとするが、美和さんの人差し指が既に僕に向けられていた。


「電磁透過」


 光が体を透過するようにして美和さんのレーザーを無力化し、殆ど失われた視界の下で先ほどまでの記憶を頼りに木の幹の後ろへ移動する。


「電磁透過解除」


 弾む息を押さえながら考える。ルールではお互いのレーザーが使用する波長は不明だったはずだ。安全にレーザーを無効化する為にはすべての波長の光を透過させる必要がある。レーザーが一発でも当たったら終わりというルールなのに、一部の帯域だけを透過するという事は行わないはずだ。それになのに美和さんは僕が居る方向を完全に把握していた。となると音、超音波か……

 一般に波は波長が短くなればなるほど回折が起こりにくくなり直進するようになる。僕の場所をかなり正確に把握していたから、かなり高い周波数を使っている可能性が高い。

 左手で近くにあった石を拾って、僕は大きく息を吸い込み。


「気体透過」


 そして明後日の方向に石を投げて、僕は美和さんに向かって走り出す。美和さんの手元や視線を注視するが、僕に気づいた様子は無い。

 僕は必死に走って、美和さんのすぐ近くの木に一旦身を隠して気体透過魔法を解除する。

 音で感づかれないように細心の注意を払いながら静かに息を整える。すぐ近くから美和さんが地面を踏みしめる音が聞こえてくる。


「気体透過」


 再び超音波を無効化した状態になり、足音を忍ばせてシルエットから推測できる背中側に回り込み、銃を構える。


「対象指定型気体反射」


 美和さんのシルエットは驚いた様子で周囲を見渡し始め、直後シルエットが実体を伴った像に変化する。

 僕は引き絞っていた引き金(トリガー)を一気に引く。

 レーザーは美和さんの背中の中心を捉えていた。


「僕の勝ちだね」


 美和さんは驚嘆した表情を浮かべながら僕の方へ振り向く。


「勝つ積もりだったのに……負けちゃったわ」

「流石にレーザーを透過された直後に美和さんの指が僕の方を向いていたときは冷やっとしたよ」

「ちゃんと対応していたじゃない。決まったと思ったのに」


 美和さんは、カウンターアタックの一発で決められると考えていたようだ。もっとも、それだけのつもりでは無かっただろうと思うけど。


「でも手加減したんでしょ?美和さんが熱情報も遮断していたらどうなっていたか分からないよ」

「そうでもないわよ。私のキャパシティ的にあれぐらいが限界だったのよ。そこまでいろいろなことを一度に頭に留め続けるのは私には無理だったわ。少なくとも安定して魔法を発動できなかったと思うわ」

「僕は法則魔法を使っていたから、そこまで大変では無かったけど……やっぱり普通は大変だよね?」

「大変よ。頭使いすぎて疲れちゃったわ」


 美和さんは大きく頷きながら、足が家の方向に向かい出す。僕も合わせて、美和さんの横について行く。

 僕は手続き構築(プロシージャルベース)魔法の出を早くするのは限界を感じ、その方向は検討しないことにした。急ぐとどうしても魔法が安定しないのだ。それに発動時の各種パラメーター調整を脳内で行うのが難しいという問題がある。

 そこで法則魔法を積極的に使って、幾つかの魔法をあらかじめ準備しておくことにした。準備しておいた魔法を次々と使うことによって戦う方法を確立させたのだ。

 僕が模擬戦闘で使用したすべての魔法は、今右腕に付けているチタン製のシンプルなブレスレットに刻み込んでいる物だ。

 指定した音声か明確な発動の意思を持つことによって発動できるようになっている。


「そのブレスレットの管理には気をつけるのよ」


 ブレスレットを眺めていた僕に気づいた美和さんが注意を促してくれる。


「そうするよ。かなり不便になるからね。もっとも、他の人は使えないからそういった意味での危険は無いはずだけど」


 誰でも簡単に使える魔法兵器になり得るかという危惧はこの場合は当てはまらない。というのも、すべての人が使えるように法則改変を行うと、僕の魔力が足りなくなってしまうからだ。


「そのブレスレットがあれば詠太君も一人で十分に戦えるわね」

「それじゃあ、今回のは……」

「もちろん合格よ」


 美和さんにお墨付きを貰った僕は、勇みながら家路に着くのだった。

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