密着最終日
改めて、西さんに取材する機会をいただきました。待ち合わせ場所として指定されたのは、彼と最初に会ったカフェ。
待ち合わせ時間ちょうどにやって来た西さんは、想像していたよりも元気そうでした。見る限り、体調に大きな変化はなさそう。
ご両親のことなどを含め、現状について伺いました。
西「父と母は、病院で療養中です。体は、しばらくしたら良くなると思います。ただ、心のほうが何とも言えなくて。二人とも、監禁されてたときのことを思い出そうとすると、すごく動揺して何も喋れなくなっちゃうんですよね。まあ、そもそも歯がほとんど抜かれてるので、喋れたとしても聞き取れないんですけど」
ご両親が元の生活を取り戻すためには、まだまだ時間がかかりそうです。西さんご自身は大丈夫なのでしょうか。
西「僕はもう、前を向いてるつもりです。その証になるかはわかりませんが、粗末田先生に弟子入りしてから僕に起きたことを小説として発表しようと思ってます。ノンフィクション小説ってやつですね。ニュースになったので、気になってるファンも多いでしょうし、何より僕としてはすごく衝撃的な数ヶ月でしたから、小説のネタにしないのはもったいないなと思って。あと、両親の治療費も僕が全額払うつもりなので、稼がないと」
人生で起きた出来事はすべて小説のネタになる。今の西さんからは、そんな作家精神のようなものを感じます。転んでもただでは起きない。それが作家という生き方なのでしょう。特にホラー小説を執筆している西さんは、自分に降りかかった奇妙な出来事を作品のネタにしたいと強く感じるのかもしれません。
何より西さんは、自分が粗末田さんの弟子になったことで今回の事件を引き起こし、ご両親を巻き込んでしまったという負い目があり、治療費を負担することでその償いをしようと考えている様子。
西さんは現在、粗末田さんとの間で起きた出来事を整理しつつ、追加で情報収集をしているとのこと。今回の密着取材の記録も提供してほしいと言われました。
西「一連の事件を小説にまとめるなら、僕だけじゃなく粗末田先生が考えていたこととか、やったこととかも把握しないといけません。僕が知らないことも多いと思うので、先生に密着していたときの記録をいただきたいんです。でも、粗末田先生が僕の両親を拉致したときとか、監禁中に暴行していたときとかまでは密着できてませんよね? ……今の両親は満足に喋れませんから、そのときのことは、やっぱり先生本人の口から聞くしかありません」
裁判を待つ粗末田さんは、拘置所の中にいます。西さんは彼女から話を聞くため、すでに拘置所へ足繁く通って面会を希望しているそう。
西「でも、先生から面会の許可が下りなくて。話を聞くのに時間がかかりそうなんですよね。……小説にできれば、かなり売れると思うんですよ。そのためには、先生の話が絶対に必要なのに……。先生も作家ですから、そのあたりの嗅覚は持ってると思うんですけどね。協力してくれないかなあ」
粗末田さんとなかなか面会できずにいる西さん。彼女としては、話したくないこともあるのでしょう。それでも西さんは、小説を完成させるために諦めません。
西「師匠が弟子に嫉妬して、復讐心からその両親を拉致して暴行する……。こんな面白いネタ、ボツにできるわけないじゃないですか。確かに、このことを小説にして世間に公表すれば、先生の地位は完全に失墜すると思います。二度と社会復帰できなくなるかもしれません。けど、散々僕のことを養分にしてきたんだから、僕が先生を養分にしても文句は言えませんよね?」
西さんが望むような小説は、無事完成するのでしょうか。続報をお待ちください。
<了>




