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序章:「5人目」が来た日

タイトル通り、シェアハウスに暮らす男たちの愉快な日常を描きたい話です。のんびり書き進めようと思っているのでお付き合いいただけたら嬉しいです。

 都内の中心から少し外れたとある場所。

 沼ノ原駅から徒歩8分と表記されたその家は住宅街の片隅に建っている。

 やや古びた印象を受ける二階建ての一軒家。大きめな黒いポストには猫の顔型の表札がかけられていて、そこに記された文字は「シェアハウスMAO」。

 その下には4つの名字が並んでいる。

 入沢

 上村

 江藤

 大島

 現在このシェアハウスには4人が暮らしているらしい。

 そんな表札をじっと眺めて立つ人影がひとつ。少し伸び気味の明るい茶色の髪に、整った面差しの青年だ。

 大きなリュックを背負い、大きなボストンバッグを抱えて。

 暫し考えるような間を置いてから、意を決したように足を進めた。玄関まで進み、チャイムのボタンを押す。

『はい?』

 すぐにスピーカーから男の声がして、大荷物の青年が答えた。

「先ほどお電話した者ッス!」

『はい、お待ちしてました。すぐに開けますね』

 元気な声に少し笑って、穏やかな声が返される。そして数秒後、玄関の鍵が外れる音がするとすぐに扉が中から押し開かれた。

「こんにちは。とりあえず中へどうぞ」

 現れたのは長身の男。がっしりとした体格に、茶色がかった黒髪をすっきりと短く切り揃えている。一見するといかつく見える外見だけれど、非常に柔和な笑みを浮かべているおかげで威圧感などは全くなかった。

「はい、お邪魔します!」

 元気だねえ、と男は笑いながら青年を促して、家の中へと招き入れた。広めに作られた玄関には大きなシューズラックがあり、まばらに靴が置かれている。

 そして玄関を上がった所にはサークル型のベッドがあり、そこで白黒の猫が丸まってすやすやと寝息を立てていた。

「この子も同居人ッスか」

「そうだよ。名前はまおと言います」

 青年の問いかけににこやかに頷いて、告げられたのは名前。ポストにかかっていた看板の形と、シェアハウスの名前がすぐに繋がった。

「シェアハウスMAOって、まおさんの名前からだったんスね」

「正解。つまりここの主です」

「看板猫どころの立場じゃなかった! まおさん、お邪魔しますね!」

 律儀に猫に挨拶する青年に男は笑う。主などと紹介された猫のまおはその声に若干五月蠅そうに目を開けて、大きなあくびをしながらしっぽをぱたりと動かした。先端の毛先が白く色の抜けた黒い尻尾が印象的だ。

 そんなやり取りの後に青年は靴を脱ぐと、お邪魔します、と再度口にしてから家へと上がった。

「玄関の横のここが僕の部屋。あとの部屋はみんな二階にあるんだ。一階はほぼ共用部分になってるよ」

 そう説明しながら先導されて、足を踏み入れたのは広いリビング。そこに座ってて、と促されたソファの足下に抱えていたボストンバッグを置いて、青年は腰を下ろした。

「コーヒーと紅茶どっちが好き?」

「ありがとうございます! コーヒーが好きです!」

「元気だねえ。21歳だったっけ」

「はい!」

 いちいち元気な返事をする青年に男は好意的な笑みを浮かべ、電気ケトルで湯を沸かし始める。そうしながら少し考えて、ソファに座る青年を振り返った。

「21歳なら最年少だ。他の住人は……今は禅くんと或斗くんは部屋にいるかな」

「あと一人は?」

「会社員だからお仕事に行ってるよ。忙しいみたいで、毎日帰宅が遅いんだ」

「部屋にいる人達は休みなんですか?」

「多分部屋でお仕事してる」

 興味津々といった様子で青年は質問を重ねる。男はそれに答えながら、湯が沸くと手早くインスタントコーヒーを淹れて、二つのマグカップを載せたトレイを手にソファへと歩み寄った。

