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焔の契り~騙せない妖狐の初恋譚~  作者: 佐東 利里子
◆2章

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あやかし祓いの目的 (2)


 意識を失っている間も含めて一日以上人間の姿を保てているのは、相当妖力が回復しているとしか思えなかった。環自身の自己回復もあるだろうが到底それでは足りない。

 不足分を補うために無意識に人間の精気を得ていたとすると、相手の身体に相応の負担がかかっている。それに気付いた環は取り乱したかのように男性の身体を触って確かめたのだ。

 だけどどういうわけか、男性の容体には影響が見られない。謎ではあるが、環にとっては人間の命を脅かすという最悪の事態を免れたのが救いだった。

 

「本当によかった、何ともなくて……」


 胸の前で握った手が震えていた。環は背後にそれを隠そうとするが、男性に手を掴まれて叶わない。戸惑う環を余所に、男性は自身の胸に環の手のひらをぴたりとくっつかせた。

 心地よい鼓動が手のひらに伝わってくる。彼が生きていると、やけに意識させられているような気がした。


「あ、あの?」

「君は変わってるね。精気を奪った人間を心配するなんて、本当に妖狐らしくないよ」


 男性が面白がるように口角を上げる。するとその直後、花が綻ぶように精気の光が男性の身体を覆い始めた。その量は手を掴まれたままの環までもを包む勢いで、今まで目にしたことある人間の精気とは比べ物にならない濃密さだった。

 この距離でこれほどまでの精気を浴びたら、嫌でも環の身体は吸収してしまう。妖狐にとっては据え膳の状態だったが、環は狼狽えながら今すぐ離れようとした。

 しかしなぜか、男性は手を離してくれない。もう片方の手で男性の手を引き剥がそうとすると、さらにそっちまで掴まれてしまった。もはや拘束されて動けないようなものだ。


「ちょっ、何してるんですか!? 手を離して!」

「こんなにも精気が目の前に溢れてるのに、君は吸わなくて平気なの?」


 動揺する環とは違い、平然と男性は問いかけてくる。その言葉で、環の中で引っ掛かっていたことが確信に変わる。


「あなたまさか、わざと精気を出してるんですか?」


 今、環は男性を騙しているような状況ではない。あやかし祓いが妖狐の環に簡単に隙を作るとも思えない。それなのに精気がここまで溢れているのは異常事態だった。

 訝しがる環に、男性はしたり顔で頷いた。


「なっ、何がしたいの? 私のことを試してるんですか?」

「試してるというか、単に興味はあるよ。昨晩といい、君は人間に敵意を向けても直接的な悪意は向けてこない。今だって、本気でやろうと思えば僕を惑わせられるだろう? 目の前にこれだけ精気があるんだから、一瞬で僕を上回れる妖力も手にできるよね」


 必死に腕を伸ばして距離をとっていた環を引き寄せるように、男性は環の手を掴んだまま踏み出してきた。

 うっかり密着してしまわないように、環は同じ歩幅で下がる。それでもじわじわと身体に温もりが浸透してくるのを感じて焦る。

 意思と関係なく精気に触れているだけでを取り込もうとする自身の身体にも、実質試し行動をしている目の前の男性にも、何だか腹が立ってきた。

 人の気も知らないで勝手なことしないでほしい。


 環は男性を見上げて睨む。彼の目線が自分の顔に向いているのを確認すると、環は目線をそのままに思い切り男性の脛を蹴った。


「いってぇ!」


 さすがに予想だにしなかったらしく、男性が痛みに叫んで飛び上がると同時に環の手が離された。その拍子に男性を突き飛ばしてから部屋の扉まで走るが、出ようとしたところで厄介な問題に突き当たった。


「嘘でしょう、結界が張られてる……」


 露骨に環の表情が曇る。

 扉自体に錠は取りつけていられない。だけど妖力に似ているが少し雰囲気が異なる力が、扉を塞ぐように纏っていた。おそらく、男性の異能の源である力だろう。環がこうして逃げるのを見越していたのかもしれない。

 結界は環も張れるが、これを破れるかはわからなかった。一か八かで丸いドアノブに手をかけて、自身の妖力を扉に流し込む。しかし流したそばから男性の力に飲み込まれてしまい、環の妖力では敵わないのは明らかだった。


 肩を落とし、大袈裟に鼻から長く息を吐き出す。のろのろと振り返ると、男性は近くのソファーに腰かけて脛を擦っていた。そのくせ余裕の笑みを浮かべて環を見ているから嫌になる。どうせ、精気も吸わずに破れない結界に挑む環を面白がって見ていたに違いない。

 とりあえず精気の光が消えていることには安堵しつつも、結界を破れず一人で逃げることもできない自身の妖力の弱さに辟易した。妖力の弱さがここで足枷になるなんて……。

 強がって、唇を尖らせながら男性を睨んだ。


「……ここまでして、あなたは私に精気を吸わせたいのですか? 変わった人ですね」


 環に対して変わっていると言っていたが、彼も大概だろう。精気を奪うあやかしの前で自ら精気を出すなんて、正気とは思えない。否定はされたが、試す以外の理由は見当もつかなかった。

 きっと精気を吸えば、人間を害すあやかしとみなされて祓いの対象になるのだろう。昨晩に見逃されたのは、あくまでもあの場で男たちに外傷を負わせなかったからだと思う。


「その言い方だと心外だな。まるで僕が好んで精気を吸われたがってるみたいじゃないか」

「ほぼそうでしょう」


 遠慮なく言い返す環に、男性はわざとらしく肩を竦めた。


「さすがにそれは否定させてほしいな。あと、ちょっとからかいすぎたね。ごめんごめん」


 へらへらと笑いながら軽い言葉で謝られても環の気は晴れない。


「興味があったのは本当だよ。あまりにも君の人間に対する態度が、あやかしらしくないからね。どうしてそこまで精気を拒むのか気になっただけさ」

「そんなの……聞いてどうするんですか。そういうあやかしなら妖力も弱いから見つけたら祓いやすいって、情報を仲間に伝えるつもりですか」


 正直、目覚めたのが客室だと理解したときにほっとしていた。昨晩出会ったあやかし祓いは、本当に他のあやかし祓いたちから自分の存在を誤魔化してくれたと想像できたから。

 しかしそれだけで簡単に彼を信用しすぎていたのかもしれないと、環は自嘲しながら思った。


「……妖力が弱いからって舐めないでください。精気を吸わなかったのは、必要ないと思ったからです。あなたが私に危害を加えるつもりならいくらでも精気を奪うし、妖術だって容赦なくかけます」


 精気を求めていないのは事実だったけど、後半ははったりをかましただけだ。この男性が相手なら、これぐらいの見栄を張った方が話が通じそうな気がした。


「……いいね、この状況でそこまで言える度胸もあるのか」


 環の態度に好感を抱いたのか、男性は嬉しそうに笑った。


「やっぱり、君を連れてきたのは正解だったな」


 次いでそんなことを言いながら立ち上がった。警戒して身構える環の脳内に疑問が浮かぶ。ここに連れてこられたのは、ただ逃がしてくれたわけじゃないのか……。


「……何が目的なの?」

「僕と、取引しないか?」


 男性が一歩近付いてくる。環は後ろに下がったが、すぐに部屋の扉に追い詰められて逃げ場を失ってしまった。


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