あゆはアダルト店で
うな重はおいしかった。
2800円もするのだから、当然と言えば、当然だ。小林一郎と早苗では、味覚や好みが違うから食後の満足度に差異があるかもしれない。
早苗の重箱を見ると、飯粒を一つも残していないので、察するに口に合わない、ということはなかったのだろう。
支払いを済ませ、また小菅の中古のダイハツを駆って、あてどないドライブに出発する。小林一郎は運転に飽きてきたので、早苗と恋人ごっこをしたくなった。
その旨を早苗に告げると「まあ、いいよ」という。設定としては、バカップルだ。希望の設定を告げてみると「ワタシ、バカだから大丈夫だよ」と早苗。
それで、バカップルがラブホにしけ込む前に、アダルトグッズショップによって、これから2人きりで行う種々の破廉恥行為のための道具を物色する体で、芝居をしてみようと小林一郎は提案した。早苗は特に異議を唱えることなくOK。
国道沿いには、何店かのアダルトグッズショップがあった。別にこだわりはないので、最初に目についた「エビス堂」という看板の掛かった店に乗り付けた。
小林一郎と早苗は連れ立って店舗に入り、「ピンクローター」や「ディルドー」「ローション」ほかSM用品などウインドーに入った数々の商品をじっくり観察した。
男性1人の先客がいた。「オナホール」という自慰行為のための商品のコーナーにいたのだが、ブスとはいえ女性である早苗の姿を認めるや否や、そそくさとどこかに行ってしまった。
もう一人先客がいた。こっちは女性だ。周囲から死角になったコスプレコーナーでしゃがみ込んでいる。白縁のティアードロップタイプの濃いサングラスをかけ、金髪だ。
黒いレザーのジャケットを羽織りピチピチのパンツ。しきりにガムをかんでいる。鼻とか口元とか浜崎あゆみにそっくりだ。小林は擬態の巧妙さに感心する。
浜崎あゆみは立ち上がって近くに置いてあるマネキンに話しかけた。マネキンに見えたのは、身長が2メートル近くある男だった。ジョジョに出てくる「スタンド」みたいな現実離れした風貌の持ち主だ。じっとジョジョ立ちを決めているので、マネキンにしか見えない。
小林はエキセントリックな風体のカップルに視線を吸い寄せられた。こういう店の暗黙の了解だが、客同士は絶対にアイコンタクトしてはいけない。小林は凝視したい衝動をぐっとこらえる。
小林一郎はひととおり、店内の商品と客たちの観察を終えて、一息ついた。早苗は「かわいいのがある」と言って、ゴールドの変な形の商品を指さした。
知識不足のせいで小林は、その商品が何に使うためのものか分からない。値札を見ると大した額ではない。
「記念に買ってやるよ」