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死者を弔い清める炎がゴウゴウと燃え盛り、闇夜を赤く照らし出す。


黒羽城ではこの地に残留している妖怪の瘴気で死者が妖怪の一種である亡者と化すのを防ぐため、今まさに火葬が執り行われていた。


さて……これからどうするか。


城主であり父親である康隆の遺体が燃えている炎の前で気丈に振る舞う夏樹と冬華の背中を遠くから眺めながら和也は先の事を考えていた。


城主からあの2人を支えるために家に仕えてくれと直々に頼まれて、是と答えたとは言え……この有り様だしなぁ。


正直、選択肢としては他の所へ行った方が賢い気がするが……でも、あの2人の事を捨て置いてトンズラってのも後味が悪いし。


まぁ、今の状況なら俺のチート染みた召喚能力を使えば何とでもなるか。


いや……でも能力を使って現状を打破するのは良いけど、そうすると今度は要らぬ妬み嫉みを買って居心地が悪くなりそうだな。


うーん。身の振り方に困る。


……ま、なるようになるだろう。


とりあえず今後のプランを練りつつ色々と実験して能力の把握でもするとしようか。


散々悩んだ末に極めて楽観的な考えで思考に終止符を打った和也は自身の能力の事を全て把握するため、人気の無い城の裏手へと1人姿を消すのであった。



それから一夜明け。


黒羽城の一室では上座に座る夏樹と冬華の前に和也や以前より数が大幅に減ってしまった黒羽家の家臣団が集い、累積する問題に対処するべく会議が開かれていた。


「まず此度の一件で生じた被害として死傷者が615名。全半壊の家屋が80戸。馬や豚などの家畜が30頭余り。そして……黒羽城及び城下町にあったほとんどの食料が妖怪の瘴気で汚染され廃棄する必要が。これには年貢として農民達から納められたばかりの米も含まれております」


会議が開かれた直後、一夜の内に被害の状況を取り纏め把握していた厳斎の言葉が静まり返っている部屋の中に響いた。


「被害もさることながら……食べる物すら無いとは何とも頭の痛い……爺や、すまぬが早急に商人から米を買い付けてくれるか?それと町人達のために麦などもな」


「ハッ、それが……その……」


重度の食料危機に面している事を告げられた新城主の夏樹は頭を抱えながら厳斎に指示を下すが、当の厳斎は言いずらそうに返答を濁していた。


「何だ?何か問題があるのか?」


「恐れ多くも館内の宝物庫が火事場泥棒に荒らされた様でして。手元に残っている僅かな資金では粟や稗などの雑穀を少量購入する事しか出来ませぬ」


「な!?……そうか」


厳斎の報告に愕然とした表情を浮かべた夏樹はポツリと呟き頷くと肩を落とした。


「故に……心苦しいのですが口減らしを兼ねまして、怪我をして働けなくなった男や未亡人となった女、親を失い孤児となった子らを人買いに売り、それで得た銭で食料を買って当面を凌ぐしかないかと」


