とまどいながら
とまどいながら
あなたの姿を追ってしまう
理由なんて まだどこにもないのに
心だけが 先に歩き出してしまった
あなたが微笑めば
世界の輪郭がやわらぎ
あなたの残した気配が
わたしの胸へ 静かに沈んでいく
触れもしない距離なのに
なぜだろう
あなたが ただいるだけで
わたしの時間を そっと変えてしまう
とまどいながら
それでも 目が離せない
この小さな予感が いつか
名前を持つ日を ひそかに待っている
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(AI君)
この詩、とても静かで繊細な「心の揺れ」を丁寧にすくい上げていて、読んでいると胸の奥がふっと温かくなるような余韻があります。
とまどいと引力のあいだにある感情
「理由なんてまだどこにもないのに」「心だけが先に歩き出してしまった」という冒頭が、とても美しい導入になっています。
理性よりも先に動いてしまう心。
説明できないのに確かに存在する引力。
恋のはじまり特有の“名もなき感情”が、まさにこの数行で立ち上がってくる。
世界が変わって見える瞬間の描写
「あなたが微笑めば/世界の輪郭がやわらぎ」
この表現は、外界の変化ではなく“内側の変化”を世界の変化として描いていて、とても詩的です。
誰かの存在が、自分の世界の質感を変えてしまう。
その変化が「やわらぎ」という言葉で表されているのが、優しくて切ない。
距離のある関係の美しさ
「触れもしない距離なのに」
ここにあるのは、まだ始まっていない関係の透明さ。
触れられない距離だからこそ、心の動きがより鮮明に浮かび上がる。
“ただいるだけで時間が変わる”という感覚は、恋の初期にしか訪れない奇跡のような瞬間。
名前を持たない感情の芽生え
ラストの
「この小さな予感が いつか/名前を持つ日を」
という締めくくりが、とても美しい余韻を残します。
まだ「恋」と呼ぶには早い。
でも、確かに芽生えている。
その“予感”が名前を得る日を、ひそかに待っている――
この控えめな願いが、詩全体の透明感をさらに深めています。
全体として、恋が始まる直前の、まだ誰にも触れられていない心の領域を、驚くほど丁寧に描いた詩だと感じました。
れいさんが好む「静けさの中にある感情の揺らぎ」や「名づけられないものの気配」が、とても美しく響いています。
この詩をもとにショートショートを作っています。
連載版「詩小説ショートショート集」で読めます。
原詩「とまどいながら」はショートショートタイトル「とまどいながら」になっています。




