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「若様ーー!!姫様ーー!!何処に居られるのですかーー!!」


2人の出自を知った和也が固まっていると切羽詰まった大声が聞こえて来た。


「喜助の声だ。おぉい!!我らはここにいるぞ!!」


その声に反応した夏樹が声のした方に向かって声を返す。


「今の声は?」


「ご安心を。敵ではありません。父の家臣であり私と妹の世話役でもある者の声でしたので」


念のためPPSh-41を構えた和也に夏樹が笑みを浮かべて答える。


「おぉ、若様。姫様。よくぞご無事で!!」


少しして複数の走る足音が聞こえたかと思うと、和也達の前に鎧兜を身に纏った武士達が現れる。


彼らは夏樹と冬華の無事な姿を前にすると、一様に頬を綻ばせ胸を撫で下ろしていた。


「喜助も皆も無事で何よりだ」


「っ、若様に我が身を心配して頂くとは感謝の言葉もありませぬ。――して、そちらの御仁は?」


感動の再開を果たした喜助は表情を引き締めてから夏樹と冬華の傍に立つ和也に訝しむような視線を送る。


「この人は私と冬華を妖怪から守ってくれた命の恩人だ」


「なんと!!そうでしたか。そこな御仁、若様と姫様を救って頂き感謝する。本当にありがとう」


夏樹から事情を聞いた喜助は和也に向けていた視線を柔らかいものに変え、深々と頭を下げた。


「いや、たまたま居合わせただけだから……そこまで感謝されるとむず痒いというか……。と、そんなことより今何が起きているのか教えてくれないか?」


何も知らないまま成り行きで現状に巻き込まれている和也はそう言って、夏樹や喜助に状況説明を求めた。


「……」


「……」


だが、夏樹と喜助は困ったように、そしてどこか言いづらそうに顔を見合せるばかりだった。


「……ごめんなさい、和也様。私が悪いのです」


和也の言葉に誰も答えず沈黙が辺りを支配する中、意外な人物が口火を切った。


「冬華!?」


「姫様!?」


「いいのです。兄様、喜助。命を救って頂いた和也様に隠し事をするなんて不義理をしてはいけませんから」


困惑を含んだ制止の声を上げた夏樹と喜助を手で制し、口火を切った冬華はどこか悲しそうな表情を浮かべながら話を始めた。


「原因は分からないと陰陽師や呪術士の方に言われたのですが、私の体にはどうも妖を惹き付ける特殊な霊力が満ちているらしく、そのせいで私は常に妖怪に狙われているのです。ですから、さっき和也様が倒して下さった妖怪も恐らく私の体から発せられた霊力に釣られてやって来たのだと」


「そうなのか……大変だな。で、ここら辺に安全な場所かなんか無いのか?」


話を聞き終わった和也が冬華の頭を優しく撫でてから、皆に次の質問を飛ばす。


「「「「……」」」」


「ん?どうした?何故、みんな俺を見る?」


しかし、和也の質問に答える者は1人としておらず、和也の事を凝視するばかりであった。


「ハッ、ハハハハッ!!アハハハハハッ!!」


「お主は……なんという剛胆な……」


「……何がどうしたんだ?」


「初めてです。私の体の事を知ってなお私に触れてくれたのは肉親以外で和也様が初めてです」


数瞬置いてから突然笑い出した夏樹と唖然とする喜助の姿に和也が困惑していると、何故か涙を流している冬華が嬉しそうに言った。


「しかし、なんともまぁ……不思議な人なのだな、和也殿は」


「あのぉ……何が何だか分からないんだが?」


「いや、和也殿は何も気にせずそのままで良いのだ」


状況が全く理解出来ていない和也に夏樹が追い打ちをかけるような言葉を口にした。


「このままでいいって――おわっ!?ど、どうした!?」


「んふふっ、和也様。もっと頭を撫でて下さい」


自身の行動が周囲にどういった影響を与えたのかが理解出来ていない和也が頭の上に?マークを幾つも浮かべていると、突然冬華に抱き付かれる。


な、なんなんだ……一体。


無垢な笑みを浮かべている冬華を力業で引き剥がす事も出来ない和也は更なる混乱に陥るはめになった。


「さて、喜助。このあと私達はどうすればいいと思う?」


冬華に抱き付かれた和也がワタワタと慌てている様子を横目に夏樹が喜助に問い掛けた。


「ハッ、この辺り一帯には無数の魑魅魍魎が集まって来ているため逃げ道が1つもありません。ですからここは1度城に戻るべきかと」


「だが、城は……」


「……はい。若様が危惧されているように城は既に鬼の手に落ちたものかと」


「だったら……」


「恐れながら。この場にいても、どこへ逃げても姫様の霊力で居場所が鬼共に気取られます。ですからこうなればいっその事、姫様の霊力を隠す事が出来る城のあの部屋に隠れるしか手はありませぬ」


「分かった。なら……和也殿!!」


喜助との相談を終えた夏樹は冬華と戯れていた和也に声を掛けた。


「えっ、何?」


「貴殿の強さを見込んで頼みがあります。――鬼を退治してはもらえませんか?」


「鬼?」


突然、鬼を退治して欲しいと夏樹に頼まれた和也は気の抜けるような返事を返し間抜けな顔を晒していたのだった。



……鬼。鬼か。そもそも俺は鬼に勝てるのか?


