第一話 その2
自分が悪いのはわかっていても、謝りたくない相手というのはいる。
器の小さい男だと笑えば良いさ。だけど、後には引けない意地がある。
「さぁ、早く謝るのです。この歪んだ性犯罪者がっ!!」
だけど、心が折れそうです。「見た目、中学生の女の子に罵られるのって、ご褒美です」みたいな感性の人の気持ちがわからない……。ただ、ただ、ムカッとするだけなんだが。まぁ、趣味は人それぞれか。
「……なんか、謝らなくてもいい気がしてきた。」
「さぁ、はや…。え?」
オレの発言にアルフ様(笑)が凍り付く。
「だいたいさぁ、そっちこそ、不法侵入したわけじゃん。
ついでにベッドに誘ったのも そっちじゃん。
挙げ句人のキン○マ潰すとかさぁ!
そんで、オレに謝れってか?ふざけんなぁ!」
オレの反撃に驚きを隠せないアルフ様(笑)はそのまま立ち尽くし、かわりに先程から静観していた天使さんが口を開いた。
「二人の証言が食い違っているな。
彼の話だとアルフがベッドに誘った。
アルフの話だと、彼が異世界にすぐにいくと言って油断させ押し倒してきた。
どっちが本当なのか。いや、この際どちらでも良いか。」
どちらでも良いかじゃねえよ。こちとら男としての尊厳がかかっているんだぞ!
天使さんにつっ掛かりそうになったが、彼女の次のセリフはオレにとっては救いになるアルフへの糾弾となった。
「これは、アルフが悪い。」
天使さんマジ天使。
「そもそも、アルフ、あなたは眠りについた彼の意識をここによび、それから説明あるいは説得しなければならなかったのだ。
眠りの中から連れだせば、たとえなにかあっても、現実の彼にとっては夢で済んだはずなのだ。
また、彼との証言の不一致だが、おおかたアドリブをきかせて現世での説明を試みたあなたは、ハッキリと意見を述べることがかなわなかったのだ。
一柱の神であるあなたが、ハッキリとモノを言わなければ人の身である彼が誤解したとして、いったい誰が彼を責められよう。
そして、彼に謝罪を要求する権利はあなたはもっていない。
なぜから、すでに、あなたは現世で彼の肉体にその足でもって神罰を下したのだ。それであなたは彼の罪を赦すべきなのだ。」
わーい、天使様無双すぎー!アルフへぼーい!
言われて、アルフはギリギリと歯ぎしりしながら、青筋たててなぜか満面の笑みでこちらを振り向いた。
何この子、超怖い。
「この恨み、必ず晴らすからなぁぁああ!!」
叫び声を上げるとぽしゅうっとショボい音をたてて消えた。
あの子は何がしたいのかしらん。
「まぁ、過去のことを変えることはできない。
そして今私達が必要なことはこれからの話をすることだ。
あなたは今まで暮らしていた世界にもどるか、
私達の管理する世界にくるか、どうしたい?」
アルフのことをナチュラルにスルーして建設的な話をする。
この天使スゲー。
「理由は?どうして、オレが、そんなことを?」
「神の気紛れ、と言っておこう。
そもそも、人に神の意思を理解することはできないからな。
酷なことを言うが、ヒトは神から与えられる自由を謳歌すべきで、神の意思に異を唱える術は無い。
だから、今、君が決めることができるのは、元にもどるか、新天地に移るか、その二択のみだ。」
なんとなくカンに障る言い方だった。それはきっと事実なのだろう。
オレにとっては二択に答える以外に決めることはできない。
とかなんとか、頭の中で考えていると、天使さんがさらに続けた。
「まず、君の選択に関わらず、潰れた箇所は治しておこう。………。
2つ、あなたが「戻る」選択をするなら、この場所での出来事はきれいさっぱり忘れてもらう。
3つ、あなたが「移る」選択をするなら、君は「絶対神の加護」を授けられる。これは、向こうにいけば分かるが、極めて稀で、極めて有能なものだ。内容は行ってから説明することになるが、時空を操る術を手に入れるのだ。
その力は格の高い一部の存在しか本来持ち得ないものなのだ。
さぁ、どうする?」
まず、オレのアレは物理的に潰されていたのか、天使がわざわざ直さなければならないくらいに。結構ショックなんだが。
ずっと潰れた潰れた言われてたけど、違和感無かったからスルーしてたんだが。
この不思議空間に意識だけ移されたっぽいし、肉体とは関係ないのか?直るなら気にしなくてもよいか。
現世に戻っても孤独な生活だが、新天地にいっても、現代日本並に生活水準高いとも言い切れないしなぁ。
「新天地に「移る」としたら、こちらに戻ってこれるのか?
逆に今「戻る」としたら、二度と「移る」ことはできないのか?」
天使は答えた。
「選択と移動は一度きりだ。戻れば移れず、移ればもどれぬ」
不可逆の二択だった。今ここで、腹を括れってさ。
「「移る」ことになるなら、そこに人間はいるのか?いたとしても、言葉は通じるのか?生活の保証は?生活水準は?」
「ヒトはいる。言語に関しても、読み書きも含めて、不自由しないだろう。
生活の保証だが、加護があれば問題ない。生活水準もこちらとほとんど変わることなく暮らせるだろう。
ただし、世界の文明はこちらでいう西洋中世ぐらいではあるから、あなたの常識は通じるのかは行ってみないとなんとも言えないだろうな。
」
ん、どういうこと?
首をかしげると天使さんは、ああ、と考えてからまたつづける。
「周りの連中が、汲み取り式トイレだけど、あなたの住まいだけ、ウォシュレット付き水洗トイレになる感じだ」
なにがどうしてそうなるかわからないが、天使さんは行けば分かるから、さあ、決めろ、といわんばかりに見てくる。う~ん、あと何か 懸念材料はあるかなぁ。ビビってないで決めるべきか?移るか?
「移るかわりに、加護のかわりに、何か見返りが求められたりとかは?」
「ない」
この天使、即答である。
「じゃあ、移ることにします」
言うやいなや、ぶん殴られて意識がとんだ。
すみません。誤字あったので訂正します。