11. 目標そして特訓
昨日の買い物は美和さんが若干暴走したり、情緒不安定になったりといった事もあったが、それなりに楽しい物だった。
そして、街を支えるものの一つとして魔法を目にすることが出来たことが大きい。
「というわけで、僕もそろそろ仕事をしようかなと思うんだ。折角魔法の技能があるから、それを活かして結界の維持とかのお仕事が良いかなと思っているんだけど」
後で美和さんに聞いたのだが、街の結界の維持は世の魔法の代表的な職業なのだそうだ。
僕はリビングのソファーに座りながら、隣にいる美和さんに仕事に就くことを考えていることを明かす。
「強く希望するならしょうがないけど、詠太くんぐらい感応力が強いなら魔法の研究とかどうかしら」
「やっぱり結界が見えるぐらい感応力が強い人って珍しいんだ」
「そうよ、魔法使い千人に一人ぐらいの割合かもしれないわ。更に言うと魔法使いと言われるレベルの人は、五千人に一人ぐらいの割合しか居ないわ。つまり、五百万分の一の割合ね。魔法を使えるだけの人はもっといるとは思うけど」
「あれ? 魔法を使えるだけじゃ、魔法使いと呼ばれるわけじゃないの?」
「自在に魔法を使えて初めて魔法使いと呼ばれるのよ。火は付けられるけど火傷してしまうとか、水を出せるけど量を調整できないとか、そういう人は沢山いるのよ」
「ということは、僕は魔法使いと言えるレベルじゃないんじゃ」
まだ、X線付きかもしれない光の魔法ぐらいしか発動したことがない。
「詠太くんは、少し練習してコツを掴めばすぐに魔法使いレベルになると思うわ。説明をしていないのにいきなり光を出せたんだから、きっと大物になれるわよ」
なぜだろう、褒められているはずなのに褒めらている気がしないのは。
「詠太くんが、魔法使いになりたいなら私もサポートするわ」
「能力が足りているんだったら、魔法の研究をするのもいいかもしれないね」
元々、物理の世界に飛び込んだのも研究者になりたいという気持ちがあったからだ。もし、魔法の研究に適正があるというのならば、魔法の研究者も良いのかもしれない。
「それならば、早速森に籠もって特訓よ!」
「えっ……森で特訓?」
僕は狼狽してしまう。なぜ、魔法の特訓で森に籠もる必要があるのだろうか。そもそも、魔法を使うための練習って、特訓って言うほど厳しいものだろうか。様々な疑問が次々と噴出し頭のなかを廻る。
「特訓と言ったら、自然と一体になってやるものでしょう?」
僕は一瞬「なるほど」と納得してしまいそうになるが、即座に思い直し頭を振る。
「そういう話も聞いたことがあるけど、魔法の特訓でそうする意味がよく分からないよ?」
「ちゃんと意味はあるから安心しなさい! 善は急げと言うし、早速サバイバルの準備をするわよ」
「なんか特訓がサバイバルになってるし」
「森で籠もるって言ったら、サバイバルに決まっているわ!」
「キャンプとかもっと平和な方法もあるよね。そもそもこの家も十分に森の中じゃないか!」
「キャンプなんて知らないわ! それに、森は深ければ深いほどいいんだから移動するに決まっているじゃない」
美和さんがキャンプのことを知らないという事実に驚愕する。でも、森は深ければ深いほどいいというならば、サバイバルは理にかなった方法なのかもしれないが……
「そうだとしても、もっと安全な方法があるんじゃないの? サバイバルなんて危険すぎるよ」
「私がいれば何の問題もないわ。いざとなったら守ってあげるから。さぁ、早く準備しましょ」
僕は美和さんに守られる前提だったのかと、がっくりと肩を落としうなだる。
女に子に守られる僕ってなんだろう。
「まだ準備を始めていないの。早く準備して!」
いつの間にか作業を始めている美和さんに発破をかけられてしまう。こうなってしまった彼女を止めることは難しい。
今度は別の意味で肩を落とす。ここは流れに身を任せて準備をするしか無い。
しかし、いざ準備をしようと思ってもサバイバルは疎か、ソロキャンプなんてしたことが無い僕は途方に暮れる。
「男の子なのに、情けないわね」
結局、見かねた美和さんに手取り足取り必要な物を教えてもらう。
男として色々と大切な物を失った気がするのは気のせいだろう。誰でも最初は初めてなのだ。男ならそれぐらい知っていなければならないというのは、前時代的な価値観だと主張したい。いや、主張しないと僕の心が折れてしまう。
「詠太くんは可愛いから、これで良いのかもしれないわね」
やっぱり、僕はもう男として生きていけません。いや、かわいい系男子として生きていけばいいのか……
こうして、色々と壊れてしまった理崎詠太と法月美和はサバイバルもとい特訓の準備を着々と進めていくのであった。
美和さん、詠太くんを弄りすぎると壊れちゃうよ。