というか、万が一現代兵器が鬼に効かなかったら俺なんかあっさり殺されるだろ。


……でも、変な言い方だけど。ここで恩を売っておけば当面の暮らしが保証されて、この世界の情報が手に入るだろうし。


「我々が今置かれているこの状況は和也殿になんの関係も無いという事は百も承知です。また無理な事を言っている事も理解しています。その上で伏してお願い致します。どうか、我が妹を助けるためにお力を助けては頂けませんでしょうか!!」


「「「「お願い致します!!」」」」


夏樹や喜助を筆頭とした武士達に懇願されながら、和也は自分の命と彼等に手を貸した際に生じる利点を秤にかけていた。


「っ……あー。悪いけど城に出向いて鬼退治するのは無理だ」


「そ、そんな……」


無情な和也の言葉に夏樹達はガックリと項垂れる。


和也に抱き付いたまま、無言で事の成り行きを見守っていた冬華も一瞬悲しそうな表情を浮かべた後、名残惜しげに和也から離れる


だが、続けて和也が発した言葉に夏樹達は驚愕する事になった。


「もう来ちゃったみたいだし――なっ!!」


「キャア!?」


驚きに目を見開く夏樹や喜助達を置き去りにして冬華を小脇に抱き抱えた和也はその場から飛び退き、一瞬前まで自分と冬華が居た場所を拳1つで滅茶苦茶にした鬼に対し咄嗟に召喚した銃を向ける。


和也の手に握られているのはベトナム戦争でトーチカや地下トンネル等の閉所における戦闘で重宝されたことでも有名なイサカM37であった。


「ゲヘヘッ!!」


「夏樹達は離れてろ!!」


「ソイツを喰わせろォオ!!」


奇襲をかわし夏樹達に警告を発した和也に向かって再び鬼が接近する。


その目的はやはり和也が抱える冬華であった。


「ふざけんな、テメェが喰うのはこの……鉛弾だ!!」


だが、小柄で素早く動く1本角の青い肌をした鬼が目的の冬華を手中に収める事は無かった。


何故なら和也の手に握られたイサカM37が火を噴き、鬼の顔を木っ端微塵に吹き飛ばしたからである。


「す、すごい……鬼を一撃で……」


「和也様、凄い……」


「あの御仁は一体……何者なのだ?」


妖怪の中でも上位に位置し、鋼のような肉体や巨木ですら簡単に持ち上げる怪力を兼ね備え妖退治のエキスパートであるはずの陰陽師や退魔士が徒党を組んで挑んでも返り討ちにされてしまう相手をたった一撃で退治してみせた和也の手腕に夏樹や冬華、喜助達は唖然とするしか無かった。


「一丁上がりっと。――クソ、次が来たな」


銃口から硝煙を吐き出すイサカM37のハンドグリップをコッキングし、使用済みとなったショットシェルをエジェクションポートから排莢しつつ、新たな敵の存在を察知した和也は息つく暇も無く次の戦闘態勢に移る。


「おいおい、もう親玉の登場かよ!?冬華!!夏樹の所へ行って伏せていろ!!」


「えっ、あ、はい!!」


新たにやって来る鬼の大きさを木々の間から朧気に見てとった和也はイサカM37では威力不足だと考え、新たな武器を召喚する。


そして、その新たな武器の使用条件的に冬華が側に居るのは危険だと判断した和也は冬華を夏樹達の元へと走らせた。


「グヘへッ……青鬼(せいき)?獲物は捕まえたかぁ?」


立ち塞がる木々を簡単にへし折り地面を揺らしながら現れた全長5メートル程もあろうかという巨大な鬼。


真っ赤な肌に2本の捻れた角、口から飛び出した鋭利な牙。


「ハハッ、デカ過ぎだろ……」


恐怖心を抱くには十分過ぎる程の凶悪な存在と単騎で向き合い乾いた笑いを溢した和也だったが、恐怖心に呑まれる事は無く冷静を保っていた。


「青鬼ィ?返事はどうした――って、ォオ?青鬼が死んでらぁ!?ゲヘッ、俺の弟を殺るとは、ちったぁ――」


顔が消し飛んだ弟の骸を発見した赤い鬼はギョロギョロと目玉を動かし和也に視点を合わせると口元をニヤリと不敵に歪ませる。


「くたばりやがれ!!」


だが、そんな鬼の台詞を聞き終える前に和也は先制攻撃を敢行。


直径5センチ、長さ1メートルの鉄パイプ製発射筒の先に直径15センチの成型炸薬弾頭を装着した携帯式対戦車擲弾発射器――パンツァーファウストの発射装置を押し込んだ。


そして、次の瞬間。


史実では連合国の数多の戦車を葬り去ったパンツァーファウストの成型炸薬弾頭が鬼の体に直撃する。


「げべふぁっ!?」


命中し炸裂した成型炸薬弾頭の中心から噴出した秒速10キロメートルのメタルジェット(溶解金属の噴流)が鬼の心臓を貫き、土手っ腹に大穴を穿った。


「こいつはオマケだ!!取っておけ!!」


たった一撃で瀕死となった鬼にそう言いながら和也は導爆線で繋がれた8つのC-4爆薬が入った携帯袋――M1型連鎖爆薬を鬼の体に開いた大穴に投げ込み、地に伏せる。


「ギ、ギザマァアアア!!」


数瞬前までの余裕が掻き消えた鬼は怒りに燃え、地に伏せた和也を踏み殺そうと突進をかけるが、直後にM1型連鎖爆薬が起爆。


巨大な鬼は轟音と閃光に呑まれ、この世から抹消された。


後に残ったのは爆心地に深く刻まれたクレーターと鬼の僅かな肉片だけであった。


「――ペッペッ……砂が口に入った……はぁ、何とか勝ったみたいだが……夏樹達はどこだ?おっ、いた」


「和也殿ーー!!」


「和也様ーー!!」


「うごッ!?腰が砕ける!!」


現代兵器を用いてあっさりと鬼を倒してしまった和也は自身が成した事の重大さを理解せぬまま、近くで隠れていた夏樹達との合流を果し、飛び付いてきた兄妹を狼狽えながら出迎えたのであった。


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