表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/35

27. 希望と道

 降り続いていた雪は遂に家の周りにも堆積し始め、スニーカーが埋もれるほどになっている。

 天窓から見える鉛色の空は僕の今の沈んだ気持ちを表している気がした。

 僕はベッドの上で横になって、開いた右手を見つめる。


「この力は僕には重すぎるよ……」


 昨日の魔獣の様子を思い出す。表皮は完全にやられていた。それだけたくさんのエネルギーを僕が生み出していたと言う事だ。

 その気になれば、ビル一つを優に倒壊させる力を僕は完全に持て余し、怯えてすらもいた。


「詠太君、入っていい?」

「別に良いよ。美和さんの家だしさ」


 僕は少し攻撃的な口調で答えてしまう。そんな風に美和さんに当たってしまう自分に、軽く自己嫌悪を覚える。


「ごめん」

「いいの。私も似た経験をした――」

「待って」


 僕はベッドの柵から手を出して話を遮り、ベッドから降りる。美和さんに机のすぐ近くの椅子に座るよう促して、僕も部屋の隅にある椅子を持ってきて座る。僕は居住まいを正して美和さんに向かい合う。もしかしたら何かしらの糸口がつかめるかもしれないと思って。


「ごめん、僕も魔法を使わないだけじゃ解決にならない事は分かっているんだ。でも、どうすれば良いのか分からなくて、つい当たっちゃったんだ」

「そう。私は師匠にもう魔法なんてやらないって当たっていたわね」


 美和さんは一呼吸を置き、そして懐かしむように、けれど少し悲しげな面持ちで語り出す。


「私も魔法の失敗で辺り一面を火の海にした事があるのよ。みんな無くなってしまえば良いんだって思ったら魔法が発動してしまったの。その時は私の師匠が力尽くで止めてくれたわ。そのとき、師匠なんていったと思う?」

「――ばかやろうとか?」

「ひっぱたかれてこう言われたわ。今時の者は鍛錬が足りないからそうなるのだ。稽古をするから覚悟するようにってね」

「……稽古、か」

「当時はよく分かっていなかったわ。でも、今なら何となく分かる。魔法使いは常に平常心を保たねばならない。そして、その力は日々の稽古で培われる。練習じゃ無くて己を高めて揺らぎないものにするため、私たちは魔法を研究しそして己を鍛えるのよ」


 人の枠を超えた能力を正しく使うために、己をそれに見合う場所まで高める。


「確かにそうだね。でも、手続き構築(プロシージャルベース)はそれだけじゃダメなんだ」

「それはそうね。印象構築(イメージベース)とは根本的に違う部分があるわ」

「少しでも頭に浮かべる手続きに問題があったらあんな事が起こるかと思うとね――」


 もう魔法を使わない方が良いのでは無いか。僕はそう考えて、そして首を振る。

 力を持っているからと言って、必ずその力を世のために使わなければならないわけでは無い。だが僕はそれで満足できるのだろうか。心の平穏を保つ事が出来るだろうか。魔法を使えば救える、そんな状況で僕は何もせずに傍観する事に耐えられるのだろうか。例え何も感じなかったとしても、僕はそんな人にはなりたくなかった。

 それに、巨大な力をその体に秘めていると言う事実は変わらない。ふとした拍子に魔法を使ってしまう可能性がゼロでは無い。そんな状況に怯えて生きていかなければならないのは嫌だ。

 それでも、手続き構築(プロシージャルベース)魔法を自在に操る事はとても遠い事に思えた。


「それでもやる事に変わりは無いわ」

「どういうこと?」

「やる事が増えただけ。詠太君がやるべき事は、魔法を自分の手足のように使えるようになるための特訓。そのために、どんな状況でも平常心を失わず、普段通り行動・思考できる精神的な強さだけじゃなくて、魔法を正しく理解・構築するための高度な知識、知能が要求されるようになっただけ。それを身につけるために精一杯努力すれば良いのよ」

「そうかもしれない。でも、必要な事が増えると言う事はそれだけ――痛っ」


 乾いた音が部屋に響く。

 僕はいつの間に美和さんに頬を叩かれていた。


「いつまでうじうじしているのよ! どうせ周りに迷惑を掛けるとか思っているんでしょ。なぜ魔法使いの家が人里離れた場所にあるのか分かっているの? 一般の人を魔法で傷つけない為なのよ。それに、あなたを呼び出したのは私よ。私に迷惑を掛けたら申し訳ないって思われる事の方が私にはショックよ!」


 美和さんは己の心情を吐き出すようにまくし立てる。

 僕は叩かれた頬を押さえながら呆然とする。


「詠太君には、自分はこうなりたいって将来像があったんじゃ無いの? それなのに私は向こうの世界での詠太君の生活を壊してしまったわ。この世界の基本的なサービスも受ける事も出来ない。でも、それでも私は詠太君に幸せになって欲しいし、そのために力を貸す事を惜しまないわ。私は一緒に過ごす人が欲しかっただけなの。その人に不幸になって欲しいわけが無い。だから、幸せになる事を諦めないで……魔法の力に怯えないで……自分に自信を持って欲しいの……」


 徐々に小さくなっていく美和さんの声。僅かに、啜り泣く音が聞こえた。


「ごめん。いや、ありがとう美和さん。おかげで目が覚めた」


 この世界では僕に多くの制約がある。一人で暮らす事は想像を絶するほど難しいだろう。それでも、僕の幸せを願ってくれている人がいる。僕は力に怯えて過ごすのは真っ平ごめんだ。それならば目指す道は一つしか無い。

 そして僕は気づいてしまった。美和さんは今まで僕に悟らせていなかったけど、ずっと自分のしてしまった事に苦しんでいたんだ。だから、僕が幸せになる事は彼女にとっての唯一の救いでもあり、彼女自身の幸せへの道なのだ。

 美和さんは、窺うように僕の瞳を見つめる。彼女の目元には涙の跡があった。

 そして、小さな体にこれだけの運命を抱えてしまった彼女を思う。それならば、僕が彼女を幸せにしなければいけない。

 あれほど降り続いていた雪は何時しか止み、窓からは暖かい日差しが差し込んでいた。


「この世界の魔法は、まだまだ解明されていない事が多い。法則魔法もそうだし、科学魔法使いサイエンティフィックメイジが少ないせいで手続き構築(プロシージャルベース)魔法の研究もあまり進んでいない。それならば、僕は自分が持つ力を使ってまだ見ぬ世界を切り拓いてみせる。そのためにも美和さん――」


 僕は美和さんに向かい、手を伸ばす。


「僕に力を貸してくれませんか?」


 美和さんは目に溜まっていた涙を袖で拭き、満面の笑みを浮かべながら手を重ねる。


「ええ、私に任せなさい!」


当初予定していたとおり、これからしばらくの更新は週毎の土曜更新になります。

もしかしたら、忙しくて投稿できない週があるかもしれませんが、その際はご了承お願いします。


というわけで一応連投の区切りとして少し盛り上げてみました。

決してエターの為の振りではありません。少なくとも今のところそのつもりは全くありません。

では、感想ご意見お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