蛇
―――「ひゃっはー! もう怖くねーっ! 人間殺し放題だぜっ!」
「よっしゃああああ」
「俺も殺っていいんですよね?」
「うむ。但し、油断はするな」
「はいっ!」
「遠慮はいらん、全力を解放せよ。人間どもを叩きのめせ」
『オオーッ!』―――
小林一郎は、ケータイ小説で人気ナンバーワンの作品のセリフ回しをつくづくと眺めた。小菅と一緒に「光の家」1階のロビーにあるベンチにならんで腰かけながら。
小林はスマホを持っていないので小菅からかりた。ファンタジーで検索したら、躍動感があふれる文面がすぐに出てきた。
カラフルなセリフを読んで、小林は悔しいけれどもワクワクした。
馬主の轡田は、ロビーの受付近くで引き続き平林を口説いている。尻にさわさわと手が伸びるたびに、平林は「いやだー、轡田さんんん」とまんざらでもない声を出してる。
みんな楽しそうにやっていて、いいな。
小林一郎は、馬主の轡田の黒いウワサを思い出した。
轡田は、金を持っていそうな信者にあたりを付け、金を借りまくっているという。信者同士という馴れ合いもあるのか、借金を返済せぬまま踏み倒しているらしい。
平林の体をなめまわすように這い回る轡田の蛇のような視線が、ときおり小林一郎を盗み見ている。