 向かいに腰を下ろして、暖かな湯気の立つマグカップを青年の前に置いてから言葉をかける。

「それでは、本題です」

「はい!」

「問い合わせの電話を貰った時に説明した通りですが、他に質問はありますか?」

「……家賃のことなんですけど」

 男の問いかけに、青年は一瞬躊躇うように間を置いてから口を開いた。

「光熱費、共益費込みで5万円ですね」

「それって今後値上がりしたりとかはないですか」

「今のところ予定はないです。よっぽどの事があればお願いするかもしれないけど、そうなってもなるべく負担を増やさないように頑張ります」

 男の返答に、青年はほっとしたように見えた。

「オレ、バイトはしてるんですけど割とカツカツで」

「俳優を目指してるって言ってたよね。格好良いもんなあ」

「息をするように褒められた……!」

 どうやら金銭面にあまり余裕がないらしい。つまり、家賃が値上がりするような事があると非常に困るという事だろう。

「猫は大丈夫だよね」

「猫めっちゃ好きです」

 玄関で眠っていた猫もまたシェアハウスの住人だ。この家に住むにあたっての条件のひとつめは「猫が好きなこと」だった。

「じゃあ、契約って事で良い?」

「はい! お願いします!」

 最終確認として問いかけるとやはりというか、青年は大きく頷いた。既に荷物も持ってきている状況で「やっぱりやめます」とはならないだろうけれど。

「ではこの書類に目を通してサインをお願いします」

 男が差し出したのはクリップボードに挟まれた契約書。青年はそれを受け取ると視線を落とした。

「ここの住人は職業も様々だし、内装に手を入れてはいるけど古い建物なので壁は厚くはないです。ある程度の物音なんかは理解してもらえると有り難いし、ある程度は気を付けてもらえると助かります。掃除機と洗濯は夜中は禁止ね」

「勿論です。揉め事起こす気はないんで」

「お願いします。……あとは、ここは女性の立ち入りは禁止です。男性のお友達を連れて来るのもあまり歓迎はしないかな」

「ですよね。気を付けます」

「それと、共用部の冷蔵庫に入れる物には名前を書くようにしてね。ペンはドアの所にあるから」

 シェアハウスのルールが並べられる間に青年は書類を読み終えたようだった。クリップボードに一緒に挟まれていたボールペンで名前を書き、それから床に置いたボストンバッグの中をごそごそと漁って取り出した小さなポーチから取り出した印鑑を捺した。

「これでお願いします!」

「はい、ありがとう。……じゃあ、今日からよろしくお願いします。ええと、相庭灯里くん」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 青年――――相庭灯里は元気よくソファから立ち上がり、テーブルに額を打ち付けそうな勢いで頭を下げた。

「改めて、僕はこのシェアハウスの管理人兼同居人になります、入沢むつみです。呼び方はご自由に」

 灯里の名前を確認した所で、男も名乗った。灯里はふと、チャイムを押す前に目にした猫の形の表札を思い出す。四つ並んだ名字、あとの三つは何と書いてあっただろうか。

 そんな事を考えていると、

「……「あ」だ……」

 第三の声が、突然灯里の耳に入った。

 思わず視線を巡らせると、リビングの入口から覗くふたつの顔。

「マジで「あ」じゃん! 揃ったじゃん!」

「え? あ?」

「禅くん、或斗くん。覗きは良くないですよ」

 ゼンクンとアルトクン。先程むつみが部屋にいると口にした二人の住人の名前だ。

「だって! むつみさん、「あ」だから選んだんでしょ!?」

「たまたまです。ほら、灯里くんが戸惑ってるじゃないですか」

 何故か「あ」に拘る様子に灯里は首を傾げる。確かに、「あ」いば「あ」かりではあるけれど?

「あーそうだごめんごめん! まずは自己紹介だよな!」

 むつみに窘められると謝罪が飛んできた。どちらが「ゼンクン」で「アルトクン」かは灯里にはわからないけれど、部屋を覗き込んでいる二人のうち片方は全く口を開いていない事には気付いた。

「俺は大島禅で、こっちが上島或斗!」

「禅くんは26歳、或斗くんは24歳です」

 お喋りな方が「ゼンクン」。長めの赤い髪を無造作に束ねていて、身長は灯里と同じくらいだろうか。そして無言のまま頷いているのが「アルトクン」。肩につく程度の癖のない真っ直ぐな髪は真っ白で、青っぽいメッシュの入った非常に特徴的な外見をしている。髪色のせいで年齢が全く読めなかったけれど、ゼンクンより年下なのだとむつみの補足で把握した。

