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killer elite  作者: 石田徹男
いつもお世話になっております
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いなくてもいいけど生かしといてやる

 轡田は平林の赤い唇が、子羊の肉に歯を立てるのを見ていた。渇きを覚えてワインが飲みたくなった。奥に立っているウエイターに合図すれば、好みの銘柄をすぐに運んでくれる。


 しかし、なんとなく、これから悪いことが起きる予感がする。昔から動物的に勘が鋭いカミさんが、平林の後ろにすでに仁王立ちしている、ようなイメージがかすめる。


 きょうはやめておこう。早めに家に帰った方がいい。きのうもいろいろあったし。


 轡田の気晴らしのひとつは女の尻を追いかけることだ。もちろんカミさん以外の。


 今年43になるが、パッと見、30代半ばでも通用する精悍な容貌を維持している。日サロで焼いた黒光り。ジムで鍛えた見かけ倒しのマッスル。男性ホルモンが出まくっているルックスはなにかとものを言う。仕事もできる男にちがいないと相手先が勝手に信用を高めてくれるからだ。


 定着したイメージを武器に人脈を広げていく。もちろん話術も必要だけど。


 もともと、そんなに体が強い方ではない轡田だが、事業を親父からついで、経営者として人の上に立つようになると俳優が役になり切るみたいに、体格、はては人相まで徐々に変わってきた。


 「筋肉触らせてもらっていい? わたしちょっとフェチなの」


 「かまわないよ」轡田は自信を隠してくつろいだ表情を作った。


 上腕二頭筋でも触って「すごーい」と歓声を押し殺すようにつぶやくのかと思った。轡田の予想に反して、大胸筋、腹筋、大腿筋などくまなく、じっくりと確かめるように手を押し当てる。


 ウエイターは空気を読んで奥の死角へ姿を消す。


 「男の筋肉好き?」「どうかしら、さわって嫌な気はしないから好きなのかも」


 轡田は、もらったと思ったが、またカミさんの仁王立ち「スタンド」が平林の背後に。


 あわてることはない。あしたもあさっても時間はたっぷりある。


 レクサスに平林をエスコートしていくと、男2人が車の周りでたまっている。身長184で104キロの轡田は、そのへんの店のキャッチどもがビビッて寄ってこない威嚇的な風貌だ。


 あの2人、轡田のレクサスに何か悪さしているのか。こうなると頭がスーッと冷静になり、若いころやんちゃやって体に染みついた戦闘態勢へ瞬時にモード転換する。「おい‼」アスファルトに叩きつけるように一喝。


 轡田は酔っていないのですぐ2人の正体を見破る。


 「アラララー小林少年じゃないの。もう一人はなんてったっけ? えーと小菅くん、だっけ」


 2人は突っ立たまま。


 「付けてたの、僕らのこと? 探偵団みたいじゃん。なんか悪巧みみつかった?」


 

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