優しい義母と義妹に恵まれて婚約者と幸せになります
「クラウディア様、お母様をこんなに早くに亡くされて本当においたわしい。どうか私に何でも相談して甘えてくださいね」
美しい貴婦人が、私に優しく微笑みかけた。
「ありがとうございます。お義母様、とお呼びしても?」
「まあもちろんよ。そう呼んでもらえたらとても嬉しいわ」
「ではお義母様。これからよろしくお願いします」
私がぺこりと頭を下げて礼を執ると、お義母様も礼を返し、
「娘のエリーですわ。ご挨拶なさい」
と私のひとつ下のかわいらしい令嬢を紹介した。
「エリーです。至らないことが多いと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
にこっとして礼を執った。お父様に似てる気がするけど、気のせいよね。お母様とお父様は、お母様が流行り病で亡くなるまで、ずっと仲睦まじい夫婦だったし。
お父様の後妻として家に入った義母と、その娘である義妹は、とても私に優しく接してくださった。
例えば食事の時。私にだけ一品、ゼリーのようなデザートが追加された。
義母が「とてもめずらしいお菓子をいただいたの。ひとつしかないので、ぜひクラウディア様に召しあがっていただきたくて」と、にこにこと差し出したのだ。
気持ちはうれしいが、みんなを差し置いて私だけ食べることなど、申し訳なくてできない。
「そんなのだめですわ。こうして分ければ、みんなで一口ずついただけますわ」と私が四つに分けると、「あっ、めまいが」と急に立ち上がったエリーが、テーブルに乱暴に手をついたので、せっかく分けたお菓子が床に落ちてしまった。
「ごめんなさい! せっかくのお菓子が!」とエリーは謝っていたが、お菓子なんかより大事な義妹の体調のほうを優先するのは当たり前である。すぐに部屋に戻って休んでもらった。義妹は「お義姉様に…召し上がっていただきたかった…」と何度も言っていた。私も、「おいしいものは大事な家族に食べさせてあげたい」という気持ちはわかるので、「この義妹は、私を大事な家族として認めてくれているのね」とありがたく思った。
品数は一緒でも、私のスープだけ盛りが多かったり、お肉が大きかったり、トリュフが多めだったり、私のだけにお花が飾ってあったりすることがよくあった。そういう特別扱いが申し訳なくて、「育ち盛りのエリーが食べたほうがいいわ」とエリーのお皿と取り換えてあげた。
そうするとエリーは、「そ、そんな、申し訳ないです」と頑なに遠慮し、お義母様も「そうよ、クラウディア様のために、料理人が気遣ってくれたのですのに」と皿を返そうとしていた。
でも、「気持ちは嬉しいけど、私はエリーに食べてもらいたいのよ。私が特別扱いしたいのはエリーなのだもの」と譲らないでいると、エリーは涙目で「あ。ありがとうございます…でもあの、嬉しすぎて、胸が詰まって食べられません、ごめんなさい…」と言って、いつも口を付けずに退席していた。遠慮が過ぎるのも困ったものね。
またある日のこと、私は馬車でお買い物に出かけようとしていた。
ひとりで行くつもりだったけど、急にエリーとお揃いのドレスを買いたくなったので、「エリーも行きましょうよ!」とエリーを誘った。
エリーは、また頑なに遠慮していたが、強引に連れていこうとすると、「い、行くならあの! 侍女をもうひとり連れていきたいですお義姉様! 一回り大きい馬車で行きましょう!」と言った。
エリーがこんなワガママを言うなんて初めてだったので、やっと少し親しくなれたかも、と嬉しくなって、エリーの希望通りに侍女を増やし、大きい馬車でお買い物に行った。
エリーは年下だけど、私と同じような体格だったので、同じサイズのドレスが二つ仕上がった。
一緒に夜会に着ていくつもりだったが、私のドレスにだけ、目立たないようにバラの刺繍があることに気づいた。
