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3

 砂漠の夜は長く、冷たい。

 やがて東の空が淡い群青へと染まり始めたころ、夜の帳は少しずつ薄らいでいった。

 それは新しい一日の訪れを告げるはずの光だったが、そこに潜む気配は決して穏やかなものではなかった。





 交代で見張りを続けていたバルドは、夜明け前の空気の変化にすぐ気づいた。

 風の流れが変わった。砂の鳴る音がかすかに重くなった。

 まるで、砂丘の向こうに何かが潜んでいるかのように。


「……おい、起きろ」


 彼は声を落として仲間を呼ぶ。

 沙耶もフィリクスも目を開き、ティオは寝袋の中で跳ね起きた。

 エリュシアだけは最初から気配を察していたのか、静かに立ち上がっていた。





 その時、朝焼け前の薄闇の中に――黒い影がいくつも浮かび上がった。

 砂丘の稜線を越えて、数十人規模の人影がこちらへじわじわと近づいてくる。


 盗掘団だ。

 昨日退けたはずの彼らが、夜陰に紛れて再び迫ってきたのだ。

 しかも、今度は前よりも人数が増えている。


「ちっ、仲間を呼んできやがったか」

 バルドが低く唸る。


「昨日の敗北を晴らすつもりでしょうね」

 フィリクスが冷静に言い放ったが、その声は少し震えていた。


 沙耶は唇をかみしめる。

「……まだ、神殿の奥の真実を知られちゃいけない。あれは、彼らの手に渡っちゃダメ」





 ティオは震える手で小さな短剣を握りしめていた。

 彼にとって武器を持って戦うことはまだ現実感がなかった。

 だが、それでも瞳の奥に宿る光は、昨日までの少年とは違っていた。


「……僕、逃げません。沙耶さんを守るって決めたんです」


 その言葉に、バルドが振り返り、にやりと笑った。

「そう言えりゃ上等だ。腰を抜かしても、仲間の背中だけは見失うな」


 ティオは強くうなずいた。

 震えは残っていたが、その震えさえも決意の一部に変えていた。





 エリュシアは焚き火の残り火にそっと手をかざし、淡い光を散らした。

 その光は砂の上に流れ、まるで結界のように周囲を覆う。


『……人の子らよ。試練はまだ終わらぬ。

 闇を拒み、光を選ぶのはお前たち自身。』


 彼女の声は静かで、それでいて胸の奥に響いた。

 沙耶は拳を握りしめ、仲間たちに告げた。


「行こう。今こそ、誓いを証明する時だ!」





 東の地平線が、ついに黄金の光を放ち始めた。

 太陽の一筋の光が、まるで神殿の碑文のように砂丘を照らし出す。

 その光の中で、沙耶たちは立ち上がった。


 バルドは剣を抜き、フィリクスは魔法の詠唱を低くつぶやき、ティオは必死に足を踏ん張る。

 沙耶は背負っていた古文書を胸に抱え、心の中で自分に言い聞かせた。


(これは戦いじゃない。真実を守る戦いだ。学者の誓いを、ここで示すんだ……!)


 夜明けの砂漠に、仲間たちの影が長く伸びる。

 その前方で、盗掘団の影もまた、容赦なく迫り来る。


 光と闇が交わる瞬間――彼らの誓いは、試されようとしていた。


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