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23. 第三法則改変

 今回の実験には家の地下室を使う事にした。

 外で行う事も出来るのだが、雪も降っているし無理をして風邪を引いたら元も子もない。

 地下室は一階のすべての部屋を押し込んでも余裕があるぐらい広い。木で作られた天井には白熱電球だろうか、仄暖かい色味の光を発するシーリングライトが幾つも設置されている。石造りの壁は天井灯の光をぼんやりと反射し、その細かい凹凸がくっきりと浮き出ている。コンクリートで固めらた床は、僕たちが部屋の奥に進むのに合わせて乾いた音を鳴らす。


「美和さん、早速なんだけどこれを敷くのを手伝ってくれない?」

「いいわよ。二つあれば安全かしら?」


 僕と美和さんは部屋の隅に立て掛けてあった、所謂エバーマットを地下室の中央に協力して運ぶ。

 予定の場所に着くとマットを床の上に敷き、僕たちはもう一つのマットを取りに行く。

 魔力切れ――実際は魔力切れと言うよりも天罰なのかもしれない――で倒れたときに無駄な怪我を防ぐために実験前の安全確保は重要だ。


「一応、確認だけど美和さんの魔力量はSランク相当なんだけっか?」


 部屋の隅のマット目指して歩きながら美和さんに尋ねる。


「そうね。分類上は最上位ランクね」


 二つ目のエバーマットの(とって)を両手に持って移動し始める。


「と言う事は、確定するのはSとAの場合だけかな」


 この世界では魔力量の多寡の目安としてランクというものが存在する。これは魔法が発動しないのが魔力不足なのか、魔法の発動イメージが悪いのかをハッキリさせるために作られたのだそうだ。SランクからGランクまでの8段階で分けられていて、使おうとする魔法のランクが自分の保有するランクと同じかそれ以下の魔法は魔力量的には確実に発動できるとされている。Sランクの魔法使いでも使えるかが分からない魔法もあるが、そういったものはオーバーSランクの魔法として扱われている。

 オーバーSランクの魔法として知られているものの一つに召喚魔法がある。僕がこの世界に来る原因を作った魔法だ。話によればSランクの魔法使いは世界で二百人をぎりぎり超える程度しか居ないらしい。つまり美和さんは魔力量だけで言ったら世界有数と言って良いような貴重な人物なのだ。顔を見ただけでは、せいぜい高校生ぐらいにしか見えないのだが。


「何か失礼な事を考えていなかったかしら?」


 この妙にお嬢様っぽい言葉遣いも、見た目で舐められないようにするための努力の一つなのかもしれない。


「いや、むしろ褒めるような事を考えていたと……思う?」

「なんで疑問系なのよ!」

「僕も美和さんは頑張っていると思うよ」

「やっぱり、詠太君馬鹿にしてる……」


 美和さんはいじけたふりをしてプイと僕から目を反らす。でも、マット運びながら進行方向と逆を向くのは危ないんじゃ――


「きゃっ」


 案の状、先に敷いてあったマットに足を引っかけて、盛大に顔をマットに埋める美和さん。


「大丈夫?」


 とりあえずマットを置いて、様子を確かめに近づく。


「体は痛くはないけど心が痛い……」

「そんな柄でもない事をするから……」


 美和さんは若干涙目でそう言うと、しょぼくれてマットにうずくまってしまった。

 そんな他愛もないような事も合ったが、準備を終えた僕たちは実験を開始する。


「あらかじめ説明していたとおり、まずは基点が物理的実体に追従しない魔法を試すよ」


 僕はそう言うと設置しておいたビデオカメラを回し始める。他の人が再現する時の参考になると思って撮っておく事にしたのだ。

 既に飛行魔法で出来る事を確認している法則改変だが、単体でも問題なく発動出来るかや、どれほどの魔力を消費するのかを測るのが今回の実験の目的だ。

 普通魔法を使う際に基点を明示的に意識する事はない。多くの人は無意識的に手の平や、自身の体、魔法を投射したい対象などを基点に設定する。普通は何を中心に魔法を発動したいかを思い浮かべれば、自動的に基点は設定される事になる。