「まあ、また特別扱いして。私はエリーと同じものが着たいのに」と思って、エリーのドレスにも同じバラの刺繍を入れるように職人に頼んだ。そうしたら、職人の腕が悪かったのか、後から頼んだ刺繍のほうが、なんだか見劣りする出来だったので、エリーのドレスと交換してあげた。
エリーは、震えながら、ドレスを体から離すように持ち、「あ、ありがとうございます、でもあの、私にはもったいなくございます。お義姉様がこちらのドレスを着たほうが…」と言っていた。「もう! ほんとに謙虚なんだから! 私はこっちの刺繍のほうがいいと思ったんだから、気にしないで着てちょうだい!」と言って押し付けた。
その後エリーは、「お揃いのドレスが嬉しくて嬉しくて、ドレスを持って庭を駆け回っていたら木の枝にひっかけてボロボロに破いてしまった」らしい。まったく、エリーったら、子供みたいなんだから。ドレスがだめになってしまったのは悲しいけど、それだけ喜んでくれたんだあ、と思ったら嬉しさが勝って、微笑ましいと思ってしまった。
それにしても、エリーにはどうも、そそっかしいところがある。
階段の上で、「あっそうだ! 今度のバザーの相談をしとかないと!」と思い出して振り向いたら、エリーが私の横から階段を落ちていった。いくら私が急に振り向いたからといって、驚きすぎじゃない?
すぐに医者に見せたから命には別条がなかったけど。
池に落ちたこともあるわ。私が池のほとりでお魚を見ていた時、エリーが池につっこんでいったのよね。私があの時、「厨房に魚料理をお願いにいこう」と移動しなかったら、一緒に落ちていたところだったわ。
私を見つけて嬉しくて飛びつきたかったらしいけど、「池の周りで飛びついたりしたら危ないでしょ」とお説教してあげたわ。ひとつしか違わないけど、私はお義姉さんだものね。
◇◇◇
夜会の日。婚約者のアラン様が迎えに来てくださった。
「クラウディア、変わりはないかい」アラン様が優しく問いかける。
「ええ。相変わらずエリーがケガしたり池に落ちたりしてるけど、私は元気よ。アラン様は?」私は満面の笑みで答える。
「私も元気だよ。クラウディアが無事ならそれだけで元気になれるよ」
などと嬉しいことをさらっと言うので、私は思わず赤くなる。
「マチルダ、ドレスは手に入ったか」
アラン様が私の侍女に話しかけた。
「はいここに」
マチルダは私の側仕えの侍女だが、もともとはアラン様に仕えていた侍女だった。
「君の側にいる人間が、少しでも私に近い人間でいてほしいから、マチルダを置いてほしい」と言われたからだ。
そしてマチルダは、私に出された食事を持ち帰ったり、私がひとりで乗る予定だった馬車を調べたり、エリーと交換したドレスを手に入れたりしていた。アラン様が「クラウディアが何を食べているか、どんな馬車に乗っているか、どんなドレスを注文したのか、なんでも知りたい」と言ったかららしい。いやん愛されすぎてて怖い。
「でもドレスなんて、今私が着ているのとデザインは一緒ですのに…」と言うと、
「君が袖を通しただけで宝物になるんだよ」と言う。
「証拠としてもね」とつぶやいたような気がするが、私はもう、アラン様の甘い言葉にドキドキしっぱなしなもんで、よく聞き取れなかった。
それにしても、この世界に転生したと気づいてから5年たつけど、こんなに幸せでいいのかしら。母が亡くなってしまったことは悲しかったけど、父も、新しくできた義母も義妹も優しいし、婚約者はこんなに私を大事にしてくれるし。本当に恵まれていると思う。
(こんなに幸せなら、ルックスとか知力とか魔力とかにも振っておけばよかったなあ)
転生チート、危険回避能力に全振りしたことをちょっと後悔したが、今が幸せならいいか、と思い直した。
たくさんの方に読んでもらえてとてもうれしいです。ありがとうございます!
調子づいて、アラン視点のものも書いてみたので、こちら↓も読んでもらえると、私がとても喜びます。
最強の婚約者
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