16. 飛行魔法開発2
美和さんから聞いた魔道具の概要は極めて簡素なものだった。というのも、それほど魔道具というものは存在していないらしい。しかも、全自動で魔法を発動するたぐいの魔道具は皆無だ。ファンタジーでよくあるような誰でも使える便利道具ではなかった。
まず、魔道具というのは魔法と相互作用する前提で作られた、若しくは専ら魔法の補助を行う道具とされている。つまり、大きく分けて二つのカテゴリが存在すると言える。
一つ目の魔法と相互作用する道具というのは、簡単に言えば、魔法とセットで使われることを前提にされた道具ということになる。例えば、魔法で作った圧力を利用して弾を飛ばす魔力銃(もっとも実用レベルで使用されているわけではない)や、魔法で沸騰させた水蒸気を使った発電機(これも実際に利用はされていない)などがある。
これらの道具や装置は魔法がなければ唯の置物になるのは明白だと思う。魔法と結びついて初めて道具としての意味が与えられる。そういったものが第一の魔道具だ。
二つ目の魔法の補助を行う道具というのには魔法陣や、イメージの補助に使われるアクセサリーなどが該当する。魔法を発動させる役に立てば何でも魔道具になるわけではなく、それ専用に作られていなければいけないのがポイントだ。だから、例え人間の生贄が必要な魔法があったとしても、人間が魔道具になるわけではない。
この話を聞いて、僕は気づいた。それならば、飛行魔法の複雑な部分は機械に任せてしまえば良いじゃないかと。僕がジェットエンジンの役割を果たすだけで飛ぶことが出来るようになる。
「というわけで、やっぱり無理でした」
僕は幸せが逃げていきそうな深いため息をつく。
「詠太くん。いきなり言われてもよく分からないわよ」
早朝から愚痴をいきなりこぼし始める僕を美和さんが諫める。
空からは大粒の雨粒が落下し、パラパラとテントの中に音を響かせる。空気は冷たい。呼吸をするだけで心まで底冷えするような気がした。
今は、開発を始めてから四日目の朝だ。あと三日で魔法を完成させなければならないのだけど、やはり良い方法が思いつかない。もし複雑な部分は機械に任せることが出来たとしても、現在そのような道具を作る余裕はないし、設備もない。そもそも、それでは魔法使いは唯の永久機関扱いだ。
「魔道具の話を教えてもらって一晩考えてみたけどやっぱり良い方法は思いつかないよ」
「ヒントにならなかった?」
悲しそうに少し伏し目になる美和さん。
「ヒントにはなったけど、現状でどうにか出来る解決策じゃないからね。僕が飛行機のエンジンになるという方法だよ」
「その方法だと、殆ど丸ごとひとつ飛行機が必要になるから却下よね」
僕はそこでもう一度ため息をつく。自分で挑戦し始めた事とはいえ、やはり上手くいかないと気が滅入る。
アイデアを紙に書き続けていたらその枚数は百枚を超えていたと思う。そんな贅沢なことは出来ないので地面に書いていたから確認する術はないけど。
「もし、魔法を文字を読むだけで発動できたりしたら簡単に出来るようになるのに」
「精霊にお願いしてみたら?」
元気づける為に言ったのだろう。だが、僕はその言葉に衝撃を受ける。何故、誰も今までやろうとしなかったのだろうか。もし、本当の意味で想像したことを実現するのが魔法というのならば、抜本的に法則を書き換えることも出来るはずじゃないか。
思い立ったが吉日とも言うし、早速実行してみよう。
「それだ、美和さん。それをやってみるよ!」
「えっ? 流石にそれは不味いわよ」
「やってみなきゃ分からないって、美和さんも言ってじゃないか!」
僕は、興奮して魔法が実現した状況に思いを馳せる。
「そんな事、詠太くんに言った事ないわよ!」
たとえ言ってなくても、美和さんはいつも似たことを言いながら僕を引っ張りまわしている。というわけで、その無鉄砲さを僕も見習ってみようと思う。
「詠太くん、今失礼なことを考えなかった?」
美和さんが何か言っている気がするけど、もう関係ない。きっと上手くいくはずだ。
「それじゃあ試してみるよ。僕は今日、新たな魔法史の一ページを綴るんだ」
そう言って、僕は精霊にお願いする内容を考え始める。何処からか「何を言っているのよ!」や「絶対に上手くいかないわ」、「ちゃんと聞いているの?」といった声が聞こえてくる気がするが、気のせいだ。
考えを纏めきり、僕は精霊にお願いする。
『精霊さん、全ての魔法を文字を読むだけで発動できるようにしてくれませんか?』
『着眼点は良いけど欲張り過ぎだぁ! 天誅!』
直後、僕の意識は暗転した。
拠点を移動してから20時更新が厳しくなったので、22時更新に変更したいと思います。