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2


 やがて一行は、王都の外門へと辿り着いた。

 巨大な城門の前には、砂漠から流れ込む商隊、遠方からやってきた旅人、そして兵士たちが入り乱れ、喧騒の波が広がっていた。


 色とりどりの布をまとった商人が声を張り上げ、荷馬車の荷を検める兵士が鋭い視線を走らせる。

 沙耶はその光景に思わず目を輝かせた。

 これこそ“歴史が積み重なって生きている瞬間”だったからだ。


「身分証を見せろ」

 門番の兵士がバルドたちの前に立ちはだかる。


 バルドは革袋からギルド証を取り出し、無言で突き出した。

 兵士はそれを検め、わずかに頷く。

 フィリクスも懐から紋章入りの書簡を差し出した瞬間、兵士たちは態度を変えた。


「これは……王立学院の印章! 失礼しました、どうぞお通りください!」


 周囲の旅人たちがざわめく。

 王都の権威を背負う学者と知れれば、兵士たちも逆らえないのだ。





 門をくぐった瞬間、沙耶は息を呑んだ。

 目の前に広がるのは、砂漠の中とは思えぬ豊饒な都。


 石畳の大通りには屋台が並び、香辛料や果物、異国の織物が彩りを競っている。

 空には色鮮やかな布が張り渡され、陽射しを和らげると同時に幻想的な光景を作り出していた。

 街角では吟遊詩人が竪琴を奏で、子どもたちが駆け回る。


「す、すごい……」

 ティオは完全に目を回し、キョロキョロと首を動かしている。

 沙耶も胸が高鳴るのを抑えられなかった。

 まるで歴史の中を歩いているような感覚。


 だが一方で――

 街の陰には、痩せこけた人々や、薄汚れた格好で物乞いをする姿もあった。

 活気と繁栄の裏に潜む貧困の影。

 沙耶はその対比に胸がざわついた。





「まずは王立学院へ行くぞ」

 フィリクスが迷いなく歩き出す。


「おいおい、王都に着いたばっかで休む暇もねぇのか?」

 バルドが呻くが、フィリクスは振り返らず答える。


「学院には今回の報告を上げなければならないし、君たちも紹介しておいた方がいい。

 特に……沙耶、君はな」


「わ、私?」

 突然名前を呼ばれ、沙耶は思わず足を止めた。


「君の知識と観察眼は、学院でも類を見ない。

 だが同時に“異端”だ。正式な場で立場を得なければ、盗掘団のような輩に狙われるのは目に見えている」


 フィリクスの声音は冷静だったが、その奥には奇妙な熱があった。

 沙耶は驚きつつも、その言葉が彼なりの信頼の証であると感じて頷いた。





 学院へ向かう途中、沙耶は背後に奇妙な気配を感じた。

 人混みに紛れて視線を送ってくる誰か。

 盗掘団の残党か、それとも別の勢力か。


 ちらりと振り返ると、黒いフードをかぶった人物が群衆の中に紛れ、こちらを見ている。

 目が合った瞬間、相手は人込みに消えた。


「……今の、気のせい?」

 沙耶の胸に冷たいものが走った。


 バルドは周囲を鋭く睨みながら低く呟いた。

「油断すんな。王都には砂漠よりも多くの影が潜んでる」





 やがて、王都の中央にそびえる巨大な建物が姿を現した。

 白亜の石造りに、精緻なレリーフが刻まれた壮大な門。

 それが――王立学院だった。


 沙耶はその荘厳さに息を呑む。

 ここでなら、この世界の歴史と秘密にさらに迫ることができるかもしれない。

 だが同時に、彼女は直感していた。


 この学院こそが、新たな冒険と陰謀の舞台になるだろうと。

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