パニック発作
アアア――ッ、アワワアアッ
小林一郎は突然、前かがみになり倒れ込んだ。
イタ――イ、イタタタッ、イタ――――ッ
大声で叫んだかと思うと、胸を両手で搔き毟った。背を丸めてくの字になり駐車場の地べたをのたうちまわる。
轡田は、小林の様子をうかがい、そばに膝をついた。
「具合悪いのか」
小林の全身から汗が噴き出している。顔面は蒼白だ。
轡田は小林の額に手をやり熱を測る。平熱だ。手首をとって脈を数える。おおよそ100だから、かなり頻脈だが正常の範囲内。しかし、この発汗具合は尋常ではない。芝居でできる芸当ではない。
見当識を確かめる必要がある。
「おまえ、自分がだれだか分かるか」
「小林一郎です」
「生年月日は」
「昭和44年6月21日」
意識清明。急激な発作の原因として疑われる心筋系や脳血管系ではない。
って、ちょっと待てよ、それオレの生年月日じゃん。何で知ってんだ、こいつ。まあ、いいか。
「おまえの生年月日聞いてんだよ」
「平成元年9月3日」
「救急車呼ぶか」
「いえ、結構です。ウガウガウガ、ガガガア」
「辛そうだけど、ホントに大丈夫なのか」
「はい、いつものぱに、ぱに、パニック発作です。休めば治ります」
人騒がせな奴だなあ。
轡田は、捨てて帰りたかったが同じ信者でもあるし一応気遣いの言葉を掛けてみた。
「動けるようなら、オレのレクサスで送ってやってもいいぞ」
「はい、お願いします」
ずうずうしい野郎だな、こいつ。
轡田は小林に肩を貸してやり、レクサスの後部座席に身を横たえる手助けをしてやった。
「住所言えよ」
「はい、北区本陣町1の2の13です」
レクサスはゆっくりと走り出した。
小林は、ケロッと発作が治まるのを意識したが、取りあえずじっとしていることにした。
何か大事な忘れ物、そうだ、平林と小菅を忘れていることを思い出した。でも、どうでもいいや。
平林と小菅の2人は一緒に帰ることになり、恋の火が芽生え、今夜のうちに結ばれる。そういうことにしておこう。
お幸せに。
小林以外は。