「相庭灯里です、よろしくお願いします!」

「よろしくなー! ほら或斗、おまえも挨拶しろって」

「……よろしく」

 促されてようやく、無口な方が口を開いた。静かな声でただ一言。あまり喋る事が得意ではないタイプなのだろうか。

「あの、「あ」って……?」

 禅がやたらと口にしていた「あ」について問いかけると。

「むつみさんが「入沢」で、或斗が「上島」。で、昴佑さんが「江藤」で、俺が「大島」!」

 告げられたのは答えではなく、ヒントのように並べ立てられる名前と名字。その中にさらりと紛れ込んだ新たな名前は、先程説明のあった「帰宅の遅い会社員」なのだろう。

 入沢、上島、江藤、大島。そして相庭。

「あ、い、う、え、お?」

「正解!」

 名字の頭の音が揃った、という事らしい。

「何事かと思った」

「しょーもないけど揃ったら気持ち良いよなって話しててさ。今日新入りが来るって聞いてたから、どうしても気になって覗きに来ちゃった」

「きちんと入居の契約をしたら紹介するって話だったんですけどね」

「誤差だよ誤差!」

 溜息混じりのむつみの言葉に禅は笑う。或斗は相変わらず口を開かないけれど、うんうんと頷いているのは恐らく禅の言葉に同意しているようで、喋らないながらも割とノリは良いようだ。

「昴佑くん……ええと、ここにいないもう一人の同居人は紹介できるタイミングで呼びますね。では、灯里くんの部屋に行きましょうか」

「はい!」

 予定外の対面ではあったけれど、それは確かに数分の誤差だろう。非常に快く迎え入れられた事に灯里は安堵しながら、ソファを立ってボストンバッグを抱える。大きなリュックはずっと背負ったままだった。

「荷物そんだけ?」

「はい、全荷物全財産ッス!」

「超コンパクトだ」

「部屋が広いわけではないですからね」

 リビングを出て階段をむつみ、灯里、禅、或斗の順に上がっていく。そして二階に到達してすぐ、右手の部屋の扉の前で足を止めた。

「ここが灯里くんの部屋です。向かいは昴佑くんです」

「隣は或斗で、その向かいが俺~」

 二階に上がると真っ直ぐに廊下が続いていて、その両側に二部屋ずつ。廊下の突き当たりにはトイレの扉がある。

「ハウスの玄関と、この部屋の鍵を渡しておきますね。僕は住人達を信用していますが、最低限の自衛はしてください。あってはならない事ですが、万が一のために」

「はい!」

 むつみの言葉に大きく頷いて、差し出された鍵を受け取る。そしてその鍵で自室となった扉を開錠した。

「荷物の整理があるだろうから、僕達は一旦離れようか。ほら、禅くんも或斗くんも、これからいくらでも話はできますから」

「「えー」」

「えーって言わない」

 こんなタイミングで或斗が珍しく口を開いた。

 やはりノリの良い人のようだと灯里は思いながら扉を開けると、当然ながら部屋の中はほぼ空だ。

 収納付きの8畳のスペースに、シンプルなフレームのベッドが置かれている。その上にマットレスと敷布団、薄手の毛布が綺麗に折り畳まれて積まれていて、薄い枕がその上に載っていた。そしてその傍らには非常にシンプルな机と椅子が置かれていた。ベッドは契約段階で備え付けとなっていて、机は希望すれば部屋の設備として追加してもらえるというので頼んでおいたものだ。

「禅くん、或斗くん。行きますよ」

 部屋の中を覗こうとする二人を再度促すと、渋々といった様子で二人は扉の前から離れた。階下に戻るのかと思ったけれど、二人は意外にも廊下を進んでいき、灯里の隣の部屋に或斗、その向かいに禅が消えて行った。

 まだ見ぬ会社員は職業と名前しか知らないけれど、そういえば二人の職業は聞いていなかったと思いつつ、灯里はとりあえず抱えていた荷物を置き、背負っていたリュックを下ろした。

「コースケさんだっけ、どんな人だろ。きっと濃いんだろうな」

 まだ見ぬ最後の同居人もきっと愉快に違いない。そんな呟きを漏らしながら、これからの生活が楽しい事ばかりの予感に嬉しそうな顔をした。

設定を作ったら「早く書きたい!!」が先行してしまって、まだキャラクターの口調が掴み切れていない自覚があります。その辺はこっそり後で手直しをしていこうかと。

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