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12. サバイバル

 幾つもの幹と葉が視線を覆い空はほとんど見通せず、数少ない光が葉の隙間をかい潜り、木漏れ日として地面を照らす。草葉色のキャンバスに塗られた明暗の模様は、そこにあるはずの存在の輪郭を狂わせ、薄くかかる朝霧は遠近感を亡き者にしていた。

 僕たちは息を殺してこの地に溶け込み、獲物の気配を探っていた。

 がさりと小さな音がするのを僕の耳は捉える。

 指差しして美和さんに獲物の方向を伝えると、彼女は小さく頷き僕のことを指さす。僕が仕留めることになったようだ。

 僕はうさぎ周辺の大量の空気を容器に入れて、一気に収縮させるイメージをする。

 断熱圧縮される気体は外部からされる仕事によって内部エネルギーを上昇させる。それは温度の上昇を意味する。勿論、完全な断熱圧縮は理論上でしか存在しないが、温度勾配によるエネルギーの移動速度に比べて十分に速い速度で圧縮すれば、断熱圧縮とみなしても問題はなくなる。ロケットが大気圏に突入する際に先端が高温になるのと同じ原理だ。そして、これほどの高温になれば普通の生き物は生きていけないはずだ。


『精霊さん、この現象を起こしてくれませんか?』

『うん。これなら良いよ~』


 次の瞬間弾けるような爆音が響き、うさぎの周りが強烈な光りに包まれる。

 事が終わった後、うさぎは急激な温度上昇と圧力の上昇に耐え切れず無残な死体へと変わっていた。


「自分でやったとはいえ、かなりエグいなぁ」


 僕は周りに注意を払いながらも、うさぎに近づいていく。

 うさぎの体表は短時間とはいえ高温にさらされたことで焼け爛れ、目などの柔らかい部分からは高圧のためか出血もしていた。見えないだけで、肺などの生命活動に必須な器官も深刻なダメージを負っているだろう。


「他の動物が寄って来るかもしれないから、素早く解体するわよ」


 いつの間にか僕の隣に居た美和さんの言葉に頷き、狩猟刀を取り出し解体を始める。これまで何回か解体を美和さんに指導されながらやったので、今では手際よく解体することが出来る。と、思っていたのだが、想像以上に死体が傷んでいるため、なかなか上手くいかない。

 殺すときにも解体のことを考えなければいけないようだ。次のハンティングではそこら辺も気をつけよう。


「って、僕達ごく自然に魔法を使った狩りをしてるけど、狩猟免許とか持ってないのに大丈夫なの?」

「問題ないわ。区分的には自由猟法になっているから、免許は必要ないはずよ。一応、猟友会の方とも以前に調整をしているから問題ないはずよ」

「随分と手回しがいいね。美和さんって結構ワイルドな所もあるよね」

「全く、失礼な事を言うわね。私は生粋のレディーよ」


 狩猟の方法を初心者に一から十まで教えれる人が、レディーと言うのはどう考えても無理があると思います。藪蛇になると嫌なのでそっとしておくけれど。

 悪戦苦闘しながらも、血抜きや、内臓の取り出し、皮剥などを少しずつ済ませていく。あれだけ派手な爆発音だったのにもかかわらず、既に鳥達が漁夫の利を狙って騒ぎ出しているようだ。


「さて、そろそろここから退散するわよ。残りは他の生き物たちに任せましょう」


 僕が殆どの作業を終えた頃に美和さんが声をかける。

 周りには血の匂いが充満し、地面や草には血痕が付着している。そして自分が手に持つ袋の中には、解体されて肉だけになっているうさぎが入っている。

 僕は改めて客観的にこの状況を見て殺人現場を連想してしまい、軽い吐き気を覚えるがぐっと堪える。


「うん、早いところ切り上げてベースに戻ろう」


 僕は美和さんと一緒にベースキャンプへ歩き出す。

 今日はサバイバル5日目。

 僕たちはベースキャンプを設置して、その周辺で魔法を使った狩りを行い、実践形式で魔法の特訓を行っていた。

 しかし、ベースキャンプに戻るまでの間、僕たちは既に最悪の状況に陥っていることを知る由もなかった。

狩猟は書くのが難しい。

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