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その日の夕刻、二人は神殿の周囲を調べながら歩いていた。
赤く染まった空の下、風が唸りをあげて砂を巻き上げ始める。
「……まずい、砂嵐だ!」
バルドの声と同時に、視界が茶色の壁に覆われる。
沙耶は必死に顔を覆い、風に踏ん張った。
しかし――足元の砂が崩れた。
「きゃっ!」
身体が下へと引きずられる。
バルドがすぐさま手を伸ばし、沙耶の腕を掴んだ。
「離すな!」
ぐいと引き上げられ、彼女は辛うじて地面に転がり出る。
崩れた場所は深い穴になっており、底は闇に沈んでいた。
沙耶は震える息を吐きながら、穴の縁に身を乗り出す。
「……これ、落とし穴……? でも、自然に出来たものじゃない。壁が均等に削られて……人為的な構造だわ」
彼女の瞳は恐怖と同時に輝きを増す。
「ここ、もしかしたら地下通路の入口かもしれません!」
バルドは呆れたようにため息をつく。
「落ちかけて死にかけて、よくそんなこと言えるな」
「だって、ここにしか残っていない“真実”なんです」
彼女の瞳の熱を見て、バルドはしばし言葉を失った。
次の瞬間、思わず笑い声を上げる。
「……お前、やっぱり面白ぇ女だ」