 しかし、一度魔法を発動させると基点を変更する事が出来ない事が知られている。基点は物理的実体に追従するという性質を持つため、一度生成された基点は魔法使いの制御を離れてしまうのだ。要するに魔法効果を及ぼす対象を魔法の発動最中に変更する事は出来ない。

 例えば氷剣舞踏(アイシクルダンス)では攻撃対象を基点とするのが一般的だ。つまり、一度刀剣を出現させたら攻撃対象はその時点で変更する事は出来なくなる。その代わり、出現した氷の刀剣は基点部分に向かって収束、つまり目標に追尾していくため非常に高い命中精度を誇るのだ。

 ただし魔法自体の効果は魔法発動中も変更・調整する事は出来るので、実験ではこれとの切り分けが必要になってくる。


「分かったわ。やってみるわね」


 そう言うと、美和さんはマットの上に立ち、目を閉じて法則魔法の準備を始める。暫くすると美和さんの体からぼんやりと紫色の光が放出され始め、マットを淡いパープルで染める。しかしすぐにその光は収まり、替わりに普通の人は知覚できないであろう青みがかった霧のようなものを美和さんを覆う。


「思ったより疲れるわね。Sランクの魔法相当よ」


 美和さんは少しうんざりしたような顔をしながら、腕を頭上に伸ばしてストレッチをする。


「単体でもSランクだったのか。と言う事は僕の魔力量はSランク相当なのか……」


 僕は思わずうなってしまう。

 法則魔法が想像以上に魔力を喰う事と、僕が異世界出身にも関わらず魔力量Sランク相当である事が判明したのだ。

 感応力と言い魔力量と言い、どうして僕はこれほどまでに魔法の才能に恵まれているのだろうか。世界中を探してもこれほどの才能を持つ人はそうそう居ないと思う。潜在能力があったから召喚されたのか、それとも召喚されたから能力があるのか、いまいち分からないけど、魔法を生業とする上ではかなり助かる事は確かだ。


「それじゃあ、時間もあまりないはずだから、試してもらって良い?」

「もうやっているわ」


 美和さんの目線を追うと、黒く染められた板の中央付近に炎が浮いていた。この黒い板は魔法の様子がよく分かるように先ほどの準備時に設置していたものだ。

 板の前の炎はほんの僅かだが揺れているように見える。


「美和さん、炎を自由に動かしてみて」


 すると炎がゆっくりと上下左右に移動する。


「大丈夫よコントロール出来ているわ」


 これで美和さんが適当にした設定した基点を基に魔法を発動している事を確認できた。

 僕は懐から木の箱を取り出すと、美和さんの視界に入るように床に置く。


「それじゃあ、基点を木の箱に移してもらえる?」


 美和さんは軽くうなずくと、木の箱と炎を同時に目で捉える。その間も炎は燃え続けたままで途切れる様子はない。


「移せたはずだわ」


 その言葉を聞くと僕は木の箱をゆっくりと持ち上げる。それと同時に、炎が上に移動する。


「美和さん。大丈夫そうだから魔力の供給だけお願い。暫く後ろを向いてくれる?」

「もう後ろを向いているわよ」


 僕は箱を動かして、炎を右に左へと自在に動かせる事を確認する。美和さんは後ろを向いているから、僕の動きに合わせて炎を動かす事は出来ない。魔法の基点は確実に木の箱に移動していた。


「うん。問題なく動いているね」

「それなら良かったわ。それじゃあ炎を消すわね」


 美和さんが黒い板に向かい合うと同時に、炎が何事もなかったかのように消滅する。


「僕たちは基点を物理の軛から解き放つ事が出来る事が証明した。そうだよね?」

「そうね。これで一つ目の実験はクリアね」


 美和さんがそう言うと、美和さんに纏わり付いていた霧が一気に晴れるのだった

最近の話はちょっとロジカルすぎるでしょうか。どの程度の説明・描写で過不足無く伝えられるのか、いまいち分かりません。

ここら辺の話は雰囲気を楽しみながら、この世界の魔法がどのようなものなのかを掴んでいただければ良いのですが……


感想、ご意見お待ちしています。

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