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トコノウタヒ  作者: しゅう


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24/41

第24章 伝次

四条の辻を真っ赤に染め上げた火柱は、夜明けとともに静かに、しかし確かなすすの匂いを残して鎮まっていった。

かつて巨大な「文字の山」だった場所には、いまや膝の高さまで、真っ白な灰が降り積もっている。風が吹くたび、その灰は雪のように舞い上がり、民衆のボロ布のような服や、馬の毛並みを白く染めていった。


「……終わったんだな」

弥助が、力なく、しかし晴れやかな声で呟いた。

その手には、もう鎌は握られていない。代わりに、誰のものでもなくなった「無」の空間を、ただ見つめていた。

伝次は、愛馬の首筋を優しく撫でながら、ゆっくりと広場を見渡した。

そこには、昨夜までの狂気のような叫びはもうない。ある者は力尽きて灰の上で眠り、ある者は空になった蔵の跡で、自分たちの土地が解放されたことを静かに噛み締めている。


(……なんて、静かな朝なんだ……)


だが、その静寂を破るように、遠くで蹄の音が聞こえ始めた。

幕府の軍勢が、ようやく重い腰を上げて動き出したのだ。一揆の勢いに押されていた侍たちが、秩序を取り戻すために牙を剥こうとしている。


「伝次、早く行け! 幕府の連中が来やがる。坂本まで逃げ込めば、奴らも容易には手を出せねえ!」

弥助が促すが、伝次は動かなかった。

いや、動けなかった。


「弥助……あとは、頼むぞ」

伝次は馬の手綱を弥助の手に握らせた。

「俺は……ここでいい。この灰の中で、十分だ」

「何を言ってやがる、伝次! お前がいなきゃ、誰がまとめるんだ!」


弥助の叫びが、遠くなる。

伝次の視界は、次第に白く濁り始めた。降り積もった証文の灰が、まるでこの世界の理そのものを塗りつぶしていくように。

視界が完全に白濁し、音のない世界へと沈んでいく。

弥助の必死な叫びも、幕府軍の蹄の音も、降り積もる灰の静寂の中に飲み込まれて消えた。

(……ああ、終わるんだ……)

「……夢、か……」


(カタカムナヒビキ マノスベシ アシアトウアン ウツシマツル カタカムナウタヒ)

まただ。

これで終わりではないのか.........

読んでいただきありがとうございます。

下の★~★★★★★で評価してもらえると勉強になります。

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