幸徳会
轡田はレクサスを、いつものパーキングに停めた。
事務所の扉を開くと、笑顔の男が迎えた。デスクチェアーに座って爪の手入れをしている。
轡田は男の名前を知らない。男も轡田の名前を知らない、はずだ。多分。
爪の手入れを続けながら男が口を開く。
「遅かったな。おまえらしくない」
「野暮用ができたんだ」
「みんなそろってるぜ。すぐミーティングだ」
男は、爪とぎのヤスリを引き出しにしまい、立ち上がる。
男は隣へつながるドアを押し開け、轡田に先に中に入るよう促す。
円卓を囲んでいるのは、5人。全員の顔は何度かあっているから知っているが、名前は一人も知らない。
男、男、女、男、女。
轡田が遅れて入ってきた様子を見て、睨んでる人間もいれば、無表情なやつもいるし、ちょっと口元をあげて歓迎の意を伝えてくるのもいる。
轡田は空いている席に着いた。
轡田を事務所で出迎えた男が席に座り「さあ、始めよう」と宣言した。
「幸徳会」のミーティングが始まった。
最初に口を開いたのは、轡田の真向かいに座っている男。武器弾薬入手の進捗状況を説明した。ことのほか順調で必要最低限の準備は整ったと締めくくった。
引き続き、戦術担当、広報担当などそれぞれの分担の活動リポートを行った。
リクルート担当の轡田は有望な人材を何人か報告した。まだ本人には確認していないが、若い戦闘員候補に目ぼしを付けたことも言い添えた。小林一郎のことだ。
歴史上、だれもやったことがないミッションを目論む団体のミーティングは和やかな雰囲気のなかで進められた。
天皇暗殺を企てる「悪の集会」ってわけだ。