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killer elite  作者: 石田徹男
グレート(じゃない)ジャーニー
19/83

原発周辺にミサイル着弾しました

天皇暗殺計画――グループ内の符牒では「プロジェクトJ」――は轡田のやり場のないストレスを解消するはけ口になっている。

  

 轡田は、中古車販売業とスナック2軒を経営しているが、台所事情は火の車だ。日本は、不景気に輪をかけて国家的非常事態に陥っている。轡田のケツに火がついたところで、だれも消火活動に駆けつけてくれない。みんな自分のことで精いっぱいなのだ。


 資金繰りに追われて、最近は頑健な轡田の体も肩こりや腰痛、立ちくらみなど悲鳴を上げ始めている。


 轡田は老いに向かう肉体に抗うための「興奮剤」が欲しかった。極左とか、テロリズムにとくに関心があるわけではない。ただなんでもいいから「ヤバいこと」に首を突っ込んで、アドレナリンが出まくる状況に身を置きたいだけ。常識に拘泥して、死んだように生きるのは御免だ。検挙上等。どうせ世間のうわさは75日だ。


  茫漠としていながら「焼け付くような」渇望を澱のように溜め込んでいたとき、あの名前も知らない男に出会った。さっき事務所で轡田を出迎えた男――轡田は「ヤスリの男」と呼んでいる――が轡田の経営するスナックに姿を見せ始めたのは2年半ほど前のことだ。


 いつも一人でやってきて、カウンターの定位置に座り、バーボンか何かを飲んでいる。絡んできたり悪酔いしたりせず、金払いがいい上客だった。


 「オーナーさんでいらっしゃいますか」1年前の夏、轡田はヤスリの男から初めて言葉を掛けられた。 


 「日本もいよいよ終わりですね」


 オーナーとして1週間に一度カウンターに立つ轡田はたまたまその日、店に出ていた。言葉の意味が分からず、ヤスリの男の顔を見つめた。


 ヤスリの男の視線は、轡田ではなく近くに置いてあるテレビの液晶画面を見ていた。ちょうどニュースが流れている。ボリュームをしぼっているのでテロップでしかニュースの内容は分からない。


 日本各地の「原発」至近にミサイル着弾


 北朝鮮軍事政権、暴走で発射か


 原発建屋損傷も炉心融解の恐れなし


 放射性物質、国土の56パーセントに拡散


 その数か月前、北の金正恩政権は軍部のクーデタであっけなく倒壊した。中国の策略もあり、北朝鮮軍部は暴走を止められなくなった。指揮系統の完全な崩壊により、北朝鮮は日本の複数の原発に向けてテポドンミサイル発射した。中国の思惑としては、この機に乗じ、日中間で懸案の領土問題を自国の主張通りにすることが目的だった。


 中国の水面下での行動はすばやく、北朝鮮の軍部を一気に叩きつぶし共産党の傀儡政権を樹立した。国際的な批判を封じ込めることに成功した。


 アメリカは、日本の戦略的重要性をパワーバランスの中で天秤にはかった。日本の領土問題は米国にとってのトップ・プライオリティーではないという結論。つまり、米国は中国との全面対立は避け、日本の卑小な領土を切って捨てた。


 国土の広範囲を放射性物質によって汚染され、数十万単位の避難民が安住の地を求めて、まさに「エクソダス」を行った。汚染を免れた関東と日本海側の一部地域に避難民が殺到した。復興どころではなくなり、警察力の及ばない無法地帯スラムが各地に形成された。


 狂信的なカルト集団も雨後の竹の子のごとくに乱立した。「光の家」はその中でも比較的、穏健なグループだった。轡田は、常識を弁えた「光の家」信者として表向きは振舞っていた。


「どこまで落ちますかねえ。こうなると落ちるところまで落ちるのが得策なこともありますよ」

 

 ヤスリの男は、轡田の顔を覗き込んだ。


 「ごたごた、と言えば最近の皇室での内紛ごぞんじですか」


 ヤスリの男は胸ポケットから、上等な爪ヤスリを取り出して手の中で弄び始めた。 


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