第四話
これからのことを考える。町についたら、何をしようとか。
オレって戸籍あるのかな、とか。
まぁ、現状からすれば、それらに対してアレコレ考えを巡らせるのは現実逃避なんだろうな。
今、オレは崖の上にいる。降りる道も階段もない。ロッククライミングのスキルもオレはもたない。よって崖の壁をつたって降りるのは非情に危険であるからしたくない。
もっとも、プロのロッククライマー(そういう言い方でいいかわからない)でも、道具もなく崖を降りるのは危険かもしれないが。
一つ気になるのは崖の上、むき出しの土が広がる半径10メートルの空間の真ん中。
黒い石柱だ。
もしかすれば、これが何かのギミックで、上手く作用すれば無事に崖下に行けるかもしれない。上手くいかないとき、どうすれば良いかはそのとき考えよう。
石柱の前に立つ。
何かかわった所はないか見て調べる。迂闊には触りたくない。
黒い表面は水晶の様に光沢をはなち、風にさらされているのに風化している様には見えない。謎である。
見ても何も分からなかったら。あんまりやりたくないが、触ってみることにする。
滑らかで、少しヒンヤリとする。石柱をひねってみようとする。軸回転はほとんどしない。しかし、微かに上下に動いたようではあった。上に引っ張りあげようとする。動かない。ならばと下に押し込んでみる。
すると石柱は地面へと沈む。正解か?
今度は地面が揺れだして崖そのものの高さが低くなっていく。
オレは揺れがやむまで、石柱にしがみつきじっとしていた。
崖は完全には沈むことはなく、二~三メートルという高さになっていた。この程度なら飛び下りてもケガはしそうにないが、慎重に壁をつたって降りることにする。スキルはないがこの高さなら問題ないだろう。
崖の下はやはりそこからは草原であった。
山を越えるまでこの辺りに人の住めそうな場所がなかったのは崖の上で確認済みだ。
近くには川さえない。川があれば川伝いに進むことで、人のいる場所にいけそうではあるが、ないのだから仕方ない。
とりあえず南に進もうと思う。人は暖かな場所で過ごしたいと思うだろうから。
太陽のある方へ動くことにする。
もっとも、いまだにこの世界のこと、この場所の地理、わからないことだらけなのだから、天空から光を大地に注ぐものを太陽といって正しいのか、ここが北半球で太陽(仮)のある方向を南といって良いのかわからないが。
わからないが、だ。
これが、昔から憧れていた冒険といものなら、この未知への不安も、未だ使い方のわからない加護も、異世界とチートへの期待と言換えれはしないかと、このときになって思いちょっと楽しくなった。