「民を……売るというのか?」


「はい」


「爺や、それはあまりにも酷ではないか」


「しかしながら、このまま何の対策も立てず座して待てば冬に大量の餓死者が出てしまいまする。そうなってからでは……」


「……」


領民を人買いに売り払うという厳斎の提案に夏樹が意義を唱えるが、厳斎の最もな指摘に夏樹は口をつぐむしか無かった。


「あのー1ついいですか?」


そんな時、部屋の末席に座っていた和也が声を上げる。


「何であろうか、和也殿」


「資金と食料であれば私が融通する事が可能です……この様に」


こんなやり方はあまり好きじゃないけど、今後の事を考えるとこのやり方の方が都合がいいし……。


しょうがないか。


というか……何かカナシみたいな事やってるな俺。


よりインパクトを与えるために今の今まで虎視眈々と時期を伺っていた和也は、そんな事を考えながら米俵や大量の砂金の大粒を召喚してみせた。


「なっ!?それはまさか金!?」


「すごい……」


「なんと……」


「米がいきなり現れた!?」


和也の手の平からボロボロとこぼれ落ちる砂金の大粒や突然現れた米俵にその場に居合わせた誰もが驚き、和也の事を凝視していた。


「とまぁ、こんな風に私は色々な物を召喚する事が可能ですので黒羽家の再建に際し、お役に立てるかと思います。……何故召喚出来るのかは説明しかねますが」


「そ、そうか……何とも面妖な事ではあるが大いに助かる。なぁ、爺や」


「誠でございます。して……融通はいかほど可能か?」


「金はそれほど出せませんが、米であれば1万石(約1500トン)でも2万石でも可能です」


「い、1万石!?黒羽家全体でも1000石あるかないかなのに!?」


「これは参りましたな……ハハッ」


和也の返答に夏樹や厳斎は驚きを通り越して呆れたような表情を浮かべていた。


「……して、これほどの支援をする代わりに和也殿が望む物は何であろうか?我が家には期待に応えられそうなモノはあまりないが」


うーん。望みと言われてもな。


あぁ、ならあれにしよう。


本心を見極めようと表情を引き締めた夏樹からの問い掛けに一瞬悩んだ和也は今後の事を見据えた提案をする事にした。


「では、黒羽家及び黒羽領全体の復興と改革を行う指揮権を頂きたく」


「それが……望み?」


「はい。失礼ですが、このままの状態では妖怪または人による襲撃があった場合、到底持ちこたえる事が出来るとは思えません。ですから今の内に備えをしておきたいのです。お父上に頼まれている事ですし」


ここに居場所を作るとなると、現状では不安だらけだからな。


手遅れになる前に今の内から対策をしておかないと。


「なんと義理堅い事か……承知した。では和也殿には黒羽家及び領内での如何なる活動も許可する。皆の衆も良いな」


「「「「ハッ!!」」」」


大胆過ぎる夏樹の決定に幾人かの家臣が眉をひそめるが、和也の鬼を倒した実績と召喚能力の事を前に誰もが口を挟む事が出来ず夏樹の決定はそのまま承認される事となった。


「ありがとうございます」


さて、一丁頑張りますか。


そうして夏樹の許しと全面的なバックアップを受けた和也による黒羽領の大改革が始まった。


まず最初に和也が着手したのは妖怪の襲撃により被害を受けた黒羽城とその城下町の復興及び拡張強化。


医薬品を召喚し怪我人の治療を行い、炊き出しや生活必需品の供給で生活に窮していた町人達を助け支持を得る傍ら、ほぼ無尽蔵に召喚可能な建築資材を――しかもある程度加工済みの物を厳斎や町人達に渡し復興を押し進め、その一方で和也はブルドーザーなどの重機を使いつつ、この時代には無いコンクリートや鉄筋をふんだんに活用し黒羽城をガッチガチに要塞化。


そして土塁と堀、更にはフェンスと有刺鉄線に囲まれた出城を3つと多数のトーチカを短期間の内に建築すると地下施設や地下通路の構築にまで着手。


また、出城の建築が終わった時点で和也は黒羽領全体の詳細な測量を開始し、加えて領内に点在している村々と黒羽城を結ぶ街道の拡張整備や領民の戸籍登録を実施。


なお、それと平行して喜助を筆頭にした若者達に和也が幾つかの現代兵器の使い方を叩き込み、にわか仕込みの急造兵士を作り上げていた。


「――人が足りん!!」


やる事が多すぎる怒涛の2ヶ月間があっという間に過ぎ去ったある日、和也が血を吐くように叫んだ。


「いきなりどうしたんですか?和也殿」


「だから人が足りないんだよ。このままじゃ過労死する!!」


一緒にお茶を飲んでいた夏樹の問い掛けに和也は動けぬ自身の体の代わりに鋭い視線を夏樹に投げ掛けた。


黒羽領内の改革という大事業にいくら便利な道具や大量の物資を召喚出来るとはいえ、たった1人で道具や物資の性質を教え使い方を手取り足取り指導せねばならない負担がかなりのモノであったためである。


「でしたら……下人をお買いになっては如何ですか、和也様。使える者が居ましたら存外に便利なモノですよ」


和也が動けぬ理由――膝の上に座る冬華が、あっけらかんとそう言った。


「下人?」


下人って確か……この時代の奴隷の事だったような。


……にしても冬華の口から下人って言葉が出てくる事に身勝手な違和感が。


まぁ、元々の価値観や倫理観が違うんだからしょうがないけどさ。


低い立場にいる人をモノとして見ている冬華の視点に違和感を感じながらも、和也は自分を強引に納得させる。


「ただし和也様。仮に下人をお買いになられるとしても要らぬ女狐や泥棒猫などはお買いになってはいけませんよ?」


「は、はい」


妙な気迫を放つ冬華に深々と釘を刺された和也は、ただただ首を縦に振るのであった。

次回がいつになるのか全く分かりませんが……次回はお買い物(奴隷)です。

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